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第72話 ~とある専属司祭の視点③~

「皆様のご協力、ありがたく思います。つきましては中央広場に拠点設営の許可をもらえると嬉しいのですけど… 特に問題はありませんか?」


 猫をかぶった半人造の少女(ハーフホムンクルス)が愛想笑いなど浮かべ、会話の合間に後続の手引きで現着した四台の荷馬車を指さす。


 ほろおおわれた内部には十数名を収容できる天幕が五()り、そこに滞在する修道士や冒険者らをまかなう食料と調理器具、生活必需品が積まれていた。


「一応、広場を借りたいと事前に聞きましたが、支援団は郊外に野営地を構えているはず、理由をおうかがいしても?」


「感染抑制のため市街地に入った者は本営から離れ、そのまま活動を続けるので内々(うちうち)の拠点が必要となります、スピネージ議長」


 素朴な疑問を感じた御仁ごじんよどみなく説明すると、会話の区切りを付けたリィナは振り返って、集めた衆目ごと私に水を向けてくる。


 さりげない御膳おぜん立てを受け入れて、先ほどのり取りで横道にれ掛けたのを反省しつつ、一呼吸置いて言葉を繋いだ。


「広場を租借する件、ご理解と協力を頂けますか?」

「…… 分かりました、ご自由にお使いください」


「さて、許可も出たし… やるよ、皆!」

「「応ッ!!」」


 わずかに悩んだ御仁がうなずけば、猫を投げ捨てた幼馴染の指揮で冒険者らが動き、護衛対象の修道士も巻き込みながら天幕の骨組みに取り掛る。


 たちまち活気づく彼らの姿に鼓舞されて、こちらも最初の難関と言える問題を片づけるべく、街の実質的な統括者である議長殿と司教様を視界に収め直した。


「ここに至るまでの途上、少なくない遺体が道端に転がっていました。俗に言う “瘴気”、私達が病原体と呼ぶものの拡散をおさえるなら、適切なとむらいは不可欠です」


 仮に人々が接触を避けてもねずみは腐肉をあさり、その血を吸ったノミが媒介して、病気の原因を街にばらくのだと強調する。


 耳を傾けていた二人は其々(それぞれ)に小さく唸り、何とも言えない表情になった。

 

「理屈は理解できるが、残念なことに人手が足りない」

「伝染病による死者の数だけ、瘴気が漏れない深さの墓穴を掘るのは難しいかと」


「えぇ、それは私達も()()()()()います」

「ッ、まさか、火葬を!?」


 察しの良い司教様が眉をしかめ、私の言葉を先んじて切り取る。


 彼ら普公派は “新しき契約の書” に定められた復活の日を重んじるので、魂の還るべき肉体を焼くのに抵抗があるのだろう。


「心情は分かりますけど、聖書で明確に禁止されていませんし、我らが神は如何いかなる状態であろうとよみがえらせてくれます。聖母をつかわせてくれた至高の御方ですから」


「ぐっ、全能たる神に不可能はないが……」


 なおも言葉を濁す格上の御仁ごじんや、付き添いの聖職者らに対して、古代ローウェル帝国の時代は普通に火葬も行われていたこと、戦地から遺骨を持ち帰るために焼くことも例に挙げてさとす。


 柔軟な解釈が許される地母神派の末席で良かったと心底思いつつ、かたくなな彼らをあの手この手で説き伏せれば、連鎖的に議長と官吏かんりらも火葬を認めてくれた。


(うぅ、市政にたずさわる人達が合理主義で助かりました)


  何とかジェオ君の思惑通りに運びそうで、抱えた重荷が下りてほっと一息する。


 不意に肩を叩かれて返り見ると生暖かい目つきのリイナがいて、こちらの気疲れをねぎら体裁ていさいで軽く揶揄やゆしてくるも… 一々翻弄されずに先方との談合を切り上げ、天幕で少し休ませてもらうことにした。


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