カイコウ
テラスに座り寛ぐ一人の男。
すると、そこに女性が近付いてくる。
すいません。今って…お一人ですか
良ければご一緒しても宜しいでしようか。
申し訳ないですが…待ち合わせをしているので、また何処かでお会いした際に声を掛けて頂けたら幸いです。と、軽く頭を下げる。
女性は、男の態度に「では、またの機会があれば」と同じく頭を下げて去って行く。
それから程なくして男の座る席に
女性が腰を降ろす。
相変わらずの人気ですね。
いつもは目立たない場所を選ぶのに
今日に限って気分が違うのかしら。
何故か席に座るなり機嫌が悪い女性。
別に、私から声を掛けた訳ではないんだから...そんなに機嫌を悪くしなくてもいいだろう。久しぶりの再会なのに…そんなに膨れてたら母さん譲りの素敵な顔が台無しだぞ唯。
まぁ、その膨れてた姿も滅多に見れるものじゃないから見ていて悪い気はしないが…。
唯が不機嫌なのを物ともしない男は、唯の手元に飲み物がない事に気付くと…飲み物は何がいいと質問する。
そんな態度の男に、今の自分の態度が幼稚だと思った唯はテーブルに両肘を置き、今の自分の表情を隠す為に両手で覆うと…「同じ物でお願いします」と話す。
唯の行動に自然と笑みが溢れると立ち上がり、唯の頭を撫でて「只今、お持ちします。お嬢様」と声を掛けてカウンターに向かう。
そして、飲み物を買って戻ってくると唯の側に飲み物を置き、席に座り直す。
ねぇ…今日は、何処に行こうか。何処か行きたい所あるなら私が案内してあげるけど。
(切り替えの早さは俺譲りか)
唯が行きたい所に連れて行ってくれないか。
いつもそうやって私任せにするんだから。
仕方がないだろう。本来なら、こんな風にのんびり過ごす事などあり得ない身だからね。
それに、あいつは連れて来なかったんだな。
朝…服を選ぶのに顔を出した時は家に居たんだけど、屋敷を出る時に家に寄ったら姿がなかったのよね。と、人差し指を頬に付けて考え込んでいた。
あいつの事だから、俺達に気を遣ったんじゃないのか。やっぱりそうなのかな…そんな必要ないと思わない。テンも、立派な家族の一員なんだし。
そう訊ねる唯に、それか…
俺に会いたくなかったかの二択かもな。
また、私の知らない所で二人は喧嘩でもしてるのかしら。これだから内の男達は困るのよね。
とは言え、母さんとはちゃんと会えてるの。
私は、母さんとは月に何度か電話で話すけど、父さんとは仕事の都合上…メールでしかやり取り出来ないけど。
── とは週一・二回は会っているし、あいつも…月に数回 ── と会っているみたいだぞ。
まぁ、あいつの場合…仕方がなく会ってるみたいだから同情の余地があるがな。
そう話す父親の言葉に呆れた様子で、ため息を付く。
そんな唯に、最近 ── からこんな写真が送られて来たぞ。
すると、携帯を取り出し唯に写真を送る。
送られて来た写真を確認した唯の顔が次第に険しくなる。
あの子の仕業ね…。
よりによって、こんな時の写真を親に送るなんて。そう話す唯が見た写真は、屋敷の業務から逃げようとする凛を捕まえて叱責する姿だった。
しかし、合流した時の表情といい…叱責する姿も良い表情をしているな。親馬鹿と揶揄されても仕方がない発言だと思っていた唯。
そこに、不思議な言葉をかける。
唯が叱責している凛さんは…なかなか頼りになる子みたいだな。
ねぇ、私は凛ちゃんを叱責しているのに頼りになるって…どういう意味なの。
写真の状況と言葉を違和感に、そう問いかけずにはいられなかった。
どういう意味って…そのままの意味だよ。
何かあっても...凛さんが側に居れば
唯は安全だろうから安心したよ。
先輩としての威厳はこの際、置いておくとして…凛さんが後輩になって良かったな。
本人は唯の質問に答えたつもりだったが、唯には全く理解が出来なかった。
