表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

117/120

第117話

「銃は近接格闘の武器じゃないんだが……」

「でも、不思議と(さま)になっていますね」


 疑問を(てい)しつつも聖槍を(しゃ)に構え、弾避けの魔法障壁を張ってくれたフィアの指摘は言い得て(みょう)であり、半人造の少女(ハーフホムンクルス)が双剣のように異種の得物を扱う姿は(どう)に入っているため、余計な手出しなど無用に思える。


 膂力(りょりょく)に勝る幽世の夜鬼(ナイトゴーント)と正対せず、彼女は素早い円軌道の動きで攻撃を(かわ)(かたわ)ら、至近よりの銃撃を喰らわせたり、()りがある鉈剣の刃を打ち込んだりしていた。


「―――ッ、アァ!!」

「… 雑過ぎ」


 癇癪(かんしゃく)気味に振り抜かれた裏拳を低い体勢で避け、余熱の(こも)る銃口を無防備な脇腹に押し当てたリィナが呟き、(なさ)け容赦なく水平に寝かせた拳銃の引き金を(しぼ)る。


 初速410m毎秒で射出された魔法銀製の弾丸は、いとも簡単に筋肉の鎧を穿(うが)ち、赤黒い血を繁吹(しぶ)かせた。当たり所が良ければ肋骨を砕き、衝撃によって散らばる破片で動脈や、臓器に幾ばくかの損傷を与えていることだろう。


 されども黒面(こくめん)の怪物は止まらず、身を離した彼女に向けて遠心力のまま、中段の(まわ)し蹴りを放つ。


 危害範囲の広い一撃にて避ける方向を(せば)めた上、半孤を描くような切り返しの動きで踏み入り、強烈な尾撃(びげき)を斜めに打ち出した。


「ん… 及第点かな?」


 垂直に跳ねながら(のたま)い、襲い来る尻尾に右足を添えた状態から、機敏なリィナは相手の攻勢も利用した後方宙返りで難を逃れる。


 その間際(まぎわ)にも一発、鎖骨付近に腰椎(ようつい)まで抜ける射線の弾丸を撃ち込み、追加のダメージを蓄積させるのも忘れない。


 精彩が欠けた夜鬼は我武者羅に剛腕を振るうも、失血によって活動の限界を早めるだけとなり、更なる銃撃も(かさ)んで黒い巨躯(きょく)(ひざまず)かせた。


「――ッ―」


 もはや虫の息となった怪物を半人造の少女が眺め、銃身の左側に恐らくは先史文明の工房名、右側に “92X” の文字が刻印された拳銃を軽く回転させて、太腿の革製ホルスターに仕舞う。


 手作りなので一発あたり小金貨一枚に相当する弾丸を無駄(づか)いしたくないのか、彼女は黒面(こくめん)に叩き込んだ(なた)剣の袈裟切りで止めを済ませ、眼前の脅威が溶け消えるのを見届けて振り向いた。


「えっと、9×19㎜ の複製弾は経費で落ちるよね、ダーリン?」

「明言しないが、善処しよう。取り敢えず薬莢(やっきょう)を拾っておけ、それも魔法銀製だ」


「むぅう、これは払う気がないやつだ!!」

「この昏睡事件を解決できたら、大司教様に掛け合ってみましょう」


 地母神派の手で王都の騒動に終止符を打てば効果的な宣伝となり、聖マリア教会の信者も増加が見込めるため、実費くらいは出して(もら)えるだろうとフィアが(うそぶ)き、不満げな幼馴染を(いさ)める。


 実際、乗り掛かった舟ではあるものの、少なくない費用や労力を投じており、もう慈善事業(ボランティア)と言えない状況なので、最低限の採算だけは取らせて欲しいところだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