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第12話 ~ とある少女の視点② ~

「そんなつたない腕前で荒事稼業などやるな、命の無駄(づか)いでしかない」

「うぐっ、助けられた身ではあるけどさ、言い方ってものがあるだろう」


 明け透けな忠告に思わずクレアが抗議を試みるも、黒髪の少年はあかい瞳を閉じて、首を左右に振る。


 それから一呼吸分だけ間を置き、冒険者登録の際に覚悟を確認するため、誰もが一度は連れて行かれるギルド支部の地下室に言及してきた。


 薄暗い明りの中、運良く回収された “死者の識別票ドッグタグ” が幾つも掛けられている壁面を眺め、豊穣の女神に仕える私も幼馴染らと祈りを捧げた記憶はまだ新しい。


「自分だけは大丈夫、と思い込むのが人の常、俺も他人事ではないが… 引き返せる内に止めておけ、残された家族が悲しむ事になる」


「… と言われてもね、フィア」

「えぇ、私達は女子修道院の孤児、所謂いわゆる “奉献の子” でしたから」


 困り顔で肩をすくめたリィナに続いて、こちらの立つ瀬が理解できるように多少の補足をする。


 飢饉のおり、口減らしで見知らぬ街に放置されたり、脱輪した馬車の転倒事故に両親が巻き込まれて亡くなったり、天涯孤独となった孤児の未来は明るくない。


 成人と見做みなされる15歳になれば、新たな孤児を受け入れるため、修道院から押し出されることは珍しくないものの……


 港湾都市での力仕事は女手だと難しいことや、親無しへの偏見もあって職が定まらず、路頭に迷う者が大半を占めてしまう。


「私は治癒魔法の資質があったので、教会の侍祭に取り立てられましたけど、持たざるゆえに娼婦となる人も多いです」


「それが嫌なら、来るもの拒まずの冒険者ってこと」

「いざとなればギルドの仲介で部屋も借りられるし、衣食住には困らない」


 過分な危険がある反面、弱い立場のまま戒律の厳しい修道院でこき使われたり、望まぬ人生をいられたりする事はないと、私達の考えをクレアが伝えると… の少年は忌憚きたんなくうなずいた。


みずからのり方は他の誰でもなく、自身が決めるものだな。すまない、心情を省みない無粋な諫言かんげんだった」


「ん… 分かってくれたのなら、それでいい」

「こっちが未熟なのも事実だから… って、やけに素直ね」


 何かと悪評を聞く領主夫妻の子と思えないほど、潔い印象を持つ少年にリィナが再び疑惑の視線を向けたところで、後始末を終えた痩身そうしんの男が割り込んでくる。


 突き出された掌には、土蜘蛛の変異種から抽出したと思われる大振りなマナ結晶体や、喰い殺された暴漢達の識別票ドックタグが乗っていた。

 

「くれてやって構わないだろう、ジェオ?」

「………… 装備品や治療薬を買う足しにはなるか」


 やや未練がましい様子の少年は呟いて首肯するが、中級以上に相当する魔物の結晶体は資源価値が高く、そう簡単には受け取れない。


 死者の識別票ドッグタグにしてもギルド支部へ持ち帰ると、回収分の報奨金が出るので躊躇ちゅうちょしていたら、満面の笑みでリィナが手を伸ばした。


「ふふっ、お気遣きづかい、ありがとう御座います♪」


 斥候の幼馴染が見せた現金な姿にクレアと顔を見合わせ、思わず溜息を吐きながらも苦笑する。


 今日は後を付けてきた悪質な冒険者に絡まれ、散々だったけれども禍福はあざなえる縄のごとしと言うべきか、思いがけない収入を得ることができた一日となった。

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