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第105話 ~ とある冒険者の溜まり場にて① ~

 本日最後の講義、その終了を報せる時計塔の鐘が響くよりも少し前……


 取り巻きを引き連れた “もう一人” の公子は組合(ギルド)支部の食堂に()め、手勢の冒険者ら二組と複数の円卓を占拠して、顔を突き合わせていた。


「今日も進展はなし、か」

「すみません、ルベルト様」


 本来なら第一王子が玉座に()く実績を得るため、元々は浸食領域に対する迎撃都市であった王都の地下へ潜っている者達のうち、斥候班の(まと)め役が頭を下げる。


 気配や罠の探知に優れた三名の同輩を従え、“廃都に至る地下迷宮” での先行探索を(にな)う立場上、不慣れな昏睡事件の調査だとしても自責の念を禁じ得ないのだろう。


 それに引き換え、直接的な戦闘には参加せず、荷物運びと野営地の構築に加えて、退路の確保も行う輜重(しちょう)班の面々は暢気(のんき)なものだ。


 専門外の仕事をやらされている感が強く、いまいち没頭し切れてない彼らの状況に苛立ち、聖堂騎士団の徽章(きしょう)付き外套など羽織った青年が叱責を飛ばす。


「もっと真剣味を持ってくれ。突発的なマナ欠乏症に人々が陥る案件、今や王都の誰もが不安に思い、関心を持つ事態になっている」


「ここで私達が解決したら、ルー先輩の株が… って、もうカブはいいや」

「ふふっ、物は違うけど散々に怒られたものね、ご先祖様のお昼寝を邪魔して」


 慣用表現の語源は “切り株” であって、“(かぶ)” じゃないのを妹に指摘しつつ抱き締め、姉のセリアは獣耳ごと頭を無遠慮に撫でた。


 何やら微笑ましい光景であれども毒気を抜かれることなく、聖国の教皇庁より第一王子の専属として(つか)わされている司祭兼任の騎士、セルムスは言葉を続けようとするが、公子の挙措(きょそ)に応じて口を(つぐ)む。


 片手で制した優男は旧知の後輩らを見遣(みや)り、逆に口元を(ほころ)ばせた。


「いつも姉妹の仲が良くて羨ましい限りだよ、こちらは弟と微妙な距離感だからな」

「うぐっ、そういう反応を取られると、返しに困るんだけど……」


 もはや親族だけの関係に収まらず、多くの貴族や教会関係者を含めた構図が形成されており、如何(いかん)ともし(がた)い継承権の問題を多少は知っていることから、伏せ耳となったセリカは言葉を濁す。


 代りに双子の姉が体裁(ていさい)(ととの)えて雇用主(クライアント)と向き合い、話しの続きを引き受けた。


「余計な(わだかま)りを生まないためにも、折り目は付けないとでしょう。私達も荒事に踏み入る準備ができたし、以後の協力は惜しまないわ」


 “先輩の陣営がランベイル家に富を(もたら)してくれる限り” と、口外せずに付け加えて元手の掛からない微笑で媚びを売りつつ、扱いが難しくも嗅覚に優れた従魔を見繕(みつくろ)い、自らの影に潜ませてきたと伝える。


 先祖伝来の手法で製作された希少な魔道具の補助はあるが、若くして空間系の魔法を扱える技量は大したものだ。


「存分に頼らせてもらう、依然として昏睡の背後関係は不明だからな」


 少なくない期待を込めて(うなず)いたルベルトの隣席、不浄な魔物を手懐(てなず)けて(あきな)う獣人の家系に思うところがあるらしく、聖堂騎士の青年が眉を(かす)かに跳ねさせる。


 下手に藪を突かないよう、見ないふりをした公子は斥候班や輜重(しちょう)班も会話に入れて、新たな調査方針に(かか)る検討を進めていった。

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