第49話
尤もらしい御託を並べつつ、まだ心理的な抵抗感が低い “殺人を犯した賊徒” との戦闘に乗じて、人斬りを経験させようとする師に溜息していれば、少しの逡巡を挟んだクレアが言葉を紡ぐ。
「…… 私達も野盗に襲われたことはある。都合よく助けて貰えなかったら、三人とも悲惨な結末になっていたんだろうな」
「攫われた若い娘が逃げ出さないように両足の腱を切られ、飽きるまで粗野な男達の慰み物として犯されるとか、ありがちな話だからね~」
敢えて、槍術士の娘が直截的な表現を控えたにも拘わらず、さらりと軽快に言ってのけたリィナの目は笑っていない。
どうやら、殺る気に問題は無いようであり、好戦的な雰囲気を漂わせていた。
「若いうちに荒事稼業の冒険者で一財産築くなら、降り掛かる火の粉を払う術は必要だし、人との殺し合いも避けられない」
前以って覚悟ができる好条件の下、こちらの頭数など申し分ない現状を踏まえて、若干のトラウマになっている暴漢相手の対人戦に慣れておきたいと宣う。
彼女の意見に他二人の幼馴染も理解を示したことから、善は急げといった感じのサイアスに促されて、待ち伏せの地点まで探索道を進んだものの……
暗がりに潜んでいた者達は予想と大きく異なり、賊徒や暴漢ではなく相応に練度の高そうな、所謂ところのプロフェッショナルだった。
「ッ!?」
緩い放物線を描くように投げられた二個の魔封石に嫌な予感がして、術式構築を済ませていた小規模な領域爆破の魔法で弾けば、眩いばかりの閃光が頭上から燦々《さんさん》と降り注ぐ。
中途半端に視界を奪われて数拍、気配で察するに前後左右の藪裏から、迷彩外套を纏った男達が刃物片手に突貫してくる窮状で、ぼそりとリィナが悪態を吐いた。
「考えてること、一緒なのね」
「光あれ……」
やや辟易とした声での独白が終わるよりも早く、背後よりフィアの聖句が耳に届いて、相手方の目晦ましに続いて “閃光弾” の魔法が炸裂する。
それによって、すべての者が盲目に近しい状態で切り結ぶという、俄かに理解し難い、奇妙な状況となった。
(まぁ、こちらは多少見えているけどな)
もっと言えば体内のマナを魔力に換え、断続的な短波の形で飛ばすことにより、その反射が知らせてくれる情報から、ある程度は全員の動きを追跡できている。
焦ることなく姿を現した連中のうち、俺を狙ってきた襲撃者の袈裟切りに合わせて、剣身を鞘走らせながら右腕一本で逆袈裟に切り上げた。
「ぐッ!?」
膂力に速度も乗せた渾身の抜き打ちは、マナ制御による身体強化の効果もあって、交戦相手の両腕ごと黒塗りの鉄剣を高く搗ち上げる。
それに留まらず、無防備に晒された革鎧の胴部目掛けて “返し刃” の剣戟を放ち、得物が食い込んだ状態のまま強引に引き切っていく。
「ごふッ、う… あぁ……」
吐血して頽れる男の身体を避け、右隣を徐々に回復する視力で見遣れば、いつもの如く交差させた双短剣で斬撃を受け止め、鍔迫り合いに応じている斥候の娘が少々押し込まれていた。




