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エレシアス  作者: 青白 朱玄
第一章 動き出す運命
17/33

13 探検隊の結成

 「……明日から夏期休暇に入りますが、時間はあっと言う間に過ぎ去ります。思い出や経験を積み、成長した皆さんと二ヶ月後に会える事を楽しみにしています」

「クルセトン校長先生、有り難うございました。それでは、以上をもちまして終業式を終わります。生徒の皆さん、二ヶ月後に元気な姿で会いましょう!」

 ウィラティスにザックが来てから二ヶ月が経とうとしていた。明日から七月を迎えるウィラティスはどの学校も夏期休暇に入る為、生徒達は来る休暇に心を躍らしていた。ザックもアーカデム魔法学校の終業式に参加したが、パルドとピティアは別の用事で終業式には参加していなかった。

 終業式が終わり男子寮に戻ろうとしたザックは、猫の鳴き声が背後から聞こえた為後ろを振り返ったが、猫は見当たらなかった。気のせいかと思い男子寮に向かおうとすると、又もやニャーと聞こえた為、ザックは再び後ろを見ると、地面に影が蠢いていた。影を纏う者(ジャルベナー)と思ったザックは小杖を構えたが、影は猫の形を作ると、二つの球体が影の中で瞬いた。

「君は若しかして、影を纏う者(ジャルベナー)の手下なのかい?」

どうやら見当違いだったらしく、影からシャーッと声が帰ってきた。

「じゃあ、君は何者なんだ?」

影は返事もせずにザックから数メートル距離を取ると、再びニャーと鳴いた。

「付いて来いって事かな?」

 ザックが影の跡を追っていくと、見慣れない部屋の前で影は止まった。ザックは恐る恐るドアを開け、中に入った。その部屋の中央の床下には魔法円が描かれており、純白な大理石で出来た白鳥の石像、漆黒の黒曜石で出来た黒鳥の石像、そして御影石で出来た見た事が無い鳥の石像が魔法円を取り囲むようにして飾られていた。影は魔法円の中央に進むと、突如として魔法円が光り出した。

「あの魔法円の中に入れば良いんだね?」

ザックは光る魔法円の中に入ると、三羽の鳥の石像がまるで生きているかの様に羽撃きをした。すると、部屋中に突風が巻き起こり、魔法円の中に入っていたザックは部屋から姿を消した。

 ザックが再び目を開けると、別の部屋にいる事に気づくのに時間は掛からなかった。

「これで、全員が揃いましたね」

ザックが声のする方へ目を遣ると、クルセトン校長が机に乗っている黒猫を撫でていた。

「クルセトン校長!? 此処は何処ですか?」

「此処はアーカデムの校長室です。ルクスに連れてくる様に頼みましたが、上手くいったみたいですね」

部屋を見渡すと、ザックの他にも見覚えのある生徒や先生達、それに背広を着た男性がザックの方を注視していた。

「パルドにピティア、それに――リオスタス学園長にメルフィン先生、ジェロ、リザル、スタンまで!?」

「ザック、こっちの席が空いているから座れよ」

パルドの勧めでザックはパルドの隣の席に座った。傍には学園長とオブスが座っており、後ろの席のジェロがザックに手を振っていた。

 「それではザックも来たことだし、本題に入るとしよう。ザック、君には大地の杖を探す旅に出て貰いたい。勿論、君一人だけではなく他の生徒達も一緒だ」

学園長の言葉にザックは面食らった。

「ええっと、大地の杖って何ですか?」

「此処から先は、私から話しましょう」

 クルセトン校長は一冊の分厚い本を手に取り、語りだした。

「昔々、ルーフォ、ダルボジオスと言う二人の男がいた。ルーフォは大賢者として人々に好かれ、ダルボジオスは邪術師として恐れられていた。ある時、ダルボジオスは世界を己の手で変えようと未曾有の大災害を引き起こした。噴火、津波、竜巻、地震が人々を襲う中、世界を救う為にルーフォは立ち上がった。二人の戦いは熾烈を極め、山脈は二つに割れ、空から放たれた雷が大地に穴を開けた。遂にルーフォは涙を流しながらダルボジオスの息の根を止め、世界の崩壊を防いだ。世界の平和を守り抜いたがその体は限界を迎えてしまい、ルーフォは息を引き取った。その時、ルーフォの体から三本の大杖が現れた。三本の大杖は其々空、海、大地の何処かに飛び去った。その三本の大杖は、邪悪なる闇が世界を覆わない様に見守っているという」

