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キゲン 2


 珈琲を両手に持ち、歩いていると対面から女性達が嬉しそうに歩いて来る。そして、此方に気付いた女性達が軽く会釈をするのに合わせて同じ様に会釈をしてすれ違う。


  相変わらず何処に行っても人気者だね。


 そう話すと、持ってきた飲み物を渡して席に座る。そんな事ないですよ…物珍しいから声をかけて来ただけだと思いますので。相変わらずの謙虚さだが、気に入った女性がいたのなら秘書に伝え対応させるが…お眼鏡に叶う相手はいたかい。そう質問する社長の言葉に耳を傾ける素振りもなく、遮る様に話し始める。


 そんな事より、このままでいいんですか…一斉送信の件は。あれ…君の所に迄話が回って来てるとは。社内秘と言う事を知らないのか…内の者達は。自分の行動を律する様子もなく他者に嘆かわしい言葉を発する。


 そんな社長に、今回の件…私に関わっていると思い、この様な行動に出たのではないのですか?飲みかけていた手が止まり、テーブルに飲み物を置くと此方に目を向ける。


    何故…そう思うのかな。


 社長は、発言に興味津々なのか言葉の続きを待っている様だった。先程、声を掛けて来た人達の中に重役と関わる機会があり聞いたそうです。最近、社長に挨拶に来られた人の中に…とある国のマフィアの人物に似た者が挨拶来たと。そして、その事を踏まえて今一度取引相手の見直しと事の真偽を委ねているとか。


 そう話す男の言葉に表情を変えぬまま…で、その内容に君は心当たりがあると言う事でいいのかな?


 此方の質問を出方を伺う様に質問して返す。


 そうですね…私達の事か解りませんが、今回挨拶に伺わせた者の中に内容に酷似した身内(・・)が居た事は確かです。それに関しては否定はしません。此方としては、あくまで身内…一個人の素行で身内共々邪険に扱うつもりなどなく、これは社員一同…彼の事情を知った上で選出した結果となります。ですので、今回の件で此方の会社との取り引きが破談になったとしても仕方がないと考えております。そう話すと頭を下げる男。


  あまりの潔さに呆気に取られる社長。


 なるほど…これは耳の痛い話だ。あくまで身内の所業と割りきれば白になるし、全てを引っ括めたら黒にもなる。肯定も否定も匙加減一つで全てが劇的に変わってしまう。すると額に手を当てて天を仰ぐ。


  お互いに視線を反らしたまま数秒が経つ。


 これは一体…何処までが、君の台本(シナリオ)通りなんだい。そう訊ねる社長に男は、これが台本(シナリオ)なら…お互い困らず、もっと穏便に方が付く台本(シナリオ)にしますよ。


  男は、社長の顔を見て苦笑いする。

 

 実のところ…私が此の国に足を運んだのは会長の指示があっての事なので。その言い方だと会長の指示とやらは…別の目的がある様な言い方だね。


 そして、その会長は…いつも通り海上でこれかな。と、両手を重ね何かを握る様に下から上に振り上げる素振りを見せる。ご想像の通り、会長は飽きずに海上に出ていらっしゃいます。私にとって今回の渡航は、会長の指示よりも大事ですが、それ以上に部下達の挨拶回りの方が大事なのです。


 会長の指示より優先か…すると、会長の指示とは神出鬼没(・・・・)の「あの者」に関係するのかな。


 私から言わせれば「かの者」に、電話でやり取りすれば済む様な要件をわざわざ直接伝えろとの指示でして。


 それを聞いて思い当たる節があるのか訊ねる社長。それは…近々「あの者」も出席すると言う(パーティー)の事かな。「かの者」が、(パーティー)に出席するのですか。その様だと違うようだね。


 それと、先程から聞き間違いかと思っていたが、君にとっては…「かの者」なんだね。


  私とは随分と印象が違うみたいだ。


 そう話す社長の好奇心に触れてしまったのか続きを気になって待ちきれない子供の様な目で訴えかけてくる。


 えーと、社長の言う「あの者」と私の言う「かの者」は恐らくですが…別人かと思います。私が思うに社長の「あの者」は「長髪」の人物であり、私の言う「かの者」は「短髪」の人物だと思いますよ。なるほど、君が接点がある方は…「弟」の方だったか。それなら納得だ。確かに私は「弟」の方とは接点はなくはないんだろうが、ほとんど知らないんだ。


