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第118話

(もし、実費の支払いを渋られた時は伝手(つて)で中央行政府… いや、もっと良い条件を引き出せそうな交渉相手がいるな)


 母方の叔父が聖国の枢機卿である第一王子を戴冠させて、グラシア国教会から宗教的権威を奪還すべく、実績を積ませようと躍起になっている教皇派が脳裏へ浮かび、密かにほくそ笑んでしまう。


 今回の人々が昏睡する事件は市井(しせい)の興味関心も高いことから、普公教会を核とする(くだん)の勢力が独自に動いており、都合よく解決を示す物証など得られた場合、白金貨で買い取ってくれるはずだ。


「…… ジェオ君が、なんか悪い顔になっています」

「ん~、(もう)け話? それなら、私も一枚噛ませてね」


「お前ら、人を何だと思ってるんだ」


 信仰心の高さ(ゆえ)同胞(はらから)の不利益に繋がりそうな雰囲気を察したのか、じっとり湿った眼差(まなざ)しで地母神派のフィアが見()めてくる。


 彼女の上司が話せる人物なのを願いつつ、他の場所を調べて(まわ)る手駒の水妖らはそのままに、角灯(ランタン)の明かりを頼りにして地下墳墓(カタコンベ)の入口へ向かう。


 そこで再度の魔力波を放ち、奥に潜む存在を探るものの脳内に結像する影は無いが、こちらの従魔が消されている以上は空振りも考え(がた)い。


(“百聞は一見に(しか)かず” か)


 一応、司祭の娘に稠密(ちょうみつ)六方格子の魔素配列を持つ、強固な浮遊障壁 “連なる小楯(アイギス)” の術式を組み上げてもらい、発動可能な段階で維持させながら人骨の積み上げられた墓所を進む。


 最深部へ(いた)ると小さな水場の中ほどに立つ閃緑岩の石碑があり、癒えぬ傷を負った半裸の子供が朦朧とした状態で(もた)れ掛かっていた。


 人狼族と思しき獣耳のある12歳前後の少女を中心に小規模かつ、高密度な環状錬成陣が展開されており、踏まないように(かが)んで(ほの)かに輝く文字を読み取れば、隠蔽(いんぺい)吸命能力(ドレインスキル)の付与式だと理解できる。


「…… 死なない程度に延命させて生への渇望(かつぼう)(あお)り、人々からマナを奪う呪術の(かなめ)にして集めさせるとか、随分(ずいぶん)とえげつないな」


「ッ、()(がた)い所業です。癒しの光を……」

「待て、解読が先だ、似て非なる魔法は相互干渉の可能性がある」


 静かに怒るフィアの治癒魔法を(さえぎ)り、物言いたげな彼女の相手はリィナに任せて、(ふところ)から取り出した麻紙に術式の要点を書き出していく。


 興味深い内容だったので四半刻ほど読み(ふけ)った後、鈍色の装甲に包まれた左掌を錬成陣の一部に添え、組み込まれている権能を起動させた。


 その途端、ぼこぼこと地面から透明な鉱石が “雨後(うご)(たけのこ)” のように生えてくる。


「何これ、売ったら高値が付きそう」

「純然たる結晶体、ここが収奪されたマナの行きつく先のようだな」


 墓所を貯蔵庫代わりに蓄えて、いつでも術者が取り出せる仕様だと説明しながら、足元より拾ったものを半人造の少女(ハーフホムンクルス)に手渡せば、自然な動作で自身の革袋へ収めた。


 きっと、菫青(きんせい)石を置いていた魔道具屋で売り払うつもりだろう。

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