 クルセトン校長は読み終えると、ぱたんと本を閉じた。

「この話は御伽噺ですよね?」

ザックの問いに、クルセトン校長は質問で返した。

「私が何故、この話を聞かせたと思いますか?」

「それは……この話が重要だからでしょうか?」

「その通りです。この話に出てくる三本の大杖は長い間、何処を探しても見つかりませんでした。其れも其の筈、この話は余りにも非現実的であり、人々は昔話だと決めつけていました。所が、三本の大杖の内、大空、大海の杖二本が千五百年前に空と海の王国にて発見されました」

「昔話は本当に起こった出来事だったのですね?」

 ザックの問いに校長は頷くと、話の続きを語った。

「大空の杖、大海の杖が発見されてから、ルーフォとダルボジオス、三本の大杖が架空の存在ではなく実在していたと判明した為、世間は大騒ぎとなりました。ウィラティス大陸では魔法使いと進化人(マペロン)は血眼になって大地の杖を探しましたが、未だに見つかっていません」

「何故、人々は大地の杖を探し求めたのですか? 世界を見守っているのに態々探すのが腑に落ちません」

 ザックの質問に学園長と背広を着た男性が答えた。

「三本の大杖はルーフォの体から現れた、詰り大杖の一本一本に大賢者ルーフォの力が宿っていると考えられる。人々は邪術師ダルボジオスを倒す程の力を持っていたルーフォが残した三本の大杖を全て集めれば世界を統べる力が手に入ると考えた。世間を騒がせている影を纏う者(ジャルベナー)も恐らく三本の大杖を狙っていると言われている」

「パナベレン政府としては魔法使いと進化人(マペロン)の平和、友好の証として何としても発見しなければならない物だと認識しています」

「成程、平和、友好の証ですね」

 ザックが納得すると、スタンが真っ当な質問をした。

「何処にあるかも分からないのに闇雲に探すのは効率的ではありません。目処を付けてから行動すべきではないでしょうか?」

「もう目処は付いています」

 その場にいる全員の視線が、声の主であるメルフィン先生に注がれた。

「実は、此処数年の間に大地の杖があるとされている場所が絞り込まれたのです。私の知り合いに考古学に精通している教授がいるのですが、彼等の研究チームが、ウィラティス大陸の最東端にあるテルフォスに大地の杖が隠されている可能性があるという調査結果を公表しました」

メルフィン先生の発言にその場にいる生徒全員が息を呑んだ後、背広を着た男性がザック達を此処に集めた理由を説明した。

 「私はパナベレン政府の役人です。研究チームの調査結果に即応しまして、今年も探検隊が組まれる事になりました。本来ならば各国の軍隊からメンバーを募集するのですが、今年はどの国々でも影を纏う者(ジャルベナー)が治安を乱しており、国軍が出動する緊急事態となっており、国軍は手が離せない状況です。その為、夏期休暇に入る学生達に白羽の矢が立ったのです」

「詰り、このメンバーで秘密裏に探検隊を組むという事ですか?」

「そういう事になります」

 役人の男性が言い終えると、学園長がザックに向き直った。

「さて、ザック。此処までの話を聞いて、君は探検隊に志願するか?」

学園長の問いにザックは考え込んだ。

「大地の杖はウィラティスの人々にとって大切な物なのですか?」

「空と海の王国では、大空の杖、大海の杖が発見されてから安寧な世が続いているそうです。先程もメルフィン先生が話してくれた様に、今のウィラティスは安寧とは言い切れません。混沌とした世の中だからこそ、安寧の象徴である大地の杖が求められているのです」

「人々は三千年振りに熾す者(エレシアス)が現れた事で、今度こそ大地の杖が発見されると期待しているらしいが、無理に期待に応える必要は無いぞ、ザック。望まなければ、辞退しても構わない」

数分考え込んだ末に、ザックは決断した。

「僕は――探検隊に志願します。期待に添えられるかは分かりませんが、頑張ります」

ザックが意志を表明すると、パルドにピティア、他の生徒達から拍手が起こった。

 「よし、そうと決まったら、先ずはメンバー同士の自己紹介をしようじゃないか!」

探検隊のメンバー紹介が始まった。ザック、パルド、ピティア、ジェロ、スタン、リザルの紹介が終わると、禿頭の生徒が呼ばれた。良く見ると、生徒の右手が手袋で覆われ、皮膚が青白い事にザックは気が付いた。ザックは未だに禿頭の生徒の鋭い目付きに対して恐怖を感じていた。

