第68話
なお、首尾よくことが運んだのは良いものの、馬鹿騒ぎを通じて身近になった荒くれ者達と飲み過ぎてしまい、天幕に引き返して以降の記憶がないまま朝を迎える。
近隣諸国で成人扱いされる満15歳を越えてからの日も浅く、余り身体が慣れていないにも拘わらず、前世の感覚で酒を嗜んだのは浅慮としか言えない。
(うぐっ、気持ち悪い)
まだ覚醒し切れない寝起きの頭を軽く振った途端、柔らかくも暖かい人肌の感触が頬に伝わり、その心地よさに逆らえず何度も擦り付けてしまう。
「ん… うぅ」
小さく漏れた嬌声に触発されて上半身を起こすと、煽情的な黒い下着姿で一緒のブランケットに包まって、穏やかな吐息を零す半人造の少女がいた。
瞬時に賢者の時間が訪れて、至極満悦そうな彼女の寝顔や引き締まった肢体を眺める傍ら、都市イルファに向かう支援団の規律を自ら乱したのかと懊悩する。
初めてリィナと肌を合わせた時のような心持ちとなり、生物学的な雄の本能には逆らえない事実を突きつけられて、そこはかとなく気分が沈んだ。
(…… 欲望に流され易いのか、俺は?)
輪廻転生に伴う “邯鄲の夢” で鬼人の姉妹や森人など、様々な種族の若い娘から望まぬ夜這いを仕掛けられ、毎度抗えず真っ白に燃え尽きていた武術大会優勝者の英雄もいたなと思い出して、彼の人物よりはマシかと立ち直る。
若干の冷静さを取り戻しつつ、この現状を省みれば双方の身体が綺麗なのに加えて、寝具の清潔さも保たれており、あからさまな行為の痕跡は何処にもない。
「これは… 所謂、未遂というやつだな」
「…っ、じゃあさ、する? 」
もぞもぞと不意討ち気味に蠢いた半眼のリィナが胸を押し当てて縋りつき、薄い桜唇を重ね合わせながら、舌まで受け入れさせようと歯列を舐めてくるが、すぐに力尽きて琥珀色の瞳を閉じた。
どうやら寝ぼけていただけのようで、ずれ落ちたブラの肩紐を直してやり、そっと敷布に横たえさせてブランケットを掛ける。
その一方で自身は寝床より抜けてアンダーウェアの上に衣服を着込み、いつもの変則的な部分鎧や外套までは付けないものの、剣帯の接続金具に得物を吊るして背嚢片手に天幕の外へ出た。
「取り敢えず、喉でも潤そう」
纏わりつく二日酔いの頭痛を堪えて平岩の近くに座り、背嚢に入れた小分けの薬草袋から肝機能を改善する大薊の種、ヒユ科植物やキク科植物の葉、甘草、蒲公英の乾燥物を少しずつ取り出して岩上に並べる。
それらを均等に混ぜて衛生的な麻布で包み、球形に調えて紐縛りしたものを揉むことで、お互いに磨り潰させていく。
続けて愛用の小鍋にて湯を沸かせ、ほどよい温度となった頃に麻珠を投じて待つこと数分、胃と肝臓に優しい元庭師おススメの香草茶ができあがった。




