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第96話

 儀礼的な()り取りの後、小卓を挟んだ対面の椅子に腰掛ければ、御付きの女魔術師を(そば)へ立たせた先方に合わせて、背筋を伸ばしたフィアが直立姿勢で隣に控える。


 その状態より一呼吸置いてクラビナの領主であり、王の従兄でもある宰相ダヴィト・アシュネルが言葉を切り出してきた。


「財務調整官の件、引き受けに感謝する」

「お気になさらないでください、此処(ここ)で喰い込まないと損失を(かぶ)りそうでしたから」


 仮に協力を拒んだところで、財政基盤の確かな中央行政府が発行するグラシア紙幣に(あらが)えず、ウェルゼリア紙幣が駆逐される未来しか見えないため、若干の外連味(げれんみ)も含めて程々に慇懃(いんぎん)な対応を心掛ける。


 勝手な想像と異なり、やや野性的な印象もある男前といった風貌の御仁(ごじん)は緩く口端を吊り上げ、硬めに保っていた態度を(わず)かに崩した。


「“額面付き手形”と兌換(だかん)制度、金銀貨幣を担保にした実額以上の発行、ディアスは(せがれ)の施策だと(うそぶ)いていたが、本当なのか?」


「華国で硬貨の代わりに扱われている交子(こうし)の模倣に過ぎませんが、(おおむ)ねは……」


 迎えに来てくれたエミリア嬢の端麗さを(かんが)みるなら、父親が壮年の美丈夫なのも有り得る範疇(はんちゅう)だったかと思いつつ、()われるまま紙幣の成り立ちに言及する。


 契約歴1000年の前後、銅鉱石の産出量が少ない華国の一部地域で鉄銭を使い出したことから、一枚当たりの価値が低くて重い “悪貨” を大量に持ち歩く羽目となった人々の不満、それらが試行錯誤の始まり。


 金銀、宝石、布のような有形資産を預かり、金銭的に見合う支払手形を振り出す “交子鋪(こうしほ)” の組合が作られて、決済に使える統一的な証書が市場に出(まわ)った。


「それを国家が追認して、世界初の紙幣は生まれたのです」


「ふむ、やはり中央政府が手綱を握るのは必然だろうな。こちらも最初はお前たちの取り組みを黙認していたが、(わず)か四年で無視できない経済的な影響が見えてきた」


 困ったものだと笑い、金銀貨幣と違って希少性のない “紙切れ” に拒絶反応を示す頭が固い御歴々(おれきれき)や、“付加価値” の概念に気づいて国家が仕切るべきと息巻く財務官僚など、面白おかしく()御仁(ごじん)は脚色された王城での話を聞かせてくれる。


 気さくな人物という父の所見に納得していれば前振りが終わり、現王の直轄地(ちょっかつち)とクラビナ領に()いて、国家主導の紙幣を普及させる方策に主題は移った。


「先ずは(かい)より始めよ、か」

「えぇ、私の性分に合っている上、規模は違えど実績もあります」


 自領の時と同じく、すべての公的機関が関わる支払いを紙幣で行い、その価値を裏付ける貨幣との兌換(だかん)所を商業組合(ギルド)に営ませるのに加え、幾つかの法整備も進言する。


 その中で独自の経済ブロックを持つウェルゼリア紙幣の扱いについても、宰相閣下と官僚らの合意を()るべく、各方面にとって無難であろうと思える提案を述べた。

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