 しかし、そんなに私の知る「あの者」と違いがあるのかい。そうですね…「かの者」は簡単に言えば良くも悪くも「切れ者」過ぎると言う事でしようか。「あの者」も、私が言うは烏滸がましいですが...あの歳で家督を継ぐのですから同じ様に「切れ者」と言わざる追えませんが「かの者」は「あの者」よりも「才」が飛び抜けていると感じます。


 そうなのか…私も「弟」の方と会ってみたいものだな。それで言うと「あの者」も出席する(パーティー)で「かの者」にも会えると思います。


 その言葉に頷きはするものの、やるせない思いを滲ませて笑う。


 確かに、出席出来れば一目見ることも叶うだろうが…残念ながら私には出席する資格がないのだよ。資格ですか…何か条件でもあるのですか。私も風の噂で聞いたのだが…招待状を持つ者のみが2人1組で参加が可能となる選ばれた者の(パーティー)との事だ。


 そうなんですね。もし、参加を希望されるなら私から「かの者」に取り入ってみますが…如何がなさいますか。


  いいや…気持ちだけで十分だよ。


 私が参加出来た所で「蚊帳の外」なのは間違いないからね。君に言い忘れていたが…参加される者達は、各方面の名の知れた人物や大物揃いと聞くからね。私が参加出来た所で値踏みされて仕舞いだろう。


 そう話し意気消沈する社長に声をかける言葉が見つからない男を他所に言葉を発する人物が現れる。


 やっと見つけましたよ…何処に言ったかと思えばこんなところで寛いで現を抜かしているとは。例の件はどうするつもりですか。


 社長しか視界に入ってない様子の口振りの人物に、男は口を開く。


 今回の件では、ご迷惑おかけして申し訳ございません。つきましては、此方の経緯をお話しさせて頂いたので、それを踏まえて判断をお願いしたいと思います。と、頭を下げる男。


 そう言う事だから…期限(・・)を設ける必要はなくなったよ。これで、君の仕事も少しは楽になるだろう。しかし、よく私を見つける事が出来たね…どんな手を使ったのか聞きたい所だが。


 何の事を言っているのですか…私自身の足を使って見つけたに決まってるじゃないですか。それと…貴方と既に合流されていたのですね。なら、話は早い…どうなされるつもりですか。

 

 そうだね…ここで判断を下す事も可能だが、場所を移さないかい。


  今度は逃げも隠れもしないから。


 そう話すと立ち上がり飲み物を手に持ち移動する準備をする。それに続く様に男も立ち上がり現れた秘書の後に続く様に歩いて行く。


 その際、屋上に来た時の様な皆の視線はなく…数名の人物の視線を感じ視線を向けると目を反らされる程度で済む中で、気になる人物を発見する。来た時は沢山の視線の的になり気に留められなかったが、花壇やプランターを手入れをしている業者の存在に気付く。


 君も抜け目ないね…出入り業者である彼女達までチェックを欠かさないとは。


  ここで私から君に忠告をしよう。


 あの出入り業者には、手を出さない方が身の為だよ。見惚れるくらい魅力的な女性達だが…「あの者」達とも接点がある様だしね。


 とは言え、お互いに気が合うのであれば介入なんて事はしてこないと思うけど…遊びで近づこうものなら危険(スリル)では事足りず地獄行きは確定だろうが。


 親切に忠告する社長に訊ねる為、口を開こうとするが…私は、そんな事はしていないよ。これも風の噂だが…帰らぬ人となった人もいるとか。


 そんな会話が後ろから聞こえて来ても歩みを停めず呆れた様で前を歩き、先導して屋上を後にする。


 先輩…今、私達の事を見てましたよ。


 後で、私達…秘書さんから声を掛けられるんじゃないですか。


 そうなの…あくまで私達の方を見ていただけで、私達とは限らないじゃないかしら。


 そう言われたら、元も子もないじゃないですか…夢くらい見せて下さいよ。


 そうね…夢を見るのは自由だけど、そろそろ休憩にするから皆に声を掛けて来てくれるかな。


 そう話し指示通り声を掛けに行き一人になる。


 さっきの会話…「あの者」って聞こえたけど、きっと「あの人達(・・)」の事よね。


 あれ以来(・・)…姿を見る事は度々あるけど、聞く限り元気そうで良かった。



     特に、()は……



 そんな事を思い、自分も休憩の準備に取りかかる。



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