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第89話

 そんな目算もあって、(しば)く暮らすことになる王都エクルナへ向かう道中、護りに定評のあるフィアを交えて試行錯誤するも、やはり簡単にはいかない。


「うぅ、術式を構築する時にマナから転じさせた魔素の配列… 《《結晶構造》》? を変えれば障壁の強弱に差が出るのは理解できたけど、何処(どこ)をどう(いじ)れば良いのか不明です」


「何かしらの傾向を掴むまで、延々と実験を(かさ)ねるしかないのが微妙だな」


 街道沿いの芝生に座った専属司祭の娘と会話しながら、危害範囲を限定させた小規模な領域爆破の魔法を連鎖的に放ち、彼女が安全マージンなど取って浮かべたキューブ状の障壁を次々と破砕する。


 小さな半透明の四面体が壊れる様子を観察して、より衝撃に強い思われる組成(そせい)の個体を見つけ、その完成度を高めていくという寸法だ。


「今のところ、稠密(ちょうみつ)六方格子の形状に魔素を(まと)めれば硬くなる感じか」


「…… 何気にもう拳銃弾なら、一枚の魔法障壁で数発分を止められそうな事実に驚きです。ジェオ君のせいで、あっさりと限界を越えさせられました」


 “初手の成果として十分では?” と暗に訴えるフィアに(うなず)き、更なる術式の改善は学院併設の図書館で知識を増やしてから、改めて取り組むことにする。


 悪くない感触を得つつも、長時間に(およ)んだ野営地での試みを切り上げ、手持ち無沙汰になっていたリィナを見遣(みや)ると、飽きもせずに偶然の産物である柔らかいキューブを揉み込んでいた。


「一段落ついたので解除しますね、それ」

「待って、なんか癖になる触り心地なの、まるでフィアの豊かな胸を… あぁ!?」


 我が子に与えていた玩具を取り上げる(ごと)く、無情にも不可視の糸を通じて供給されていた魔力が途絶え、淡い燐光となって丸みを帯びた四面体は崩れていく。


 色々な元素を混ぜる検証の際、万物の根源たるマナに属性魔法で干渉して、一定割合を水素へ変換しながら組み込んだ副産物は柔粘性があり、中々に興味深い。


(この特性を流用できたら、硬いと(もろ)くなりがちな障壁の欠点を補えるが、扱いづらい複合系になるのは問題だな)


 術者の素養があれば誰でも扱える基本の無属性は()(かく)、水属性の条件が付いた時点でフィア単独での行使はできない。


 水と火の魔法を組み合わせた気化熱冷却によって、氷結現象まで引き起こせる自身は良くても、彼女のために異なる問題解決のアプローチを用意しておくべきだろう。


 ずっと放置されていた腹癒(はらい)せか、今度は直に幼馴染の双丘を揉み始めたリィナや、敢然と蛮行に(あらが)う司祭の娘を眺めて、取り留めのない考えを巡らせる。


「ちょッ、なに神妙な顔で見つめてるんですか、助けてください!」

「あははっ、ダーリンも一緒にどう?」


 ふいに声掛けされたことで、やや息を弾ませた二人の百合っぽい乱れ姿と、また(ひと)りで思索に耽っていた悪癖に気づき、(かす)かな苦笑が漏れてしまう。


 多少、()かれるものはあれど、そのまま(つや)事に突入しそうな様相(ようそう)だったので断り、街道脇に停めてある幌馬車の中へ戻った。

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