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第51話 ~ とある傭兵達の災難① ~

 先刻の探索道にける一幕より、場面転じて今現在。

 

 迷彩外套を着込んだ襲撃者のうち、王立学院初等科に属する生徒らの拘束を任された数人がつどい、挽回ばんかいの手立てはないかと思索にふける女魔導士を見下ろしていた。


「確か、付き添いの教師は殺しても構わないはずだよな?」

「あぁ、そう聞いている」


 念押しの問い掛けに矮躯わいくの小男が答え、後手に縛って平伏ひれふさせた若い女から視線をらすと、この場を仕切る傭兵隊長のジェイズをうかがう。


 血を見るのが好きな彼らの頭目は口端など吊り上げ、露骨に右手の親指で喉元を裂く仕草などして見せた。


 その姿に当初は微々たる疑問のあった男も躊躇ためらいを捨て、革鎧のアタッチメントに取り付けた小振りな鞘から、扱い慣れた軍用ナイフの刃を引き抜く。


「あ… ま、待って、私も貴族の娘だから、人質としての価値はある。父と交渉してくれたら、多額の身代金が出るわよ!」


 咄嗟とっさに助かろうと女魔導士が言葉を並べるも… それは傭兵達を雇う側であるラウル司祭への配慮が欠けたものであり、余計な反感を買うだけに過ぎない。


「心外ですね、我々は金銭など求めていません。すべてはグラシア国教会なるものに惑わされた愚民達を救い、教皇猊下がく正しき信仰に帰依きえさせるためです」


 若干、上から目線の選民思想が漏れていることにジェイズは失笑しつつ、麾下きかの者達と一緒に長くなりそうな話を途中まで聞き流してから、もう十分だとさえぎった。


 このような目立つ場所にとどまり、時間を浪費する訳にいかないのだろう。


「そいつは男爵家《下級貴族》の令嬢だったな、言うほどの利用価値は無さそうだし、魔法のつかい手を連れ歩くのはリスクが高い。ここで始末しろ」


「そ、そんなッ!?」

「「エマ先生!!」」


 気遣きづかう教え子らの叫びもむなしく、背後にいた男がいつくばらせている女魔導士の髪を引き、露となった白い喉元には正面の手合いより、鋭い刃が添えられて……


 覚悟もないまま命が刈り取られる間際まぎわ、にやけながら傍観していた頭目たる傭兵隊長の脇腹付近で突発的な《《爆炎》》が生じて、硝子ガラスの砕けるような不協和音が響き渡った。


 マナより派生する一定以上の魔力や身体への負荷を攻撃と見做みなして、化学反応的に励起れいきした “斥力せきりょくのタリスマン” が身代わりに壊れ、すべての運動エネルギーを反射させたことで、致命傷をまぬがれたジェイズが怒鳴る。


「敵襲だ! くそがッ、金貨六枚分の装備を使わせやがって!!」


 悪態を吐きながらも素早い動きなど見せた彼にならい、麾下きかの襲撃者らも付近にあった方尖柱ほうせんちゅうの影に隠れるが… 初動の遅れた者が二人ほど犠牲となり、至近で起きた爆発に腹部を焼きえぐられて、硬い地面へくずおれた。


 漏れ聞こえた苦鳴から手駒の喪失を瞬時にさとり、内循環系のマナ制御によって頭脳と感性を研ぎ澄ませた傭兵隊長は、その思考を高速でめぐらせていく。

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