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準備中

「つまり、ベギンズ卿は『隠された皇子』の正体が幽霊だと仰るのですか?」

「はは、それでは少し語弊がありますね」


 ゆるりと足を組みながら、椅子に深く背を預けたカルラは軽く笑う。その様子に苛立ちを不完全燃焼させたように立ち尽くすフェルダ侯爵だったが、数瞬の後我に返ると勢いよく椅子へと腰を下ろした。


「そもそも『別館の幽霊』など、本当にいたも分からない存在を持ち出して何になる」


 その言葉に、構成員のほとんど全員が内心で同意した。幽霊などそれこそ噂上の存在であり、いわば架空の人物。

 しかし次に紡がれたカルラの『まさかの言葉』により、その存在に対する認識が大きく揺らぐことに。


「あれは幽霊などではありません。いるはずのない子供を、いつしか人がそう呼び始めただけです」


 ──その子供は、実在したのですよ。


「……え」


 何故、そう言い切れるのだろう。

 何故、まるでその子供を見たとでもいうように確信に満ちているのだろう。

 そんな違和感が部屋全体を支配すると同時に、皆の頭によぎった仮定。


 仮に幽霊と皇子が同一の存在であった場合『隠された皇子』、つまりディランの兄弟にあたる人物は白髪を持つ者であり、噂が立った時期からして現在20〜30歳台の人間ということになる。

 しかし、その性別は未だに分からないまま。


「もちろん生きていれば、の話ですが。ところで公爵の中にもお二人、白い髪色を持つ方がいらっしゃいますね?」

「っ!!いや、まさかそんなはず」

「おや、絶対に違うと言い切れますか?出自など、いくらでも誤魔化しが利くのですよ?」


 相変わらずの余裕を浮かべつつ尋ねられ、声を上げた構成員は目を左右に泳がせる。だが白公爵、特にその片方だけは絶対に違うとこの場にいる誰もが確信していた。



 ところで、帝国内に白髪を持つ人間は意外と多い。

 発言者であるカルラを含め四公爵のうち白公爵二人や神殿内、果ては平民にまでも多くいる髪色。そのため髪色だけで皇子を見分けるには無理があり、染髪している可能性さえあるためアテにならない。

 そして仮に存命であったとしても、国内に残留しているかどうかも分からないのだ。



「まあ、髪色が真に白かどうかについては疑いの余地があります。銀髪や白金髪が、光の加減で白く見えただけかもしれませんし」

「なら、その存在はやはり架空と言えるのでは……」

「それもそうですね。まあ」


 イヴァ様の仰りたかったであろうこと含め全て、あくまで私の憶測ですけどね。


「……は」


 ここまでの話が一切作り話だとも取れる声と、一斉に肩透かしを喰らったような構成員の面々。

 そんな愉快と脱力が混じる空気は、いつしか降り始めた雨の中に融けこんでいったのだった。


 ***


 いよいよ訪れた来訪前日。例年使者を迎える場である、首都の大広場にて。

 その晴天の下に響くのは大勢の声と足音、高く響く大工仕事の音。


「なあルア、この箱どこに持ってけばいーんだ?」

「……噴水の裏。積んであるだろ」


 そうして仮面を着用した彼が指す方を一瞥し、木箱を持つためにしゃがみこむ。その間にもルアは一回り小さい木箱を難なく運び、腕を回しながらこちらへ戻ってくる様子が視界の端に映った。


 現在、広場で忙しなく力仕事に勤しむのは大勢の男たち。その大半が雇われた平民や大工などの職人だが、そこに混じるようにして皇室騎士団の面々も肉体労働に駆り出されていた。

 公国の使節を迎えるために行われるこの準備は、本来であれば平民や大工で事足りる。しかしディランの『空気をその場で味わうように』という命により、彼が即位した4年前から騎士団の面々もこの準備に参加しているのだ。

 

 そのため。


「……お前達、また来たのか」

「あ、オリヴィラ公爵閣下にご挨拶申し上げます」


 不意に地面に影が出来たかと思えば頭上から無愛想な声が降ってきた。聞き覚えのあるそれに対し反射で立ち上がり、「お邪魔してます」の意を込めてルアと共に挨拶をすれば「口ではなく手を動かせ」と、思わず笑いが溢れるほど切れ味よく一蹴されてしまった。

 

