第24話 ~ とある少女の視点③ ~
未だに掴み処のない少年が去って暫く、侍祭のフィアも加えた三人娘は冒険者組合の食堂に居残り、幼馴染同士での内輪話に花を咲かせていく。
「何というか、相変わらず利己的ね、本気なの?」
「ん~、家柄だけじゃなくて現時点でも優秀そうだから、まだ誰も狙ってないうちに確保しておこうかと思って……」
“多少の年齢差なら許容範囲でしょう” などと嘯く、自由奔放なリィナを見遣り、額に手を当てた私は深く溜息した。
短いながらも地母神派の侍祭を務め、折に触れて接遇した貴族の縁者らは血筋に並々ならぬ拘りを持っていたので、現金な幼馴染の思惑が成就する可能性は低い。
(でも、ジェオ君は血筋や資産とか、生得的なモノに関係なく地金の実力があるし、格式張った権威には興味ないかも?)
その胸中を上手く射止めさえすれば、巧みな手腕と根回しで一族郎党や領民を黙らせて、しれっと我を貫くような雰囲気はある。
良くも悪くも保有する資質の絶対値が大きいため、善悪どちらに転んでも良いように、次代を担う領主嫡男の動向は教会側も警戒しなければならない。
「…… 私が傍に控えて、彼を導くのもありですね」
「むぅ、参戦する気なの?」
「ふたりとも応援させて貰うから、精々頑張ってくれ」
なげやりな発言で私達の背を押すと、色恋沙汰にうといクレアは果実酒の入ったグラスを持ち上げ、残り少ない琥珀色の液体を飲み干そうとする。
「まぁ、興味ないか、あんたはサイアスさんみたいな年上が好みだから」
「ぶはッ、いきなり何を… 気管に入ったじゃないか! 確かに古強者の風格があって格好良いし、悪くはないけど…… 」
咳き込んだ拍子に涙腺が緩み、涙目となった槍術士の幼馴染は遠慮がちな褒め言葉を前置きにして、恋愛の類に現を抜かすより技量を磨き上げたいと締め括った。
「自分、不器用ですから (キリッ!)」
「ぷふッ、心の声を代弁してあげちゃダメだよ、リィナ」
「~~~ッ、お前ら、性根を叩き直してやるうぅ!!」
若い娘が三人寄れば姦しくはあれども… ここは荒事を生業とする冒険者らが集う組合、併設食堂にいた周囲の男達は慣れた様子で聞き流して、我関せずに気心の知れた仲間と飲み食いしている。
採算のいい依頼が取れた連中は上機嫌で軽く一杯のエールを呷り、そうでない者達は益体のない文句や不満を一通り並べてから、其々《それぞれ》が食い繋ぐための日銭を稼ぎに繰り出していった。
夕方には再び市街地に戻り、稼いだ金の多寡に合わせた酒と肴、もしくは裏通りに面した娼館のテラスで客引きする娼婦を買うのだろう。
特定の型に嵌らない、一癖ある性格の持ち主も荒事稼業だと珍しくないが、港湾都市の経済は内包する全ての人々を絡め取り、止まることなく連綿と廻り続ける。
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