「ヴァルテロ・カポロメン。言っておくが、俺は好きでこの探検隊に志願した訳じゃねえ」

ヴァルテロが周りを睨み付けると、茶髪のポニーテールをした女子生徒が挨拶をした。その女子生徒はザックに軟膏を調合してくれた生徒だった。

「家の兄は態度は悪いけど、寂しがり屋なので仲良くしてやって下さい。妹のセラピナーラ・カポロメンです。名前が長いのでセピナと呼んで下さい。特技は魔薬の調合です、宜しくお願いします!」

 続いて金色の長髪をした女子生徒と、灰色の短髪の女子生徒が挨拶した。

「リベラーク学園高等部三年のサエッタ・ロドワルザーです。エクレアとか、クッキーとかの甘い物が好きです。学園の皆から歩く発電機って言われています。此方は私の親友で同い年のレティグナ・ジョパルオンです。無口で冷静だけど、怒ったら雨が降ります。宜しくお願いします!」

サエッタとネメルダが礼をすると、パルドが尋ねた。

「若しかして、二人はあの八名門、ロドワルザー家にジョパルオン家の出身ですか?」

「その通りです」 

「八名門の実力者が加わるなんて、これ程心強い事はありません」

「私より、レティーやリザルの方が優秀ですよ」

パルドの言葉にサエッタが赤面しながら話すと、ジェロが勢い良く挙手した。 

「僕もジョパルオン家の長男です! レティグナは僕の義姉です! あと、サエッタは怒ったら雷を落とします!」

サエッタの頬が益々紅潮した。

「もうジェロったら、余計な事は言わないで!」

 一通り学生達の自己紹介が終わると、学園長が声を掛けた。

「よし、それでは、引率の先生とリーダー、副リーダーを発表する。引率者はメルフィン先生にお願いすることになった。リーダーはパルドレット・ディキリア、副リーダーはサエッタ・ロドワルザーに決定した」

 生徒達から拍手が起こると、メルフィン先生、パルド、サエッタが挨拶をした。

「老い耄れの身では御座いますが、引率者として粉骨砕身して参ります」

「ウィラティスの各地で大変な状況ではありますが、必ず良い知らせを持って帰れる様に努力します!」

「うーん、言いたい事はメルフィン先生とリーダーが言ってくれたので、頑張りまーす」

 三人の挨拶が終わると、クルセトン校長とリオスタス学園長が其々地図と指示棒を取り出した。

「では、テルフォスまでの道程を確認しよう。メルフィン先生と探検隊に志願するリベラーク学園の生徒達は出発の当日、私と一緒にアーカデム魔法学校の校長室へと集合する。その後、クルセトン校長の煙移し(マイト)でガトロスとルドアーレの国境になっている黄金山脈の東側の麓へと移動する」

話の途中でスタンが質問した。

「未開地に行くという事は国から許可を取らないといけない筈です。今から許可を取るには時間が掛かるのではないのですか?」

「その心配は必要ありません」

役人の男性は一枚の紙を取り出した。その紙には七人のサインと七つの印が押されてあった。

「既に七ヶ国の首相から許可は取っております。違法出国で逮捕状が出る訳では無いので安心して出発出来ます」

 学園長は許可証を男性から受け取ると、再び指示棒で未開地を指した。

「未開地に入ったら、東へと進む。すると、浄刹の湖がある。ここは迂回するとして、その先にある土竜丘陵を越えると、幽冥の森に入る事になるだろう。この森は駆人(ベゼロン)達の住処であり、常に霧が立ち込めている。もし、駆人(ベゼロン)達に遭遇したら抵抗せずに森を通過して良いか尋ねる事だ。敵意が無い事を示せば彼等は森を通過する事を許可するだろう。幽冥の森を通過すると、鋼の民(ギランプス)の国に入る。鋼の民(ギランプス)達は友好的な種族だから通過を許可してくれるだろう。更に東へと進めば、流星山脈が見える筈だ。山脈を越えた先に目的地のテルフォスに辿り着く。何か質問のある人はどうぞ」

