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結節点


 観覧車に乗る2人。


 「本当に買わなくて良かったの?

 折角、お父さんに似合う物を

 選んだつもりだったのに…」


 「あぁ…。その気持ちだけで充分だ」


 「いつも、そうやって私に親孝行をさせてくれないね……」


 「それは…(おまえ)が健康で病気と無縁であれば、それだけで親孝行になると教えて来たはずだ」


 「それより、ここには…よく此処に来るのか?」


 その言葉に、外の風景を見ていた唯は振り返り


 「そんな訳ないでしよう。いくら私が人目を(はばか)らず行動するとは言え、此処に1人では来ませんよ」 

 

 唯の発言に、何処か安心した様な眼差しで


 「頼めば、二人くらいは連れて来てくれるんじゃないか。今さら頼むのが恥ずかしい間柄でもないだろう」


 「恥ずかしより申し訳ない気持ちがねぇ…。どちらかに頼んだら二人はきっと、此処ではなく違う場所に連れて行ってくれると思うから中々言い出せなくて」


 そう話し人差し指を立て口元に当てる。答え終わると視線を再び外に向け直し


 「私は、この景色で充分なのにね……」



 「なぁ…。あいつらから離れて三人(・・)で暮らさないか」



 「なんで、そうなるの?しかも、三人って…」 


 質問の問いに振り向かず、背を向けたまま答える。


 「もう…いいんじゃないか」


 「あいつらの側に要ることで、無意識(・・・)に無理をしてないか」


 「爺さんから報告を受けているが、仕事のオファーも来ている様じゃないか。この国を離れても仕事には困らないだろう」


 「それに、いつまでも…そのままってのも勿体無い気もするしな」


 「狡いなぁ。そうやって外堀を埋めて、私の逃げ道なくすんだから」


 「でもね…これはこれで便利なのよ」


 「世間では長いイメージが定着してて、多少の変装は必要だけど…存在に気付かれにくいんだから」


 「まぁ…今すぐ答えを出す必要はないよ」


 「(おまえ)にその気があれば、母さんも俺も喜んで受け入れる余地があることだけは覚えておいてくれ」


 「本当に…あの子も父さんも狡いわ」


 「私の中に土足で踏み込んで、荒らすだけ荒らして去って行こうとするんだから」


 唯の言葉に返答をせず黙っている男。


 「ねぇ、いっそのこと…これが親孝行(・・・)になるって言ってくれたら楽なのに」


 「そんな事言う訳ないだろう」


 そう話す父の顔は、ガラスの反射越しでも解る程に激昂している様に見えた。


 「冗談です。ゴメンなさい」


 唯の言葉を聞いた父は、唯の背中から自分の足元に視線を移すと…そのまま黙り込み無言の時が流れる。


 しばらくすると、地上に到着。係員の誘導に従い降りると観覧車を後にする。


 未だ無言のまま、先を歩く唯の姿を追いながら歩いて行く。


 「ねぇ…お父さん。お腹空かない?」


 「あぁ、そうだな。ちょっと待ってくれ」


 そう話すと、腕時計を見て時間を確認する。


 「実は、予約している店があるんだが…行かないか」


 「そうなんだ。どんなお店か楽しみだわ」


 「早速、案内を頼めるかしら…お父さん」


 立ち止まり話しかけてくる唯の横に並ぶと「任せろ」と話し遊園地を後にする二人。


 ─────


 「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですね」

 

 定員は、目の前にいる男性を見てそう話すが…少し距離を取り立っている唯に気が付くと、お互い軽く会釈をして「失礼しました。直ぐに席にご案内します」と伝える。すると、別の定員が現れ案内される。




 

 「いらっしゃいませ」


 「お連れの方が既に来られていますので、席の方にご案内させて頂きます」




 「ここの常連なのか」


 「常連と言う程でもないけど…贔屓にしてもらってるわ」


 「元々、あの子が働いていた事もあってね」


 「あいつがここでねぇ…。ウェイターをしている姿など想像出来ないが……」


 「そうね。残念だけど…基本的には厨房で料理を作ってたみたいよ」


 「それに私が来ると、毎回…料理長と名乗って味について聞きに来てたわね」


 「・・・」


 「そこまでだったら、可愛いものだけど…あの子ってば毎回来ては中々戻らないから支配人が仕方なく連れ戻しに来る事も度々あったくらいよ」


 「・・・今は、どうしてるんだ?」


 「今は...もう働いてないわ」


 「元々、あの子曰く…悪友?!と二人で頼まれてやってたらしいけど、二人とも辞めたって話よ」


 「その悪友ってのには…会った事あるのか?」


 「あるわよ。元々、ジンとも友達みたいだし…あの子が言う様には見えなかったわ」


 「その点だけで言えば…あの子の方が悪友側に見えるくらいだったわ」 


 「なるほど。まぁ、ジンとも友達と言うのなら大丈夫か…」


 そんな会話を席についてもしていると、唯は不意に回りを見渡し視線をそちらに向ける。


 支配人は、顔見知りである女性に短く会釈すると、二人のテーブルに静かに歩み寄った。


 「本日はお楽しみいただけていますか? 実は先ほど、少し変わった『Canis(カニス)』という名のヴィンテージが入荷しまして。非常に鼻が利くというか、しつこいほど余韻が残るタイプなのですが……。先ほど抜栓したところ、ちょうど今が『点』。まさに飲み頃といいますか、一点の隙もなくこちらを向いているような、そんな力強い状態です。もしよろしければ、お帰りの際にお持ち帰られますか?」


 唯は、お持ち帰るのを楽しみにしている姿が見て取れたが…男は「次回、また来れた時に二人で飲めたらと」答える。


 支配人は、その言葉に軽く会釈をして「かしこまりました」と姿勢を戻す。そして、再び会釈と共に「それでは失礼いたします。」と話し席を離れる。


 男は、何もなかった様に視線を少し下げる。


 「そんな風に見ないでくれ。次来る楽しみが出来て良かったと思わないか?」


 「視線を反らしてるのに私の表情が分かるのなら…どうして、こんな表情をしているのかも分かるわよね」


 「あんな魅力的な説明されて断る方がどうかしている」


 「だったら…なんで、断ったの」


 「アレを頼んだら…今日と言う日がアレで埋め尽くしてしまわないか」


 「そんなこと…ないと思うけど。でも、思い出としてはアレが印象的になるでしようね」


 「そうはしたくなかった。だが、それは俺の独りよがりの傲慢でしかなかったな…すまなかった唯」


 こうも素直に謝る父親に言葉が出てこない唯。


 「ジンに…話をつけておくから。今回は許してくれないか」


 「ジンに話って…具体的には」


 「屋敷のワインセラーにある中から好きなのを一本だけ無償で飲めるように話をつけておくと言ったら許してくれるか」


 「それなら…許してあげなくもないわ。此処に来る手間もなく、良いお酒が飲めるんだから」


 そう話す声色の唯に、いつの間にか視線を唯に向けて笑みを浮かべる。


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