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第54話

「厄介、きわまりないほどに面倒だな」


 実質的に物理攻撃の通らない “意志ある粘液(ショゴス)” が身を切り、幾つも撃ち込んできた小さな粘体ねんたいの酸弾を躱しつつ、駄目もとで領域爆破の魔法を発動させる。


 やはり、何かしらの結界術が展開しているようで、赤い粘塊の近傍きんぼうだと次元の壁を崩せず、任意の座標に爆発を生じさせることはできない。


 向こうの手札を探るため、星拝せいはいの祭壇に遍在へんざいするマナと自身に宿るものを干渉させた上、その融合反応で生じた根源たる力を掌中の起点に圧縮して、諸々(もろもろ)の均衡など崩しながら世界に一定間隔の小穴を穿うがった。


(躯体くたいを中心とした半径、およそ四メートル)


 こちらの想定より空間魔法の阻害そがい範囲は狭いが、外縁からの爆発で粘体に包まれた核を損壊せしめるのは困難だろう。


 などと考えるかたわら、間断なく射出される酸弾を師弟の二人で避けていれば、心なしか粘液状生物の巨躯きょくしぼんだように思える。


 ちょっとだけ相手の自滅を期待するも、無数の小粒な赤いビードロ(B)玉が視界の端にて地面を転がり、最短経路で分離前の本体へ向かっていた。


「ッ、消極的な考え方は禁物か」


 早々に態度を改めて、まばらな遮蔽物をたて代わりに近づき、火属性魔法 “紅蓮華” を的中てきちゅうさせるため、通常の方法で左掌より撃ち放つ。


 触腕の溶断を僅差きんさですり抜けた焔弾は粘塊ねんかいに直撃すると、咲き誇る花弁のような爆炎を派手にき散らした。


「――テ―ヶ―ㇼ、ㇼ!!」


 赤い巨躯きょくに透けて見える臓器の一部が発声をになっているのか、意味不明な言葉を漏らした相手の粘体ねんたいが弾ける。ただ、その傷は浅く、すぐに飛び散った粘液が集まって、何事もなかったかのように修復された。


 斜め前方にいたサイアスも圧縮風弾の魔法で核を狙うが、同様に効果は限定されたものとなり、肝心な部分にはダメージを与えられない。


「この距離だと威力が足りない、隙は作れるか、ジェオ!」

「ぐッ、また無茶振りを……」


 微妙に躱しそこねた触腕で右肩を焼き裂かれ、生じた痛みを誤魔化すように毒づいてから、大掛かりな魔法の準備に徹すること数十秒、至玉の一手を打つ!!


「それだけあれば、さぞかし頼っているんだろうな!」


 せわしなく大小様々な()()を動かしていた “意志ある粘液(ショゴス)” の周囲、結界でさまたげられない程度の距離がある円周上の領域を次々と爆発させていく。


 連続的な爆炎にさえぎられて視界を失った粘液状生物は戸惑い、牽制のために寸前まで俺達のいた場所へ触腕を振るうも、そこにとどまる馬鹿などいない。


ぜろよ、蕃神ばんしんの下僕」


 驚異の身体能力でまわり込んだ師が突っ込み、潤沢な火の魔力をたぎらせた必滅の右掌底を躊躇ちゅうちょなく喰らわせた瞬間、指向性のある大爆発が起こって溶解性の粘体ねんたい粗方あらかた吹き飛ばした。


「――、―ッ!?」


 き出しとなって虚空に浮かぶ核目掛け、さらに踏み込んだサイアスは抜き打ちの刃をきらめかせるが、諦めの悪い相手は急所を動かすことで九死に一生を得る。


 それに不定形な粘液が追随ついずいして、再び核を包んで護ろうとするが……


  紙一重の差で俺の投げたスローイングナイフが突き刺さり、その衝撃をって付与型の氷結魔法が励起れいきした。


 ひび割れながら凍りついた粘液状生物の核は砕け散り、赤い巨躯きょく形作かたちづくっていた粘体ねんたいが沸騰するように泡立ち始める。


 異様な雰囲気に自爆という言葉が脳裏をよぎり、二重で爆発反応障壁の魔法を組み上げた直後、一度だけ極度に収縮した粘体ねんたいは凄まじい速度で弾け散った。

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