 すると、パルドが手を上げて質問した。

「未開地は七ヶ国以上に危険だと言われています、他に危険は無いのですか?」

「私が駆人(ベゼロン)鋼の民(ギランプス)よりも懸念しているのは、動く骸骨の存在だ」

学園長の言葉に動揺の波が広がった。

「此処数年の間に、未開地で動く骸骨が複数確認されている。骸骨は人を見つけると襲い掛かる事は分かっているが、弱点は未だに判明していない。君達、探検隊が奴等に出交さない事を願っているよ」

 動く骸骨に探検隊が不安を抱く中、ジェロが恐る恐る手を上げた。

「探検隊だけでは荷が重いと思います。助っ人が欲しいです!」

ジェロの質問を予想していたかのように、クルセトン校長が答えた。

「あなた達学生だけでは荷が重いのは私も同感です。未開地は危険である事は私達も十分承知しています。パナベレン政府から護衛は出せないのでしょうか?」

校長が尋ねると、役人の男性は申し訳無さそうに首を横に振った。

「先程も申し上げた様に、各国の軍隊は影を纏う者(ジャルベナー)に手が離せない状況にある為、我々から護衛を派遣させる事は厳しい次第に御座います」

「分かりました、ソナトルリアの加護を祈りましょう」

「校長先生、その名前は神様の名前ですか?」

 ザックが尋ねると、校長は本の上に手を翳した。すると、本がひとりでに開き、ザックの目の前に飛んできた。

「ソナトルリアは三つの顔と六本の腕を持つ神の名です。三つの顔はそれぞれ朝、昼、夜を、過去、現在、未来を、空、海、大地を表していると言われています」

校長が言った通りの見た目をした神が描かれた絵をザックは見詰めた。本がひとりでに閉じて校長の下に戻ると、リオスタス学園長が生徒達に声を掛けた。

 「よし、探検隊のメンバーは其々の学校で探検の為の荷造りをしてもらう。野宿に必要な道具はこの探検用リュックサックの中に揃えられている」

サエッタがびしっと挙手した。

「このリュックの中に無い物でも、必要だと感じたら持参しても良いですか?」

顔から笑みを消した学園長は咳払いをして言った。

「構わないが一つ、私から助言をさせて貰う。この探検は日帰りの遠足とは訳が違う。夏期休暇が終わる九月までには帰還出来る保証は無い。未開地に行けば新しい発見もあるだろうが、危険にも遭遇するだろう。大地の杖を持ち帰る事も大切だが、全員が無事で帰って来る事を私達は願っているぞ」

「だからこそ、この探検隊での縁を大事にして下さい。私達、魔法使いと進化人(マペロン)は今でこそいがみ合っていますが、アステリール高原の戦いでは互いに運命を共にした仲です。互いに憎み合うのではなく、互いに手を取り合う事も探検の目的の一つである事を忘れ無い様にして下さい」

ザック達探検隊は学園長と校長の話に聞き入った。

 「それでは、私達もお暇するとしよう。クルセトン校長、この場を借りて感謝申し上げます」

「リオスタス学園長、メルフィン先生もご苦労様です」

リベラーク学園の生徒達はメルフィン先生、リオスタス学園長、政府の役人と共に魔法円の上に立つと一瞬で消え去った。

「では、探検に志願する生徒は明後日までに荷造りをして校長室に集合して下さい。話し合いは以上です」

 ザック達はクルセトン校長に一礼して魔法円の上に乗ると、次の瞬間には講堂の入口にザック達は立っていた。講堂にいた他の生徒達は明日からの長期休暇に浮かれているのか、ザック達が現れた事に気が付かなかった。

「じゃあ、各々準備に取り掛かってくれ。其々の部屋に探検用リュックサックが届いている筈だ。明後日の朝、校長室に集合すること。早朝に出発するから寝坊しない様に」

「了解」

 パルドの言葉を最後にヴァルテロ、セピナ、ピティアは散り散りに去って行った。

「いよいよ始まるんだな、大地の杖を探す冒険が!」

「パルド、寝坊しないでよ。此処最近、時間に余裕が無いんだから」

「勿論だ。じゃあ、寮に戻って荷造りでもするか」

 その日の夜、ザックとパルドは荷造りを済ませた。大人数と共に行く探検に心を躍らせながら二人は深い眠りに落ちていった。 

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