第9話
「「きゃあぁ!?」」
「なッ、この餓鬼!」
「殺す、今すぐ死ねやぁああ!!」
怒り心頭な暴漢らの頭目が繰り出した拳打を斜めに退いて躱し、内在するマナの制御で動体視力と思考速度を強化した上、別角度から矮躯の男が投擲してきたスローイングダガーの切っ先を摘まんで止める。
そのまま流れるような動作で反射的に回転運動を加えて投げ返すと、その刃は相手の首筋を裂いて後ろの木へ刺さり… 又しても、意図しない形で次の重傷者を出してしまった。
「ッ、うぅ… な、なんで」
咄嗟に手を添えて止血した矮躯の男は驚愕して呟くも、それを打ち消すように呵々大笑の声を響かせて、傍観者に徹していたサイアスが木陰より姿を晒す。
すぐに手当てしなければ、生命にも関わる大怪我を負った二人の男など見遣り、近付きながら愉快そうな表情を浮かべた。
「然したる覚悟も信念もなく、偶発的に致命傷を負わせるとは流石だな。いやはや、面白いものを見せてもらった」
「小馬鹿にするな、若干の屈辱を感じるぞ。ただ、まぁ、結果的には良かったかもな。見逃してやる、怪我人を連れて失せろ」
無益な殺生は良くないと適当な理由を付け、現時点での対人戦闘を避けようとするが… 何故か、警戒する男達の後方で生じた微細なマナの揺らぎが無視できないほど気になり、意識が惹き付けられていく。
ちらりと横目で我が師の様子を窺がうと、態とらしい仕草で長髪を搔き揚げた。
「あぁ、ひとつ言い忘れていた。お前ら、背後を取られているぞ」
しれっと吐かれた言葉に続き、草場から体長1mほどの土蜘蛛が何匹も飛び出して、驚異的な跳躍力で負傷者も含めた男達の全員に襲い掛かる!!
鋭い牙が連なる口を開き、躊躇なく急所である首筋や腕などにも噛みついて、引き剝がそうと足掻く哀れな獲物を数匹掛かりで圧し倒した。
それに留まらず、半狂乱となる相手を物量に任せて地面に縫いつけ、抵抗を弱らせるため、次々と麻痺毒に濡れた牙を突き刺す。
最早、自力で逃れることは不可能であり、ただ捕殺されるのを待つばかり。
「ひっ、離せッ! やめ、うぐぅ!?」
「うぁ、あぁ… 死にたくないぃい!」
「痛い痛い、俺を喰うな! だ、誰か、助け… げはッ」
「「いゃああぁああッ!!」」
強靭な顎で硬い骨ごと人肉を咀嚼する土蜘蛛達はおぞましく、俺も少女らと同様の叫び声を漏らしそうになったが、そこは矜恃の問題もあって踏み留まる。
あっという間に暴漢達を一人残らず物言わぬ骸に変えた魔蟲のうち、大きな個体に押しのけられて… ご馳走からあぶれた数匹が光彩のない不気味な複眼を不規則に動かし、こちらへと向けてきた。
特徴的な八本肢を撓めたかと思えば即座に飛び掛かってくるも、既に “爆発反応障壁” の術式構築は済んでおり、何らの脅威にも成り得ない。
「はっ、勝手に散れよ、雑魚ども」
短く吼えつつも更なる思考強化を行い、引き延ばされた刹那の中で全ての跳躍軌道を見切って、標的の数だけ自己相似的な小六角形で構成された半透明の浮遊障壁を展開してやった。
「「ッ!?」」
「「ギッ…」」
意気揚々と吶喊してきた土蜘蛛達が攻性防壁に頭から突っ込み、衝撃に起因する爆発に巻き込まれて、訳も分からず四散していく。
それまで男達の死肉を貪っていた残りの魔蟲は奇妙なほど一斉に静止して、まさに蜘蛛の子を散らすといった様相で遁走し始めたものの……
他の数倍はありそうな巨躯の “変異種” が樹木へ寄り掛かった斜めの体勢で、木立の合間から窮屈そうに顔を覗かせ、ギチギチと耳障りな歯音を鳴らせた。