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綻び


人の足音と、車の騒音。

街が奏でる雑多な音を背に、ビルの屋上から見下ろす人影があった。


「いた。あの二人……本当に仲がいいね」


「ね。あの二人の間に、秘密とかないのかな」


女の一人が、視線を外さずに言った。


「これで、十分かな」


――その後に続く話は、テンが売人たちから聞いたものだ。


視線の先にいる兄ちゃん達は、躯瓏會クロウカイの人間だ。

このエリアへ進出するための手始めとして、

ヤクの商売に手を出し始めた連中だと、そう聞いている。


「でも躯瓏會って、西じゃ名の知れた組だよな」


「なんで、わざわざ東に出てきたんだ」


「西だと勢力拡大が難しい。

 他の勢力と拮抗して、身動きが取りづらいからだろ」


「それでも、崩堕の縄張りに手を出す覚悟はあるってことか」


崩堕(ホウダ)

武闘家連中の集まりで、この辺りの人間なら、まず手を出さない相手だ。


「やり合う前に逃げるさ。

 逃げ足だけは速いからな」


そう笑っていた、と聞いた。


同じ世界に身を置いているなら分かる。

事が起きれば、親兄弟、親族に至るまで追い詰められる。


それが、彼らの“世界”。


「……だが、崩堕のトップ――疾風さんは違う」


墨は覚悟の証だったが、

それがなくても、行動だけで頭まで登り詰めた人だ。


事を起こした者以外には手を出すな。

そう下に言い聞かせていると聞く。

破る者がいれば、疾風自らが粛清し、

組から追放したうえで、厳しく処罰するらしい。


「それでも、組にいる以上は

 躯瓏會にも痛手は出るだろ」


「自分のシマを荒らされて、

 黙って見過ごす人じゃない」


「……それなら、問題ない」


そう言い切った声は、どこか乾いていた。


「俺たちは末端も末端だ。

 上に名前を覚えられているかも怪しい」


「荒らす役を押し付けられるのは、

 俺たちみたいな“鉄砲玉”だ」


「用が済めば、蜥蜴の尻尾さ」


「……随分と、疾風のことを買ってるな」


「入る組、間違えたんじゃないのか」


「もっと早く知ってたら、

 何が何でも崩堕に入れてもらおうとした」


「もっとも……もう叶わないが」


――ここから先は、テンが現場で見た光景だ。

「ねえ。もし、そんな慕ってる疾風に会えるとしたら?」

「どうする?」


「握手して、写真撮ってもらう」

「質問も、いっぱいしたい」


「……有名人みたいだな」


末端の人間からすれば、

頭に会って話せるだけでも畏れ多い。


テンは一拍置き、言った。


「じゃあさ。

 そんな君たちのために、一肌脱ごうか」


携帯を取り出し、短くやり取りを終える。


「五分後、会えるってさ」


二人は素直に喜んだ。


「ただし――」


「崩堕じゃ薬はご法度だ。

 君たちは“ファン”ってことで通す」


「……分かった」


やがて、空気を切り裂く声が響いた。


「おい。

 毎回、勝手なことばっかりしやがって」


姿を現したのは、疾風だった。


「で、呼び出した理由は?」

「ファンだって言うからな」


西から話を聞き、どうしても会いたかった。

そう伝えると、疾風は溜息をついた。


質問攻めが始まり、

テンとジンは自販機へ向かう。


やがて戻ると、疾風は完全に疲弊していた。


「写真、撮ったのか」

「……今からだ」


騒がしい撮影会のあと、

疾風に仕事の連絡が入る。


「悪い。行く」


「ありがとうございました」


去り際、テンは手を振った。

疾風は無言で中指を立て、姿を消した。


しばらくして――。


「……本来の目的に戻るか」


四人は、人目のない方へと歩き出した。



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