第一話 平安転生
拙作をお読み頂き、ありがとうございます!
俺の名前は、タカ・ウィステリア。
最底辺の回復術師だ。
俺は、平凡な普通の農家の八男として産まれた。
俺が耕す農地もないことから、成人になると家を出た。
手に職もなかったため、仕事を探すのに苦労した。
困った俺は、仕方なく、回復術が使えたことから、ダンジョンを探索して宝を探す冒険者になることにした。
回復術師には、使える術によって、明確なランク付けがある。
もっとも最弱の術がヒール。
そのヒールも、自分に使うインヒールと他者に使えるアウトヒールがある。
インヒールより、アウトヒールの方が使い勝手が良いことから、ランクが高い。
俺は、残念ながら回復術の素質にも乏しく、最弱の術のヒール、それもインヒールしか使えない、最底辺の回復術師だった。
………………
「おい、タカ! しっかり持てよ!」
「タカよぉ、荷物持ちしか取り柄がないんだから、遅れるなよ!」
「は、はい!」
俺は、冒険者になってから、荷物持ちとして、もうすぐB級に昇格できるパーティーに入れてもらっていた。
インヒールしか使えない俺だが、疲れる度に、自分にヒールを使って体力回復ができるため、あり得ないような大量の荷物を持たされても、何とかメンバーについて行けていた。
今は、洞窟ダンジョンの中層階。
ここで、驚愕なことが起きた。
グルル……
なんと、中層階を探索していると、三つの頭を持つケルベロスが目の前に現れたのだ。
「な、なんで、中層階にこんなモンスターがいるんだよ!?」
俺たち四人は、思わず息を飲む。
ケルベロスは下層階にいる強大なモンスターだ。
「イ、イレギュラーだ」
パーティのリーダー、ライト・アルデバランが呟く。
モンスターの中には、時たま、下層階から中層階に上がってくるイレギュラーがいる。
そのモンスターと運悪く、出会ってしまった。
ポタッポタッ……。
ケルベロスの口から垂れる涎の音がダンジョン内に響く。
ケルベロスは、体長八メートルはある。
戦っても、このメンバーの力では万が一にも勝ち目はない。
今は、俺たちのことを静かに見ているが、俺たちが一歩でも逃げ出せば、素早く追い掛けてくるだろう。
その時だ。
「タカ、お前、囮になれ」
リーダーのライトが小さな声で、信じられない言葉を発した。
「お前みたいな無能な荷物持ちをパーティに入れていたのは、このためだ」
「キャハハ。確かに今ね。ライトに賛成よ」
「タカをパーティに入れておいてよかったな……」
俺は、首を左右に振って反論する。
「待ってくれ。どうして俺を囮だなんて」
囮……。
俺は、一年近く、このパーティに所属していた。
軽く扱われていることは分かっていたが、最底辺の回復術師をパーティに入れてくれたことに感謝し、ずっと、このパーティのために頑張ってきた。
俺は仲間だと思っていた。
急に、囮だなんて言われても、理解が追いつかない。
冷たい目をしたライトが俺の髪を掴むと、俺の腹を思いっきり殴りつけた。
「ぶはっ」
術で身体強化されたライトのパンチをモロに受けた俺は、口から血を吐き出し、その場にうずくまる。
「タカ、あばよ」
「キャハハ、じゃあね〜」
「最後に、役に立てて良かったな」
俺を置いて、俺以外のパーティがケルベロスから逃げていく。
ケルベロスは俺の血の匂いを嗅ぎつけ、ゆっくりと俺の方に歩いてきた。
遠ざかるパーティメンバーを見ながら、俺は涙が溢れた。
仲間だと思っていたのは俺だけだったのか……。
絶望感で目の前が暗くなる。
「く、くそ……」
フゥーフゥー。
そこに、獣臭い息がかかる。
「……グルワァ!」
ケルベロスの不気味な声が俺の耳に届いた瞬間、身体中に激痛が走る。
痛い痛い痛いぃぃ!
「ヒールヒールヒールヒール!!」
ヒールをいくら使っても、痛みが減らない。
それもそのはず。
俺は、ケルベロスに喰われているのだから。
俺は、涙を流し、激痛に苛まれながら、絶望の中で叫ぶ。
「し、死にたくない! 何でも良い! ち、力が欲しい!!」
俺は、生まれて初めて、神に祈った。
だが、願いは虚しく……俺は意識が途絶えた。
▽▽▽▽▽
はうあっ
目を覚ますと、温かい何かに包まれていた。
視界はぼんやりしていて良く見えない。
俺は何で、生きているのか……。
ケルベロスに喰われて、生きているはずはない。
そう思いながら、自分の身体を動かそうとするが、上手く動かない。
それに俺は、液体の中にいるようだ。
何だ、なんだ、ここは?
