表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

36/120

第36話

 質素な漢服ので立ちに戸惑いつつも、自身の勘違いに気づいて “ジャン哉藍セイランかよ” と、華国人の名前に使われる適当な漢字を脳裏に思い浮かべていたら、相手の方から話を切り出してくる。


這是我ディイースゥ 第一次看(カンダォ)()你的臉(デ リェン) 你有(ニーヨウ)什么事(シェンマ シー)

 (初めて見る顔だな、何の用事だ?)」


(ユゥ)(ドォ)(グゥ)同伴(トォパン) 所以(ソゥイー)(ウォ)(シャン)(ヨン)当地(ダンディ)语言(イーェン)说话(シュオファ)

 (連れ合いがいる、こちらの言葉で頼む)」


 門前もんぜん払いするつもりだったのか、ぞんざいな態度で放たれた華国語に流暢りゅうちょうな発音で返せば、一瞬だけ瞠目どうもくした彫刻家の御仁ごじんに不信感が上乗せされてしまう。


 輪廻にける “邯鄲かんたんの夢” で、の国に棲まう人物の生涯も疑似的に経験済みのため、良かれと思って言葉を合わせたのだが、どうやら裏目に出たようだ。


 さぞかし奇妙な子供に見えているだろう俺の扱いに困り、ジャン氏は後方のサイアスやフィア達を一瞥いちべつするも、取り合ってもらえずに諦めて視線を戻す。


「貴様に仕事を依頼したい、構わないか?」

「………… 立ち話で終わりそうにないな、家の中で聞こう」


 やや納得のいかない様子でうながされ、玄関をくぐると広い間取りの部屋があり、様々なサイズにそろえられた木材や、数十本に及ぶ彫刻用ののみが乱雑に置かれていた。


 その片隅にある食卓に備え付けらえた椅子の数は四つ、皆が座るには足りないと考えていたら、扉で仕切られてない炊事場から若い娘が姿を見せる。


「お客さんかな? 父さんと私の丸椅子、持ってくるね」


 東西の混血ハーフと思しき黒髪の娘は早足に作業台まで歩み寄り、そこから背(もた)れのない椅子を運んできて、軽い会釈だけを残して奥の厨房へ引き下がった。


 追加の分も含めて、話し合いができるように座席の位置を整えた後、其々(それぞれ)に腰を落ちつけたのを見計みはからい、工房の主であるジャン氏が最初に口を開いた。


「で、何をればいいんだ、坊主」

「額面付き手形(紙幣)の原版が欲しい、華国で流通している交子こうしのような」


 懐から取り出した地場産の麻紙を見せて、幾つかの説明など交えつつ要望を率直に伝えるも… 色々とに落ちない部分があるらしく、こちらの面々を注意深く見渡しながら、彼は十数秒ほど沈思黙考する。


「子供に護衛の冒険者が付いていると思えば、処何どこぞの領主貴族のせがれか……」


「あぁ、当家が発行総額に対して “定率の財貨” をそなえ、“額面に等しい硬貨との交換” を保証することで、紙幣の信用を高めて領内に普及させたい」


 皆が受け入れやすいように低額の紙幣から馴染ませる予定だと、胸裏で温めていた思惑を熱心に伝えたところ、商談相手は不審者を見るような目つきになった。


 その温度差にリィナとクレアが忍び笑いを漏らす。


「ふふっ、やっぱり発想がおかしいよね」

「あたし達は慣れてきたけど、普通は警戒するだろうな」


 散々な物言いに反駁はんばくしたくなるが、華やかな少女らの笑い声で空気が軽くなり、場の緊張も少しは解れたので此処ここは目をつぶっておこう。


※ 一万円札の原価は、紙代とインク代で20円前後だと言われてます。それに価値を付与しているのが日本国が持つ権威(信用力)です。この場合は軍事力、経済力、保有外貨、金銀など総合的なものを指していると考えております。


P.S. ブクマや評価を頂けると、創作の励みになります(*º▿º*) ̖́-

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
通貨発行権! 国の根源に関わる中枢権力 これはやばくなりそう
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