第22話
「なるほど、それで私達を探してたのね」
「あぁ、どうせ依頼するなら、面識はあった方が良い」
牛乳入りの木製マグを両手持ちしつつ、俺の奢りだと思って普段注文しないような桃の果実酒を頼み、大事そうに飲んでいる斥候の冒険者リィナに相槌を打つ。
荒事を生業とする者達で組合が混み合う朝方、各種の依頼票が綴られた資料書架の付近で彼女とクレアを捕まえたのだが……
詳しい話を切り出す前に言いくるめられ、気が付けば建屋内にある併設食堂の円卓へ就いていた。
しかも、うら若き乙女と食事できる機会は貴重だとか、支払いまで廻されそうになった挙句、飲み物だけという形で妥協して現在に至る。
「本当に美味いな、癖になったら高く付きそうだ」
「心配しなくても大丈夫よ、クレア。安くて硬いライ麦パンを齧ったら、すぐに現実を思い出せるから」
やや表情を曇らせた槍術士の娘に向け、親しき仲に礼儀なしとでも言うのか、明け透けなリィナが皮肉混じりの言葉を掛けるも… 当の本人は納得した様子で素直に頷き、卓上の籐籠から取り出したバケット(パンの一種)を食んだ。
因みに一人だけ値段の高い料理を注文するのが躊躇われた俺も、彼女らと同じく干し肉の欠けらが入ったシチューのセットを頼んでいたので、もれなく付いてくる硬いそれを嚙み切って咀嚼した。
「日頃、屋敷で良いもの食べてるからさ、ジェオの口に合わないでしょう?」
「いや、これはこれで趣がある」
「むぅ、また年齢にそぐわない態度を……」
「何でも美味しく食べられるなら、それで結構じゃないか」
この場にいないもう一人の娘に代わってジト目の幼馴染を宥め、したり顔で薄いスープなど啜るクレアに視線を移して、ある程度の推測をつけた上で簡潔に問う。
「姿の見えないフィアは朝のお勤めか?」
「ん、いつも此処で合流するんだ」
「待ってる間に私達で依頼を見繕うのよ… と言っても、どれも似たような定番の依頼ばかりなんだけどね」
軽く嘆息したリィナが列挙するのは街道及び耕作地外縁での魔物狩り、香油や生薬の原材料となる動植物の収集、王都方面へ向かう大小様々な商隊の護衛など。
それすら無ければ森に入って狩人の真似事をしたり、漁業に使う網造りの内職もしたりして、日々の糊口を凌いでいるらしい。
「……うちが労働需要のある港湾都市で良かったな」
「言われてみると他の都市より、仕事は多いわね」
「ご領主の父君も順調に儲かり、領地は安泰というわけだ」
さらりと零した相方の他愛ない呟きに琥珀色の目を細め、僅かに黙考したリィナはにんまりと嗤いながら、ずずいと椅子ごと身体を寄せてくる。
近付かれた分だけ遠ざかりたくなるも、機先を制した彼女はこちらへしなだれ掛かり、薄手の布鎧越しに見かけより豊満で柔らかい胸をぎゅっと押し当ててきた。