第101話
「この時期なら、鎮魂の風習を意識する者も少なくない。それなりに強化されて中級の魔物といった程度か、余裕だな」
個々の面積が狭い樹牢結界の内側にて、体躯の小さいカブ頭の精霊が縦横無尽に飛び廻り、撒き散らした青い焔で学生達に悲鳴を上げさせる一方で、俺も与えられた召喚具にマナ由来の魔力を流す。
それに伴い、前方の虚空に生じた球門を通り抜け、不愉快な笑い声を響かせて二体のジャック・オー・ランタンが顕れた。
「クヶケェエ――ッ、ギィ!?」
「煩い、喚くな」
出てきた瞬間、即座に吶喊して手前にいた一体目の顔面を鷲掴み、すぐに右掌の握力強化を行って、めきめきと指先を深く喰い込ませる。
動揺して藻掻いた相手が発火能力を使い、こちらの強引な締め技を焼き剥がそうとするも後の祭り、迅速な氷結魔法で全身を霜塗れにさせた。
凍らせるつもりだったのに耐え切り、左の手首に革紐で巻き付けたチャームの核、紫水晶が一つも身代わりに割れてないのは火属性を持つ故だろう。
「ギ… ギギ……」
「ケヶエエッ!!」
幾らかの仲間意識はあるらしく、怒りの青焔など纏いつつ突撃してくる二体目に向け、掴んだままのカブ頭を力任せにぶつけると氷結で脆くなっていたのか、致命傷を引き受けた宝石の片方が砕ける。
繋ぎとめる楔を喪失した最初のジャック・オー・ランタンは儚い燐光となり、元々の霊魂へ回帰しながら強制的に送還されていった。
最後まで結末を見届けることなく、怯んだ残敵に迫って軍刀を鞘走らせ、抜き打ちによる銀線を引くと再度の破砕音が鳴り、その姿は先ほどと同様の過程を経て雲散霧消する。
軽く刃を振って鞘に収めた直後、樹牢の天井を塞ぐ半透明の障壁が解除された。
「… 登って来いと?」
何となく施術者の意図を読み解いて、木枝の骨組み伝いに樹上へ出ると僅差で姿を見せた高身長かつ、細マッチョな格闘用のガントレットを嵌めた青年と目線が合う。
確か、直接の面識は薄いものの四年前に行方不明となり、半年後に浸食領域の森から生還したという、多少の奇縁がある学生だ。
「概ね、二人とも予想と違わずだな」
「ジェオ・クライストは評判の通り、“鉄腕” のオルグレンも鋭さが増して重畳」
ふいに聞こえた声を拾って振り向けば、試験を受ける者の数だけ錬成された樹牢の中心付近、その天辺にて木筋を足場に立つ老教授と講師の姿がある。
所謂 “高みの見物” を決め込んでいた担当官らに倣い、俺も普段は見る機会の少ない同輩の奮戦に傾注しようとするが、この場にいるもう一人がにじり寄ってきた。
「やぁ、君の活躍は良く聞いているけど、お目に掛かるのは “拝星の祭壇” 以来かな? 任意の空間を爆破する固有魔法の遣い手なんて、早々にいないだろうし」
「憶測で物を言うな、痛くもない腹を探られるのは散々だ」
「ははっ、結構、がっつりと聴取されたみたいだね」
一昨年、海軍主体で陸だと弱い領軍の損耗を避けて “槍の乙女” や “踊る双刃” を含む、十数名の冒険者と領内でメタルリザードの群れを討伐した後、領域爆破の魔法絡みで中央の官憲らに諮問を受けた記憶が脳裏を過る。
その時は我が師の所業にして万事を乗り切ったこともあり、第二王子や貴族の子弟に対する誘拐犯を一掃した姿なき人物は、彼の御仁であると結論づけられていた。
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