お父さん…今のが私の質問の答えなら、もう少し具体的に答えてくれる。言葉と裏腹に表情は笑みを溢すことはなかった。
え~と、じゃあ…一つずつ確認するから答えてくれ。大前提に、この写真を撮られた事を唯は気付いてなかったんだよな。
そうよ…全く気付いてないし、気付いてたら何か分かっている行動をとるもの。
そうだよな。では、次に写真の状況は…唯が凛さんと向かい合い凛さんが渋々頭を下げて視線を反らしている所までは問題ないな。
それは、写真を見た通りじゃない。
なら次に、この写真…唯を時計の中心に見立てて例えてもいいかな。
どうぞ…私が理解出来る様にお願いしますね。
そうしたら、唯を中心にして凛さんが十二時の位置にいると過程して場合…この写真は時計で言う九時~三時の間で写真が撮られているのは解るよな。
そうね。父さんの言う方向から、私も撮影されていると思うわ。
そして、この写真…遠目にしては二人の事が鮮明に撮影されている。そんな2人の姿を改めて見て気付く事はないか。
そう話すと、原点回帰する。
だが、最初と違い唯の反応が変わる。
そんな事ってありえるの…写真を撮られてる事に凛ちゃんは気付いてたって言うの。
どうだろうな…だが、そう思わずにはいられないだろう。
背中に回していた手は、撮影されたと思われる方向に「ピースサイン」をしている所を見る限りな。
これで、俺の言った「頼りになる」って意味が解った様で良かったよ。
唯が理解がした事に満足すると、飲み物を手に取り口にする。
ねぇ…私、今褒められてたの。
まぁ、状況が状況ですから褒められた事ではないのですが…そうですね。
あの人が…唯のお父さんなの。
不思議そうに首を傾げて質問する。
そうですよ。彼が、父親で間違いないですが…何か気になる事でも。
あの人…「こっち側」の人の様だけど、唯には「全く」その気配がないのが不思議で。
それは、彼女が…特別だからですよ。
答えの意味が解らず、再び首を傾げる。
しかし、気に留める素振りもなく…
「凛さん。読唇術が出来るのですか」と、質問する。
すると、親指と人差し指の指先の間を少し開けて答える。
それに納得したのか、これ以上質問することはなく「では、戻りますか」と声をかける。
その言葉に納得出来ない様子の彼女に「貴女のわがままを聞くのはここまでです」と諭す。
それに、反論する様に言葉を紡ぐが
「ここから先は、私達が出る幕ではありません。私達はただ…無事に帰って来る事を願うだけです」
でも、万が一の時は…貴女にも協力をお願いします。なので、今は退散するとしましよう。あちらも移動なさる様ですし。
とは言え、皆に用事と伝えて貴女の脱走を幇助した以上…何か見繕って帰らないと行けないですね。そう話すと先を歩き出す。
ねぇ、お姉ちゃんも…「あっち側」の人だったの。
彼女の言葉に歩みを停めると、貴女言う「お姉さん」が誰を指すのか検討がつきませんが…「あっち側」の人は多いでしようね。
あと、私から離れ過ぎたら貴女の分だけ買わずに置いて行きますから覚悟して下さいね。
そう言い放つと歩みを再開する。
彼女は男が見ていないのにも関わらず、男の言葉に頬を膨らませ首を左右に振ると男の後を追いかける。
なぁ…兄貴。あの女、中々の上玉じゃないか。
そりゃ...そうだろう。この国のモデルらしいからな。この雑誌を見てみろと雑誌を渡す。
なるほど。あの生け簀かない男の娘が、こんな美人なんて思わなかったですね。
何も知らなそうな男に、お前…本当に何も知らないんだな。あの男の嫁は ─── ── ─── だぞ。そのくらい有名な話しだろうが。
えっ…。んじゃ、今回を機に娘とお近づきになれますね俺…頑張りますよ。
(張り切るのは勝手だが、そんな生易しい状況にはならないと思うが…)
まぁ…期待してるぜ。呉々も空回るなよ。
其々の願望を秘め、歩み出す。




