第46話 ~ とある王立学院生徒の受難② ~
全方位を覆う魔法障壁にて、不測の攻撃も凌ごうと集まったのが仇になり、粉末状の刺激物を吸い込んで苦しむ王立学院の者達に対して、外套姿の集団が獲物を狙う飢狼のように迫る。
その窮地に於いて、護るべき生徒らの存在に奮い立たされた女魔導士が地面へ手を突き、起死回生の一助となり得る土属性の魔法を発動させた。
「っ、悉くを… 喰ら、え、牙!!」
些か不完全なので威力と精度は落ちても、大地から生える無数の尖った土塊が襲撃者らを穿つ、はずが不発に終わる。
星拝の祭壇という場に仕込まれていた魔法陣が表層へ浮かび、土壌に含まれるマナの性質を変えて、漣ほどの効果に減衰させてしまった。
僅かに隆起した土塊の牙… もとい、小爪を踏みにじった者達は容赦なく生徒に殴り掛かって、無言のまま硬い拳で何度も痛めつける。
「や、やめ… うぐッ!?」
「う、うぁ……ッ、うぅ」
耐えられなくなった数人が身体を丸めて蹲るも、戦意や抵抗の意思が完全に折れるまで、無慈悲な暴行は止まらない。
老若男女の分け隔てなく殴られた挙句、うつ伏せに上半身を押さえ付けられた女魔導士が呻き、鈍くなった頭で思考を巡らせる。
(… こちらの属性に絞った対抗術式、当てが外れたら、どうするつもりだったの?)
土地に付与する魔法は事前準備が必要で、複数属性を重ねることに向かないため、学院側の情報が漏れていた可能性も否定できない。
そんな疑念を深めていれば、乱雑に彼女の前髪が掴まれて顔を上げさせられる。それに伴い、新手を一人引き連れて、緩りと歩いてくる長髪の男が視野に入った。
「全員、後手に拘束しろ」
「「了解です」」
頭目らしき人物と最低限の言葉を交わした襲撃者らが動き、ぐったりしていた生徒らの両腕を背中に廻すと、荒縄で解けないように結びつけていく。
ほぼ全員が抗う気力を残してない中、取り巻きが楯になったことで負傷の少ないレオニスや、従者たる少女の挺身で庇われたエミリアが代わりに声を上げる。
「くっ、貴様ら何が目的だ!!」
「こんな事をしても、身を滅ぼすだけです」
「老婆心で言っておくが、時間を稼ぐ意味はないぞ、護衛の冒険者は四人とも死んだからな。あと、誰が喋っていいと許可した?」
不愉快そうに長髪を掻き揚げた頭目の男が近づき、躊躇なく跪かされた公子の頭を踏みつけて、内側に湾曲した刃が特徴的な軍用ナイフを左肩へ突き立てた。
「ぐぅうッ!?」
「こんなに人質がいるんだ、一人ぐらい殺してもいいだろう」
これは見せしめだと嘯き、殺生に享楽を感じる狂人の類が嗤いながら、レオニスの喉目掛けて血濡れの刃を振るった刹那、その性格をよく知る司祭が叫ぶ。
「待てッ、そいつが王子だ!!」
「ははっ、語るに落ちたな、ラウル~~」
さも楽しそうに吹き出した襲撃犯の頭目が笑みを深め、早々に狸寝入りなど決め込んでいた自分達の “内通者” を見遣り、わざと親しげな表情を向けた。




