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さざ波


 上空。


「どうでしたか? 了承の方は……」

 そう尋ねる第一秘書。


「相変わらず無機質な返答だよ」

 最初から結果が解っていた様な言い方をする大統領。


「では、どうしますか。このままでは……」

 問いただす様に話す第一秘書に、片手を上げて言葉を中断させる。


「まあ……どうにかなるだろう」


「何せ、これから向かう場所は

  あいつのいる国なのだから」


 他力本願にも聞こえる発言に、第一秘書は小さく頭を抱えた。


「そういえば……君の娘は、この国に

 いるのだったな。1日休暇を与えるから

 娘との時間を共に過ごすといいだろう」


 その言葉に頭を下げて感謝の意を伝える。


「但し、例の件がある以上

 余り気を抜かずに行動する様に頼む」


「ですが……それでは、私の抜けた穴は誰が」


「それは、私が引き継ぎましょう」


 タイミングよく部屋に入ってくるなり

 話に割って入る第二秘書。


「そうだね。その際は、彼女に

 君の引き継ぎを頼むとしようか」


「確かに、順当に行けば彼女が適任ですが

 彼女では不安な点が……それに……」


「まさかと思うが……君がそれを言うのかね」


 君も「同じ穴の(ムジナ)」だと言うのに


 第一秘書は、言葉を失った。

 口を開きかけて――結局、何も言わない。


 指示に従い、バインダーを入れ換えると退室した。


 第一秘書の姿が見えなくなると――


「良かったのですか……あれで……」

「まあ……平気だろう。それより、例の件は……」

「一応、連絡の方は取れましたが……なんとも……」

「そうか。なんであれ、連絡が取れたなら

 あっちから何かしらのアプローチ待ちかな」


 大統領は第二秘書からバインダーを受け取り、予定を確認し、返す。


 第二秘書が手にする。

 一瞬。

 ゴミ箱が小さく鳴る。

 第二秘書はバインダーを元に戻す。


─────


 扉をノックして「失礼します」と話し、沈んだ様子で入ってくる二人。


 そんな二人は、横に並ぶと息を合わせたかの様に「失礼しました」と一礼する。


 すると……扉の横の磨りガラスに、複数の人影が映っていた。


 それを見た二人が立ち止まっていると――


「冗談は、そこまでにして此方にこい」


 今までとは違う課長の声色に、渋々、課長の座る机の前へ移動する。


「話ってなんですか」


「下らない話なら仕事に戻りたいんですけど」


 全く、聞く耳を持たない二人に――


「書類仕事をしなくていいと言ったらどうする」


 突然の美味しい話に、千沙都は眉をひそめる。


「本当ですか。書類仕事……したくありません」


 言われた事を疑いもせず真に受ける麗。


「そうだよな。その代わり、別の仕事をしてもらうが……いいかな」


 その言葉に「案の定」と思っていた通りの顔をする千沙都に対して、麗は――


「やります。書類仕事じゃなければ、全力で頑張らせてもらいます」


 やる気で満ち溢れる麗を見て、満足そうな課長。


「麗、もう少し内容を聞いてから考えなさいよ」


 そう、麗を見て忠告するが、麗は聞いていない様子だった。


 すると「残念だ」と話し、机に肘を立てて手に額をつける課長。その際、麗から見えない様に視線を千沙都に向ける。


 そんな視線と目が合った千沙都は――


「麗だけで……どうにかなりませんか」


「麗なら、二人分の仕事しますよ」


 思い通りにさせたくないのか、それとも本当に嫌なのか、決してやるとは言わない千沙都。


「それが出来れば二人を呼んだりしない」


「なら、私ではなく別の人と麗で仕事させればいいのかと」


 その発言に何かを悟った課長は――


「本当に、それでいいのか」


「千沙都……隣を見ても同じ事が言えるか」


 課長に言われた通り、隣にいる麗を見ると――


「千沙都……そんなに私と仕事がしなくないのね」


「今まで、ずっと無理してさせてたの私……」


 珍しくしおらしい態度で詰め寄り、飛び込んでくる麗。


「ねぇ……どうなのよ……答えなさいよ」


 そんな態度に調子が狂う千沙都。


「そんな訳ないでしよう。二人でやりましよう」


「本当に……いいの? 後悔しない……」


「後悔は……するかも。でも、その時は、とことん付き合ってもらうから覚悟しなさい」


 二人の会話が成立すると、千沙都は課長を見る。


「その代わり、私達の書類仕事を他の人に回してもらえますよね……課長」


 顔は笑っているものの、脅しにも感じる千沙都の圧に「善処しよう」と話す。


 そこに、タイミングよく部屋の外が騒がしくなり、三人は扉の方を見る。


 先程まで磨りガラスに映っていた人影が、一斉に散って行く。


 すると――「邪魔するよ」と話し、扉を開けて二人に近づく人物。


「げっ……教官が、何故ここに……」


 二人は息を合わせた様に同じ発言をする。


「相変わらず二人は息が合うな」


 呑気に話す教官と、呼び出した二人との間に疎外感を感じた課長は、わざと咳払いをして存在を顕示する。


 そんな不機嫌そうな課長に「失礼しました」と話し、三人は課長の方に向き直す。


「その様子だと自己紹介は必要ないな。書類仕事に変わる仕事は警備部での仕事だ」


「報道で取り上げられてるから知ってると思うが、他国の大統領の来日の話は知ってるな」


「それに伴い……警護の人数を増やすため、他部署から人を集めてる訳だ」


「で、ウチからはお前達二人を選んだ訳だ」


 内容を聞かされても黙々と聞いている麗に、違和感を感じる千沙都。


「ねえ……麗。何か隠してるわね」


「書類仕事が嫌いなのは分かるけど、普段の仕事とは内容すら違う事わかってる」


「さっきから黙々と聞いているなんて、裏があるんでしよう」


「私を巻き込む以上……話してもらわないと割りに合わないわよ」


 裏がある事を確信して話す千沙都に対して――


栗花落(つゆり)……貴女の言いたい事はわかったけど、今は課長の話を聞きなさい」


 千沙都の肩に手を置き、窘める様に話す教官の言葉に黙って従う千沙都。


「まあ……二人の間にも思う事があるみたいだが、代表しての出向なので汚名だけは着て帰って来てくれるなよ」


 二人の温度差を心配する課長。そして、


「言っても無駄だと思うがお手柔らかに頼む」


「俺よりも扱い方を知っているみたいだから、気を病む必要はなそうだな」


 そう話し椅子から立ち上がると、一礼をして部下達を託す課長。


 一礼をして頭を上げた課長に「大事な部下をお預かりします」と話す。

「では、失礼します」

 そう言って、二人を連れて部屋を出る。


 渡り廊下に出る際……部署の仲間に呼び止められる麗を他所に、千沙都に声を掛ける教官。


「お前達の事だから問題ないと思うが、仕事に就く前に(わだかま)りは解消しておいてくれ」


「内容は違えど一歩間違えれば何時何時(いつなんどき)命の保証などない世界だから……後悔は残すなよ」


「わかりました」


 そう答える千沙都。


「おい、お前達……ここにも良い女が二人いるのに、麗にだけ媚び売ってるのか」


「麗も勘違いはそこまでにして、ついてこないと知らないからな」


 そう話す教官の後に続く様に歩く千沙都。


 それに置いて行かれないように、駈け足で後に続く。



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