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第13話

 突飛な課外活動から数日、もはや人外の領域にある師の出自に多大な疑問を持ちつつも、これ幸いと幾千幾万もの剣戟けんげきを交えるかたわら、先人の叡知をおろそかにはできないため勉学にも励む。


 数日置きに訪れる家庭教師の指導に加え、生まれ落ちるまでに輪廻の狭間で知り得た賢者達の知識を書き留めて、体系的に整理しているのだが… 如何せん、羊皮紙が圧倒的に足りない。


「くそッ、無理に書き込むより、次を調達した方が良いな」


 残り少ない空き部分を眺めて、記述したい内容が収まらないと判断した俺は自室の席を立ち、母のフローディアがいる部屋へと向かった。


 その扉を遠慮なくノックして、室内に声を届ける。


「母様、少し宜しいでしょうか?」

「えぇ、どうぞ」


 こころよい返事をもらって入室すると、窓(ぎわ)の椅子に腰かけた母は貴金属製の装身具を円卓に並べ、その品々を絹布で手入れしていたようだ。


 鳥羽をした銀細工に真珠を添えたブローチ、金と銀のリング二つをねじり合わせたような指輪、どれを取っても領民の家庭が一年は食いつなげそうな高級品である。


 その購入費は他領より重い税金でまかなわれており、領地運営の資金を浪費している現状に思わず内心で溜息するも、羊皮紙の無心にきた自身はいさめる立場にない。


「すみません、行商から買っていただいた羊皮紙が尽きてしまって……」


「もう、またですか? そうね… 神童と名高く、可愛いジェオの頼みです。私から父様におうかがいしておきましょう」


 わずかな逡巡を挟んで母は承諾してくれたが、冷静に考えると羊皮紙はかなり高価なため、自室へ引き返す途中で身内の金銭感覚に一抹いちまつの不安を感じてしまう。


 このまま古今東西の知識を書き留め続けて、本数冊分くらいにもなれば豪商など上位階級のむような邸宅が立つくらいの出費となるはずだ。


 中東まで普及している “紙” なら製造コスト自体はかさまないものの、複数の国を経由した輸入品となるので、各種費用が加算されて羊皮紙よりも高かったりする。


(まぁ、自前で作れば全て解決するけどな)


 とある砂漠の国で極東地域の技術を研究していた錬金術師の魂に触れ、その人生を疑似的に経験した経緯から、製紙法はおおむね理解の範疇はんちゅうにある。


 さらに補足すると知識や技術の伝播でんぱが遅いだけで、一般的な製紙法は古代の華国で確立しており、皇国でも使われていた事から、その原理も難しくはないと思う。


「…… やはり、過度の散財は気が引ける」


 領主の父が住民達に重税を課している手前、ここは倹約につとめようと自制しながらきびすを返した。


 結局、もう一度だけ母と相談を重ねて羊皮紙ではなく、布織りにも使われる麻を大量購入してもらう方向で取り纏める。


 くだんの植物は近隣諸国の広域に分布しており、都合よく収穫期の初夏であったのも奏功そうこうして、数日後には荷馬車一杯に積まれた状態で屋敷へ届けられた。

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