第47話 ~ とある教会組織の内情 ~
予期せぬ言動により学院側の身内から胡乱な視線が集まったことで、実地修練に参加する初等科の生徒らを引率して、遺跡まで連れてきた教職の司祭は失態に気づき、跪いた姿勢から起き上がって天を仰ぐ。
さらには憤懣やるかたない、といった様子で知己の傭兵隊長を睨みつけた。
「ジェイズ、お前… 私や教会に恨みでもあるのか?」
「いや、微塵もねぇよ。人畜無害の振りして安全な場所に留まり、高みの見物なんて無粋な輩が “嫌い” なだけさ、舞台には出て貰わないとな」
にやけ顔で宣う襲撃者らの頭目にラウル司祭が喰って掛かるも、最優先で確保すべき第二王子を殺める素振りに釣られて、自ら襤褸を出してしまった以上、強い言葉で責めることはできない。
緩く結ばれていた荒縄の拘束を解いて、忌々《いまいま》しげに振る舞う先任教師の同輩を見上げ、もう一人の引率者である女魔導士は愕然とした顔を晒す。
「ど、どうして… ラウル先生が?」
「…… 教皇派だから、だろう」
混乱で頭の廻らない彼女を横目にして、図らずも宗教的な諍いの一因となっている公子は自覚が深いのか、ぼそりと呟いた。
数年前、父が “最も優れた子に王国を継がせる” と公告した折、他国から娶った王妃の実兄にあたる枢機卿が聖国の教皇庁を巻き込み、国家の継承権は嫡男にあると主張した経緯から、内部の宗教勢力は国王派と教皇派で揉めている。
大勢の貴族や知識層も含めた論戦と宗教裁判の末、行きついた先が王権神授説を取るグラシア国教会の創設、政治的な干渉をしてくる教皇庁からの独立運動だ。
勿論、看過すれば各国での権益が崩れ兼ねないために教皇庁は反駁しており、煽られた熱心な信者を抱える教皇派でも、過激な組織の末端がラウル司祭である。
「学院に通う王族や、貴族の子弟を人質にするなんて、罷り通るとでも?」
「多分、素知らぬ顔のまま “野盗” に攫われた私達の足跡を小刻みに開示して、国王派から段階的な譲歩を引き出す算段だったのかと」
余りの愚行に疑念を隠せず、誰にともなく問い掛けたエミリアに寄り添い、侍女で学友の黒髪少女が見立てを述べれば、襲撃者らを率いる頭目の傭兵は愉快そうに笑みを深めた。
それと対照的に、教皇派の司祭は苦虫を嚙み潰したような表情となる。
「事の真相が露見した場合、偽りなき信仰のためとは謂え、組織ごと切り捨てられるのは百も承知です。可能な限り、穏便に済ませたかったのですけどね」
無事に帰す選択肢は潰えたという主旨の発言を受け、小さな令嬢は状況を悪化させた元凶の傭兵隊長に非難がましい視線など向けるが、飄々《ひょうひょう》とした態度で無視されてしまう。
教皇派の下部組織が表に出るよう仕向けたのは現場主義者であるジェイズの矜持や、思想信条によるものなので、疚しい部分など一切無いのだろう。
徹底したモノの考え方は彼の美点なれども、星拝の祭壇に続く探索道を一時的に押さえて、“近づく冒険者らを殺せ” と手勢に下した命令は… 今この瞬間も、与り知らぬところで誘拐計画の破綻を招いていた。
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