第50話
得物の重量と体格差があって厳しそうなので、横から小突いてリィナの助太刀でもと思いきや、彼女は右側面へ受け流しつつ半歩踏み入り、左短剣の平突きで胸骨の隙間より心臓を穿つ。
「がッ、ぐぅう!?」
一瞬の早業を理解できず、愕然と斃れた襲撃者を一瞥して後方へ振り向けば、位置取りが悪くサイアスに斬り掛かる羽目となった哀れな者や、クレアが仕留めたと思しき最後の一人も地面に転がっていた。
無差別な襲撃に対する正当防衛の結果ではあれども、師を除く其々《それぞれ》が微妙な表情となる中で、侍祭の娘が十字を切って瞑目する。
延々と佇んでいる訳にもいかないため、短い黙祷の終わりを待って骸を漁らせてもらったが、身元を判別できるような物は何ひとつない。
「ん~、賊徒というよりも、これって傭兵だよね。あ……」
小さく呟いた斥候の娘が貨幣の詰まった小袋に意識を惹き付けられるも、くすねたら絶交だと訴える絶対零度の如きフィアのジト目に負けて、愛想笑いなど浮かべながら、しょんぼりと手を引っ込めた。
幼馴染ならではの遣り取りを眺める傍ら、不測の事態が起きていることも踏まえて、伏兵が配置されていた意味を鑑みる。
「……順当に考えた場合、星拝の祭壇に向かう者の排除か?」
「数日の間ですけど、王立学院の生徒さんが実地修練に来ていましたね。彼らは皆、中央に属する上位貴族の子弟ですから、何かあるのかもしれません」
教会に於いても支配階級の絡んだ面倒事は多いため、眉根を寄せた侍祭の娘に応じて襲撃者の仲間がいるなら、狙いは貴族の子供達だろうと頷き返した。
嫡男など家族の身柄を奪えば、水面下の交渉で個別に離反させて派閥の均衡を崩したり、相互不信を煽って領地貴族を争わせたりも、やり方次第で可能となる。
微々たるとは言えない出来事の積み重ねで内乱に至り、外患たる周辺国家の干渉まで受けてしまうと自領を含めて、多くの臣民が不利益を被るのは必定だ。
(一度、前世の皇国で、俺もやらかしたからな)
欲に目が眩んだ身内や豪族達の神輿に乗り、甘い見立てで始めた武力蜂起の挙句、数万単位の兵と民を無為に死なせた凄惨な過去を忘れてはいない。
燃える都、転がる夥しい量の死骸、敗走の際に垣間見た光景は散々たるものだった。それ故に無視できず、様子見はすべきとの想いに突き動かされてしまう。
「鉄火場に飛び込むのは避けたいが、捨て置くのも気が引ける」
「じゃあ、危なくなったら、逃げるということで……」
悩んでいる姿を気遣ってくれたのか、軽めな雰囲気でリィナが出した助け舟に乗り、厄介事を楽しんでいそうな我が師はさておき、残り二人の意見も確かめる。
手短に過度の危険は冒さないという方針を定めた後、慎重かつ迅速に俺達は当初の目的地である星拝の祭壇へ足を運んだ。