第74話 ~とある半人造少女の視点②~
「初めまして、コルテーゼ商会のセルジと申します」
「うげっ、うちの商売敵じゃないか」
「もし海産物を扱っているなら、何処かで競合があったのかもしれませんね。困った時は助け合いの精神が肝要、過去の遺恨は忘れて前向きにいきましょう、皆様」
さらりと棘のある言葉を受け流して、紙幣の現物を見せながら、それを用いた取引の概要など説き始める貿易商の長男、その積極的な姿に僅かな違和感を覚える。
道すがら地元の製紙工場で金庫番を担う弟につき、所有者の領主嫡男に心酔しすぎだと愚痴っていたものの… 木乃伊取りが何とやら、本人も毒されているようだ。
(さもありなん、活動資金の管理絡みで支援団に引っ張られて、頻繁にダーリンと顔を突き合わせた影響かな?)
険悪な雰囲気も今は昔、お互いの経済観が似通っていたのか、首尾よく懐柔されて手駒に組み込まれているのが地味に恐ろしい。
まぁ、野暮なことは言わぬが花なので思考を切り替え、私も伝染病で途絶えた交易を再開させるための遣り取りに傾注する。
二十分ほど経つと話題は取引の手法に差し掛かり、個々の店舗を直接相手にするのではなく、現地の商会経由で一括的に注文を請けると告げられた直後、幾つか反発の声が沸いた。
「今の状況で利鞘を稼がれて、高く買わされるのは御免だ!」
「もう、一杯一杯なんだよ、本当に……」
「生活苦で元銭を切り崩した奴もいるんだぞ!!」
このままでは仕事の存続が危ぶまれるという職人らの訴えを受け、やんわりと手で押し留める仕草を取ったセルジ氏は、安心させるような態度で言葉を添える。
「我々は支える側なので、利幅を設けることはありません。グラシア王国からの輸入品が高値になる場合、すべての責任はイルファの商人達にあります」
“貴様ら、伝染病の災禍に乗じて儲けを貪るなよ” と言外に滲ませて、彼は居並ぶ他都市の同業者らに微笑みかけ、露骨な睨みを利かせていく。
評議会に名を連ねる商業組合の長は当然だと嘯くが、背後で数名の者達が俯くなり、視線を逸らすなりしていた。
(ふふっ、捨て切れない浅ましさとか、人間らしくて良いわね)
恐らく為政者として適正な価格を維持させる立場の想い人も、欲望に忠実な “霊長を名乗る猿” の在り方を否定はしないだろう。
偶に幼馴染のフィアが夢想する聖人君主など面白味に欠けるし、無欲な馬鹿に人の心が理解できるとは思えない。
まかり間違って、そっちにダーリンが傾きかけたら、この身体で俗物に引き戻してやろうと口端を吊り上げる。
そんなことを考えている間に通り一遍の話は終わったようで、こちらに貿易商の長男が視線を投げてきた。
呼応する形で矢面に立ち、主に職人組合の親方達へ向けて語り掛ける。
「交易に関する説明は以上になります、何か質問はありませんか? 特に無ければ、ひとつお願いがあるのですけど……」
意図的に可愛らしい困り顔など作りつつ、見目麗しい? 少女の外見も活かして、私は幅広い伝手がありそうな者達に狙いを定めた。
メリークリスマス!!




