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束の間


 電話をしてから数時間。


ソファーで寛ぐテン。


居間の扉が開く音がした。


「おかえり。ご飯にする?」


「ただいま。そうね……お腹ペコペコ」


その声が、普段と少し違うことに気づき、テンは顔を上げる。


「なんか、良いことあった?」


「まあ……色々あったけど。

 別に、あんたに話す必要ないでしょ」


「そうだね。ケーキ預かるよ。

 食事のあとでいいだろ?」


「うん……手、洗ってくる」


洗面所へ向かう背中を見送り、テンは手際よく準備を始めた。

鍋を火にかけ、皿を並べ、テーブルの上が少しずつ色づいていく。


向かい合って座る二人。


「ねえ、毎日“一汁三菜”って大変じゃない?」


「急にどうした。

 花嫁修行にでも目覚めたか?」


「仮に必要でも、あんたの力は借りないから安心して」


「味は問題ないってことでいいんだな」


「ええ。そこは文句ないわ」


軽口を叩きながら食事を進める。


「たまには作ってくれてもいいんだけどな」


「作るのはいいけど……ちゃんと残さず食べる?」


「……ごめん。今のは忘れて」


空気を変えるように、テンが話題を振る。


「Polarisにいた爺さんは……元気だったか」


「とても元気で、親切にしてくれたわ。

 あの店、舞さんが手伝ってるでしょ。

 舞さんは……って、あんた会ったことあるの?」


「出入りしてりゃ、嫌でも顔合わせるだろ。

 毎回、厄介払いされるけどな」


「それ、あんた限定の対応でしょ」


食事を終え、テンが立ち上がる。


「ケーキ、ここでいいか?」


「屋上がいい。

 天気いいし、星も出てるから」


「じゃあ先に準備する。

 片付けお願いしていい?」


「わかった。あと紅茶ね」


テンはケーキを持って屋上へ向かった。


テーブルを拭き、椅子を並べ、空を見上げる。


「……本当に星、出てるな」


数分後、足音。

紅茶を注ぎ、箱を開ける。


中身を見たテンは、見慣れないケーキに目を留める。


――これは、舞さんの。


そう思った瞬間。


「あんた。

 私がいない間に、勝手に食べようとしてたでしょ」


「それ……舞さんのケーキ。

 私が食べるために貰ってきたのに」


「ごめんって。

 珍しくて、つい」


「次やったら許さないから」


椅子に座る麗。

テンは別のケーキを指さす。


「……これは、食べていい?」


「いいけど、一口ちょうだい」


了承したはずなのに、先に手を伸ばす麗。


「もう慣れたけどさ。

 人の皿から取るくせに、自分のは聞かないよな」


「聞いたって、どうせ食べるでしょ」


「清々しいな」


二人が並んでケーキを食べる。


その屋上を、少し離れた場所から双眼鏡が覗いていた。


「……星を見ているにしては、随分平坦ですね」


「覗きは感心しませんよ」


「君も同じだろう」


「私は弟に変な虫がつかないよう、見ているだけです」


「弟離れしたらどうです?」


「……協定を結びませんか」


言葉が交わされた、その瞬間。


「お二人とも。

 おふざけはそこまでにしていただけますか」


静かな声が、夜気を裂いた。



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