俺が、モゾモゾと動いていると、大地震が起きたかのように身体がグラグラと振動して、『う、産まれるわ!』という若い女の声がした。
俺は、なぜだか、その声を聞くと、温かい気持ちになり、心が落ち着く。
急激に眠くなると、俺は意識を失った。
………………
俺は、産まれた。
「オギャーオギャー」
なぜだか、無性に泣きたくなり、俺は大声で泣き続けた。
「無事に産まれましたぞ」
「あぁ……良かった。私の赤ちゃん。よろしくね」
俺は、若い女の人に抱き抱えられた。
この人が俺の母親なのか。
視界はぼんやりとしているが、笑顔なのは分かる。
お腹の中で、聞いた声と一緒だ。
この人に抱かれ、声を聞くだけで、多幸感で眠たくなる。
俺は泣き止み、ウトウトとし始めた。
「彰子様。三度目の出産で慣れてきたのかもしれませぬが、お身体のためにもお休みになった方がよろしいかと……。お子様は、隣の部屋で休ませまする」
「そ、そうね」
俺は、年配の女の人に抱かれ、隣の部屋に敷かれていた布団の上に寝かされた。
………………
どのくらい寝たのだろう。
起きると、周りは薄暗くなっていた。
俺は、まず、現状を確認をすることにした。
ここは、俺がいた世界ではない。
周りにあるものは、前の世界では見たことがないものばかりだ。
天井は板張りで、部屋の仕切りは紙が貼られた横引きのドアだ。
だだ、話している言葉は、全部分かる。
一から覚え直さなくて良いのは、助かった。
そして、最も、前の世界と違うこと。
それは、周りをフワフワと飛ぶ何かが見えることだ。
俺は、少しずつ見えてはきたが、視界がはっきりしない目を近視のように細めて、凝視する。
人形なのか……?
木で作られたような人形が浮かんでいる。
この人形、三頭身で、のっぺりとした頭に丸い目、色は茶色だが、半透明で現実感がない。
俺の顔を覗きこむ人形もいる。
何だこれ?
こんな人形は、前の世界では見なかった。
この世界特有のモンスターなのか。
ただ、俺を攻撃しようとはしていない。
俺は、注意深く、人形達を観察していた。
ゾク……。
俺は、寒気がして、部屋の隅を見る。
すると、そこには灰色の人形が浮かんでいた。
この人形には、角が一本生えていて、嫌な感じがする。
角の生えた人形は、一直線に俺のところまで来ると、俺のお腹の辺りを触れた。
途端に激痛が走る。
痛い痛い痛いぃぃ!!
身体を喰われているかのような痛みがする。
ケルベロスに喰われた経験がなければ、気絶する程の痛みだ。
泣こうにも、痛すぎて声が出ない。
その灰色の人形の腕がズブズブと俺の腹に入ってくる感触が分かる。
これ、ヤバいんじゃないか?
人形の腕はほとんど俺の腹に埋まり、今度は頭まで突っ込んでくる。
身体は高熱を発し、 汗がダラダラと溢れてくる。
産まれたばかりなのに、また、死ぬのか。
………………。
…………。
……。
い、嫌だ!
死にたくない、死にたくない、死にたくない!
俺は、この身体でも、自分のできることを探す。
何かないか、何かないか……。
そ、そうだ!
前の世界で使っていた回復術を忘れていた。
俺は、藁をも縋る気持ちで『ヒール!』と唱えた。
すると、侵食していた灰色の人形がビクッと震えるのが分かった。
こんちくしょう。
ヒールが効くのか!
それなら、ヒール地獄を味わせてやる。
ヒールヒールヒールヒールヒール!!!
痛みがする自分のお腹に、何度も何度もヒールをかけていく。
この身体、術力が高いのか、前の世界では二十回もかけたら枯渇した術力が無くならない。
百回はヒールをかけただろうか。
『ギョワァァ』というか細い悲鳴が灰色の人形からしたと思うと、俺のお腹の痛みがなくなり、襲っていた高熱も引いていった。
助かった……。
死ななかった!
俺はホッとすると、そのまま意識を失った。
▽
俺が意識を戻すと、母親の母乳を飲んでいた。
意識がないまま飲んでいたらしい。
俺が、人形と死闘を演じていたことは、誰にも気付かれてはいないようだ。
お腹がいっぱいになり、背中を優しく叩かれると、ゲップがでた。
俺は、母親と一緒に寝ながら、優しくあやされているが、意識を戻してから、身体の異変を感じて眠れない。
身体に、術力ではない力を感じる。
あの灰色の人形の力を取り込んだようで、前の世界では感じたことのない新たな力が目覚めている。
なんだ、この力は?
よく分からない力だが、心が沸き立つような全能感がある。
この力を高めれば、何でもできそうな気がする。
前の世界では、最底辺の回復術師として、非業な死を遂げた俺。
転生したからには、この世界で簡単には死にたくない。
侵食された時に自分自身にヒールを使えば、灰色の人形に勝てることは分かった。
それなら、辺りを飛んでいる人形達にわざと侵食させて、その力を取り込んでいけば……。
最強の力が手に入るかもしれない。
侵食は、死ぬほどの痛みがあったが、ケルベロスに喰われた経験に比べれば、大したことはない。
本当に死ぬよりはマシだ。
ここは、この身を晒して、鍛えてやる……。
二度目の人生は、絶対に後悔しない!
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あらすじに記載しました通り、引き続き、『戦国憑依! 俺はクッキー』の執筆を頑張りますので、よろしくお願い致します。