 そうして腕を組みながらこちらを見据えるのは、ジャケットを肩にかけるようにして羽織った白い短髪の男性。

 彼こそ、この場の指揮者にして外交大臣であるアデル・オリヴィラ公爵だった。



 四公爵の一角にして、白公爵の一人。

 ソルよりも少しばかり高い背に魔物と忌諱される茶色と緑(色違い)の瞳を持ち、加えてルアと同じく常に無愛想な表情が相まって付いた渾名は『魔王』。だがアデルの弟と2人は歳が近く、顔を合わせる頻度の高さも相まってその関係性はまるで兄と弟。

 そのため貴族ではあるが言葉の応酬をするほどに2人は心を許し、アデルもまた『金色』『銀色』と渾名を付けて呼ぶほどには気を許している。



「そういえば公爵様、会議の時俺たちのこと無視しませんでした?」

「していない。用もないのに、あの場で話しかけるわけがないだろう」

 

 ばっさりと言い捨てられてしまい「ソーデスカ」と、太陽を受けきらきらと光る白髪から視線を外して再度しゃがみこむ。そうして手をかけた木の箱だが、これが思ったよりも重かった。


「……ソル、重いのか」

「まあ、でも俺ならヨユーだ」

「なら早くしろ金色。今年は雨のせいで、準備の時間が押している」


 地面に落ちる2人分の影の中で急かされ「はいはい」と返事をしたものの、体勢に問題があるのか上手く持ち上がらない。そうして木箱を前に唸っていた、その時。


「あ」

 ふと、頭に妙案が浮かぶ。そうして木箱をおもむろに撫で始めた自身の背中に、怪訝を浮かべた3色の瞳が刺さるのが見ずとも伝わってきた。


「……何してんだ」

「ん、よしよしすれば、多少は軽く──」


「「いいから早く持っていけ」」


 次の瞬間揃って落とされた異なる声に思わず吹き出した。そうして肩を震わせながら2人を見上げればそこには同じ表情を浮かべた銀髪と白髪が立っており、そろそろ腹筋が攣りそうになる。

 

「笑いすぎだ」

「っ、悪い……はっ」

 なおも震える肩をなんとかいなしつつ木箱を持ち上げる。思わず上体がのけ反るほどの重量を1歩、2歩、と前に運びながら、ようやくそれを積みに行くことができたのだった。


 そうして2人のところへ戻る道中。ふと、とある物が視界に入り足を止める。

 それは布が被せられた、どこかで見たことがあるような形状の大きな物体。よく見れば地面と布の間からは車輪が見えており、あと2つ同じ物体があるようだ。

 

「でっけー。公爵様、あれなんですか?」

「……大砲だ」

「大砲?」


 復唱しながら思わず首を傾げる。何故、戦場にあるはずのものがここに。

 そう思いつつ布を被ったそれを凝視していれば、まるで「知らんのか」とでも言いたげな色違いがこちらを見据えているのが視界に映った。


「『礼砲』だ。国の元首が来訪する際に、空砲を発射する」

「へえ……でもなんで3台も?」

「礼砲は全部で21発。1台で計7発、交代で打つ」


 どうやら、あの大砲には他国を迎え入れる意味があるらしい。それに対しなるほど、と感心したのも束の間、次に湧き上がったのは素朴な疑問。


「今までやってませんでしたよね?」


 だからこそ自身はその存在を知らなかった。この準備の手伝いを始めた4年前から去年に至るまで、それを見たことがなかったから。

 

「今年は大公殿下が来るだろう、代理とは訳が違う。それに建国祭のみ顔を出す君主達と違って、こちらは最たる同盟国の『使節団』だからな」


 最後に使ったのは即位式の際、と続けられた言葉で「あぁ」とまたも納得が思わず溢れ落ちる。

 そして呆れた表情を浮かべながらも、大小問わず疑問には逐一答えをくれる。そんなアデルの『魔王』はやはり外見だけだと、ソルはどこかくすぐったくなった。


「ベギンズ様と同い年だとは思えませんね」

「俺が老けていると言いたいのか」


 目を細めながら返された低い声に「まさかまさか」と両手を振って否定する。だがやはり、初見で両者26歳だと理解するのには時間がかかるだろう。自身らと3つほどしか離れていないなど、あまり現実味がないのだから。


 常に余裕を纏い口調も丁寧なベギンズ様と、無愛想だがその実面倒見がいいオリヴィラ様。全く雰囲気の違う2人についてぼんやりと考えつつソルは日が暮れるまで肉体労働に勤しみ、汗を拭きながらルアと共に皇宮へと戻って行ったのだった。


 そうしてついに、かねてより話題に上がっていた公国の来訪当日を迎えることとなる。



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