表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/120

第40話

 仄暗ほのぐらい森の中で時折ときおりに現れる遺物、異界カダスの言語が刻まれた石柱群などを眺めて、次元融合の作用で地図上の面積より広い浸食領域を進むこと半刻……


 いまだ普通の野生動物にしか出遭であっていないため、こんなものかと拍子抜けしていると、地図片手に先頭をいく斥候の娘が歩速をゆるめて止まった。


「さっきから、かすかにだけど 翅音はおととか聞こえない?」

「ふむ、ぎりぎりの及第点とは言えるな……」


 呆れたような我が師、サイアスの言葉で緊迫感が跳ね上がった直後、四方八方の木陰より不協和音が鳴り響き、わずか数メートルの距離まで俺達に忍び寄っていた拳大こぶしだいの蜂が何匹も突撃してくる。


「ッ、軍隊蜂レギオンホーネットか!?」

「刺されないよう、注意してください!」


 咄嗟とっさされたフィアの警告を聞き流して、互いの動きをさまたげないように散開しつつ、せまる二匹の大蜂を左右の拳打で叩き潰せば、黒い体液が飛び散った。


 さらに死角から襲ってくる伏兵の蜂も翅音はおととらえ、身体を旋回させての裏拳でたおしたが、如何いかんせん大蜂の数が多い。


「うぐ、小さくて槍が当たらない!」

「熱ッ、刺されたんだけど!!」


 敏捷性を重視したよそおいで、薄着になっている部分を狙われたのか、切れ気味なリィナの怒声が鼓膜を打つ。


 幸いなことに軍隊蜂は魔素の影響で肉食化した “クマバチ” が原種となっており、獲物を賽子サイコロ状の肉塊に割断する強靭なあごと牙はあっても、針のある雌は半数のみで毒性も低いのが救いだ。


 ただ、膜翅目まくしもくの例に漏れず、数分後に過剰な身体反応(アナフィラキシー)が起こる可能性は否定できないため、こちらと同じく大蜂を相手取りながらもフィアが幼馴染に近寄り、免疫系の抑制効果がある “不活性化イネルテ” と思しき治癒魔法をほどこす。


(地母神派の侍祭だけあって、手馴れている)


 蜂毒などの被害は森林部だけでなく市街地でも頻繁ひんぱんに発生するので、全身症状を起こして教会に運ばれる住民も少なくない。


 手当が遅れた場合、死に至る危険性を熟知していることから、動きの合間に歴史の中でつちかわれた対処術式を組んでいたのだろう。


 それを可能にする動体視力や体捌たいさばきはマナ制御の賜物たまものだが、元々の素養がある聖職者とはいえ、短期間で身につけているのは大したものだ。


 深く感心する一方で、ひとり軍隊蜂の包囲網を抜け、外縁がいえんで捕まえた魔蟲を投げてくるサイアスには苛立いらだちしか覚えない。


「ギィイッ!!」


 空中で体勢を整えた大蜂が怒り、眼前の俺に毒針を突き刺そうとするも、真横から右拳のフックで弾き飛ばして仕留める。


 さらに次々と周囲へ投擲とうてきされて襲い掛かってきた数匹も、そのサイズと素早さに応じて選んだ徒手空拳を振るい、八つ当たりのように撃墜した。


「せめて大人しくできないのか、馬鹿師匠!!」

失敬しっけいな… 弟子の成長を願う親心、分からないとは嘆かわしい」


 そううそぶいて悲嘆ひたんするどころか、口端に笑みを浮かべているあたり、まったくって腹立たしい限りである。

※ 軍隊蜂の原型になっているクマバチ、結構珍しい部類で普通なら圧倒的に雌が多い蜂の中でも、雄と雌の比率が似たような数です。そして、毒性は低い代わりに顎の膂力があります。


キリの良いところまで今日、明日と数話ほど連続的に更新します(*'▽')

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