第43話
「うぁ…ッぅ、ぐうぅ」
地脈より吸い上げた水分を吹き零して、ずるりとアルラウネの上半身が滑り落ち、今まで養分にしてきた白骨死体の上へ横たわる。
大地に還って、多種多様な生命を繋ぐ糧となるのだろうが、初めて人型の生物を斬った感触は手に残り、何とも言えない心地になった。
「まだ快楽を得ないだけ、まともか……」
思わず呟いた舌の根が乾かぬ内にも拘わらず、執拗に仕掛けてくる大蜂の一匹を容赦なく剣腹で叩き潰す。
その過程で心理的抵抗が少ない事実に気づき、魔蟲の類だからと瞬時に結論づけて、“あぁ、命の重さは平等ではないな” と罰当たりな真理に想いを馳せた。
猶も暫く白刃を振るい続ければ、小さい的に慣れてきた三人娘の活躍もあって、軍隊蜂の残党は方々に逃散していく。
すべての脅威が去った後、やや癖になりつつある咳払いなど挟んでから、軽く諸手を握り締めた侍祭の娘が高らかに宣う。
「さて、治療のお時間です。というか、クレア、刺されていますよね?」
「うん、我慢してたけど、左脚と右腕がめっちゃ痛い」
「ジェオ君も、手数の多い相手と正面切ってやり合うのは褒められません!」
「爆発反応障壁の魔法で弾いて、一気呵成に斃すつもりだったが……」
派手に転んで術式が崩れたと言い訳するも、フィアは聞く耳持たないといった体裁で幼馴染に歩み寄り、蜂毒が起こす過剰反応に有効な不活性化の魔法を唱えた。
それに付随する淡い魔力光を眺めつつ、汎用性が高い治癒術士の内在マナを温存させるため、俺は肩掛けしていた自前の荷物袋から傷薬を取り出す。
「うぅ、染みるけど仕方ないよね」
同様の瓶を片手で左右に揺らしたリイナは少し躊躇うが、急速な代謝促進に加えて止血や化膿抑制の効果もあるので、傷口ができた際には使用すべきだろう。
我先にと茨の鞭で破かれた衣服の隙間より、適量の薬液を振り掛けていると、無傷のサイアスが踵を返した。
「少し待っていろ、寸前の場所で仕留めた軍隊蜂のマナ結晶体を拾い集めてやる」
探索毎に “採算を考慮するのは最低限の常識” だと嘯き、広域に飛ばした魔力波で位置関係の把握を済ませると、小ぶりでも数だけはある戦利品の回収に向かう。
「儲けるための荒事稼業だからね、私達も見習わないと… あ、認識票!」
毎度の如く現金な斥候の娘もアルラウネの遺骸に近づき、死せる冒険者の身元が刻まれた組合報奨金の対象物を見つけて、他にも落ちてないかと探り始めた。
若干、諦めたように溜息を吐きながら、傍で侍祭の娘が略式の聖句を紡ぎ、死者らの冥福を慈悲深き地母神に乞い願う。
極端に異なる二人の姿は名状し難い一幕を形作り、暖かな木漏れ日の中に混沌を生み出したものの、俺も抜かりなく生薬の素材となる魔物の部位などを漁って、一通り確保させて貰った。
キリ良く、連続的な更新をさせて貰いました!
皆様、良い週末を~♪
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