第41話
はた迷惑な師と大蜂で戯れる傍ら、折に触れて駆け出し冒険者の三人娘を見遣れば、わちゃわちゃしているものの其々に無難な対応ができていた。
「ちょっと、ダーリン！ 遊ばないで真面目にやってよ！！」
いましがた毒針で痛い目にあったリィナと視線が一瞬だけ交差すると、忌々しげに白藤色の髪を揺らす少女から、強く叱責されてしまう。
若干の理不尽さを感じている内にも、斥候の娘は大蜂どもの噛みつきを避けるのに合わせて、振り抜いた諸手の双刃で柔らかい頭部と胸部の繋ぎ目を切断する。
「「ギギッ！？」」
致命傷を負った自覚もなく、上下に分割された哀れな二匹が勢い余って、流線形の軌道で草地へ墜落した。
何やら悪戦苦闘するクレアの槍と違い、短剣は懐に入られても取り廻しが利くため、小型かつ飛翔能力のある魔物に当て易いのだろう。
「くッ、どうして、あたしは……」
幼馴染の二人よりマナ制御の資質に欠けるため、身体強化を上手くできない槍術士の娘が一瞥した先、錫杖の端部を掴んで短くしたフィアが何度も鋭い刺突を放ち、的確に大蜂の数を減らしていく。
残酷な話だが、近接戦闘に於いて達人の領域を目指すなら、身体を循環するマナの総量や扱いが肝要であり、魔術的な才能が明暗を分けてしまうのは致し方ない。
「前途多難だな」
密かに溜息を吐き、この様子だと遠からず脱落しそうなクレアを頭の片隅に留めて、俺も群がる大蜂を革製グローブに包まれた両拳で打ち落とす。
弟子に負荷を与えるのは飽きたのか、安全圏まで退いたサイアスを放置して継戦するも、中々《なかなか》どうして数頼みの攻勢が途切れる様子はなかった。
「近くに巣があるのかもしれません」
「確かに疑わしい」
尤もなフィアの意見に頷き、大蜂相手に立ち廻りながらも体内のマナを励起させて、広域探索のための魔力波を同心円状に飛ばす。
燃費が悪い故に恒常的な使用は難しく、効果範囲に知覚能力の高い生物がいた場合、こちらの存在も筒抜けとなるが、定位反射による空間把握の魔法は視界の悪い状況でこそ有用だ。
大樹に穴を開けて巣作りする軍隊蜂の習性など考慮した上、内側を喰い荒らされている木々の有無に傾注したところ… 無視できない “別種の存在” が脳裏を過る。
「この場を離れよう、閃光音響弾の魔法は？」
「既に修得済みです、任せてください」
薄く微笑んだ侍祭の娘が大蜂への反撃を捨て、毒針の回避と術式構築に専念する姿を視界に捉えつつ、目晦ましの後に向かう方位など手振りも添えて示せば、間を置かずに合図の声が響いた。
ふわりと豊かな胸先に浮かんだ光球が弾ける間際、片手に錫杖を持ったまま、両耳を塞いで目も閉じたフィアに倣う。
瞼越しに感じた眩い閃光で単眼及び複眼の網膜を焼かれ、仲間の翅音を聞き分ける聴覚も轟音で乱された魔蟲の隙に乗じて、俺達は脱兎の如く駆け出した。
