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第39話

 人混みの多い商業区を見てまわり、迷宮遺跡の森に生息する魔物を考慮しながら、様々な解毒薬も抜かりなく買いそろえる。


「解熱剤、麻痺中和薬に… この錠剤は?」


「抗凝固剤だ、貪欲の大蛇(グリーディバイパー)に噛まれると神経毒で血管収縮が起こり、血のめぐりが阻害されて身体の末端などで凝固する」


 小首をかしげた斥候の娘に答え、急激な血液循環の悪化が意識障害、壊死えしなどの諸症状を引き起こす過程も説明してやれば、彼女の隣にいるフィアが瞳を輝かせた。


 教会の聖職者は “神の奇跡” を重んじるため、治癒魔法に頼らず人命を救おうとする自然科学的な医術に興味の薄い者も多いが、どうやら違うようだ。


「薬と蛇毒の対応は知っていましたけど、その話は初めて聞きました。教会に神医学や薬草分類の本はあっても、非術者の書いた医術書は置いてないのです」


「うちにも一冊あるか怪しい、港湾で船医から聞いた話の受け売りだ」

「むぅ、借りようと思ったのに……」


 むしろ、そう言われる気がしたので先手を打って、ないそでは振れぬと諦めさせる。


 ちなみに知識の出元は薬物実験に奴隷を使い、死んだら解剖にまわしていた古代の医師であり、彼の人生を追体験する過程では結構な “精神的ダメージ” を被った。


 死せる老人の腹をさばき、子供の骨を抜き取り、若い女の… いや、これ以上、思い出すのは止めておこう。


(不老長寿を望むファラオの命令とはいえ、嫌がる相手を死なせる行為や人体解剖の日々にさいなまれて、最後は心を病んで自害したのもうなずける)


 少々憂鬱な気分になるも、さとらせずに侍祭の娘と会話を続け、問われた抗凝固剤の成分が吸血動物の臓器由来だとも言及する。


「ん~、“毒をって毒を制す” という感じですね」

「元々は血液を啜りやすくするための分泌物だからな」


 手短な返答を添えつつ、薬屋の棚からマナ回復薬を幾つか無造作につかんで勘定台カウンターへ置けば、その動きをフィアが視線で追いかけた。


 消耗品としては高額であるゆえ、目に留まったと思われるものの、持っていて困るような物ではない。


「毎度ありがとうございます!!」

「いや、ここでの買い物は初めてだが……」


 ご機嫌な店主の常套句じょうとうくで返してから、他の購入物も含めた銀貨数枚の支払いをまとめて済ませる。


 晴れて自身の物になった品々のうち、くだんの回復薬が入った小型アンプルを三個ほどり分け、仲間内では唯一となる治癒魔法のつかい手に渡した。


「えっ、良いんですか?」

「麻紙で儲けた分がある、遠慮はいらない」


 その場で解毒薬のたぐいも皆に配分した後、荒事稼業向けの店舗が並んだ街路に出て、浸食領域に隣接する迎撃都市の冒険者組合(ギルド)まで足を運ぶ。


 行き掛けの駄賃になる依頼を探すも、内部は迷宮遺跡のある森で確保された魔物のマナ結晶体や、素材になる部位の取引所と化していた。


「なんか、しょぼい依頼しかないわね」

「多分、狩りが本業なのかと」


 思わず愚痴ったリィナを眺めて、それとなく侍祭の娘がたしなめる。


 短い言葉での指摘通り、魔物素材の原産地かつ、他都市への流通経路も整備されていることを思えば、ここの冒険者達は狩人のような位置づけなのかもしれない。


 結局、組合ギルドでは素材の需要傾向を把握するに留まり、本来の目的たる実戦訓練のため、翌日の朝には都市ディオルの西門を出た。

面白いと思っていただけたなら幸いです!


★ 物語の書き手としての御願い ★


私の作品に限らず、皆様の応援は『筆を走らせる原動力』になりますので、ご縁のあった物語は公告下の評価欄で応援してあげてくださいね(*'▽')

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