因果
大通りから脇道に入ると、人気のないT字路に出た。
四人は、その中央で足を止める。
「ここなら平気だろう」
「万が一、警察にバレても、どこからでも逃げられる」
「三方向を同時に封鎖するほどの人員は割かないはずだ」
そう確認するように話したあと、売人の男が、ふと口を開いた。
「……本当に兄ちゃん達、薬が必要なのか」
一瞬、言葉を選ぶような間があった。
「えっ。いきなりどうしたの?
売るのが仕事じゃないの」
「それはそうなんだけどさ……
ここまで話して、何も感じないほど
俺も割り切れてなくてな」
苦笑しながら、そう言う。
「気持ちは嬉しいけど……必要なんだ」
「そっか。なら仕方ないな。
これがZEROだ。大事に使ってくれ」
「代金と引き換えで――」
そう言い、取引に入ろうとした瞬間だった。
「――全員、動くな!
お前達は包囲されている!」
鋭い女の声が、路地に響いた。
反射的に三人は足を止め、視線を巡らせる。
路地の三方向に、警官の姿があった。
「……動くなって、言っただろう」
作業着の男が一歩踏み出した瞬間、
女は一気に間合いを詰め、ためらいなく蹴りを放った。
鈍い音とともに、男はゴミ袋の山へと吹き飛ばされる。
そのまま、動かなくなった。
「次は、同じことをさせるなよ」
残る三人は、無言で頷いた。
駆け寄ってきた警官に、すぐさま手錠が掛けられる。
売人の二人が先に連行される途中、
すれ違いざまに、執事の男が声をかけられた。
「……すまない。兄ちゃん達まで捕まって」
「気に病むな。
これは、俺達が選んだ結果だ」
一瞬だけ、視線が交わる。
「もっと早く出会えていたら、
違ったかもしれないな」
そのまま、二人は引き離された。
パトカーが走り去るのを確認し、
執事の男は女に向き直る。
「いつまで手錠をかけておくつもりだ。
そろそろ外してくれないか」
「何よ、ジン。
もう少し味わってもよかったんじゃない?」
笑いながら、女――麗は手錠を外す。
「それより……麗。
お前、誰を蹴り飛ばしたか分かってるのか」
「誰って――」
視線の先で、蹴り飛ばされた男が立ち上がっていた。
怒気を隠そうともせず、こちらに歩いてくる。
麗は反射的に、ジンの背に隠れる。
「……お前、俺じゃなかったら大事だったぞ」
「事が起きると、周りが見えなくなる癖、直せ」
「アンタこそ、勝手なことばっかりしてるでしょ」
口論が始まりかけたところで、
静かな声が割って入った。
「そのくらいにしたらどうかな」
鴇冬だった。
「鴇冬さん。
ここは私達に任せてくれればよかったのに」
「全部聞かれてるぞ。
取り繕っても無駄だ」
作業着の男――テンが肩をすくめる。
「じゃあ、もう終わったし帰るわ。
後は、いつも通りでよろしく」
テンに続き、ジンと疾風も一礼してその場を離れた。
「……彼等を、いつまで利用するつもりですか」
麗の問いに、鴇冬は即答しなかった。
「今回の件。
我々だけで、これ以上周囲を巻き込まずに
踏み切れたと思うかね」
麗は答えられなかった。
やがて、鴇冬は別の方向へ歩き出す。
大通りに出た瞬間、テンの携帯が鳴った。
電話に出た瞬間、
テンの空気が、はっきりと変わる。
ジンと疾風は、何も言わず距離を取った。
「……やめろ。
こんな悪趣味な真似しやがって」
テンは顔を上げ、遠くを見る。
――あいつの願いだった……?
テンは返事をしなかった。
「……分かった。
後ろにいるジンに、よろしく伝えとく」
通話が切れると、テンの纏う空気は元に戻った。
「……悪いな」
「いや」
「この後どうする?」
「俺は仕事に戻る」
「俺も用事がある」
「そっか。
じゃあ俺は、掃除の準備したままだから戻るわ」
三人は、それぞれ違う方向へ歩き出した。




