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第113話

 なお、想定外の遭遇に手を取られた結果、食材など扱う市場の者達も店仕舞いを終える時間帯になってしまい、修道院仕込みのクリームシチューをフィアに振る舞ってもらう話が流れ、目端に留まった小さな食堂へ吸い込まれる。


 そこで腹(ごしら)えを済ませた帰り道、料理の味が好みだったようで調子よさげに聖歌の旋律を口遊(くちずさ)みながら、数歩ほど前を歩いていたリィナがくるりと反転して、琥珀色の瞳を向けてきた。


「さっき、公子の御一行にしてた助言、大丈夫なの?」

「あぁ、昏睡事件が(すみ)やかに解決するなら、誰の手であっても構わないさ」


 多分、聖マリア教会の大司教殿も同様だと、簡潔に言い添えて司祭の娘を見遣(みや)れば、にこにこ顔で我が意を得たりと何度も(うなず)く。


「ふふっ、流石です、分かっていますね。我々、地母神派の本懐は救いの手を差し伸べることであって、賞賛や喝采を求めることではありません」


「でも、それを徹底し過ぎると寄進が減って、私達の育った女子修道院も潰れるわね。綺麗ごとだけで喰っていけないの、あんたも知ってるじゃない」


 幼少の(みぎり)、秋の収穫祭で(きょう)された御菓子に色めき立ち、孤児の皆で奪い合ったのを思い出しなさいと半人造の少女(ハーフホムンクルス)が呆れるも、涼しげな顔でフィアは微笑んだ。


 ただし、目元は笑っておらず、何らかの理不尽な想いを(たた)えている。


「えぇ、覚えていますよ、南瓜(カボチャ)のタルトを幼馴染に(かす)め盗られたこと」

「ごめん、普通に忘れてたわ」


「…… 奔放だな、今も昔も」


 胡乱(うろん)な視線を投げると理想論に反駁(はんばく)し損ねた上、見事に切り返されたリィナは気まずそうな表情で身体の向きを変えて、逃げるように足を進めていく。


 溜息交じりに追随(ついずい)する司祭の娘に速度を合わせて、月明かりが照らす夜道を(しばら)く歩けば、今度は隣から外套の(すそ)を軽く引っ張られた。


「明日以降の話ですけど、私達も幽世の夜鬼(ナイトゴーント)とやらの探索と討伐(サーチ&デストロイ)を?」

「いや、それは第一王子らと教皇派の連中に任せる」


 市井(しせい)(ひそ)む怪異の排除は当てが外れた時の保険であり、もう少し効率的な解決法を考えていると伝えて、海都の魔導書『ルルイエ異本』を手元に顕現(けんげん)させる。


 これ単体で成せる儀式とは言えず、幾つか水属性の鉱石も使う羽目になるが、余裕ぶってあくどい表情など作ると、心配そうに柳眉を(しか)められてしまった。


()(もっ)()を制す、また蕃神(ばんしん)の外法ですか……」

(ぎょ)せるか否かは呪物の(つか)い手次第だろう」


 (すが)めたジト目で見詰めてくるフィアに(ひる)まず、任せておけと見得(みえ)を切った次の日は準備に(つい)やし、武装も整えて俺達が(おもむ)いたのは地下隧道(ずいどう)に通じる入口のひとつ。


 その先に続くのは浸食領域の第一及び第二層であり、大昔に安全を確保して造られた上下水道が各所に張り巡らされ、王都に暮らす約十万人の生活を支えていた。



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よくファンタジーでの時代背景に使われる中世の都市人口を鑑みるに、長らくの間に於いて最大規模を誇るロンドン、パリが20~40万ほどだったと記憶しています。


各国の首都あたりの人口は10万人前後が妥当かと思う次第です。

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