ざわめき
朝、いつも通り朝食を取る二人。
すると、テレビから一つのニュースが飛び込んで来る。
本日、正午過ぎに───共和国の大統領が来日するとの事です。
それに伴い、一部の交通機関の利用が制限されます。
お出掛けの際は、交通機関の確認を忘れず外出されますようお願いいたします。
麗は、テレビへ視線を一瞬だけやった。
すぐに何もなかったように、食事へ戻る。
「で、麗は……警護に当たったりするの」
「……あんたね……。私が所属してるのは刑事部で、こう言う要人警護は警備部って部署がやるの」
まるで子供に言い聞かせる様に話し、持っている箸でテンを指す麗。
「ここまで言って分からない事ある」
「つまり……部署が違うから私に言われても、要人警護なんて出来ませんって事ね」
「なるほど。お前が要人警護? ……似合わないな。ごめんごめん」
「アンタ……人が折角、子供でも解るように教えてあげたのに……そう言う言い方する訳」
「それに、私は……部署が違ったって声が掛かれば、要人警護だってやり遂げてやるわよ」
強気な発言に託つけて、とある提案をするテン。
「なら、言葉通り……要人警護をする事があって成功したら、豪華ディナーに連れて行ってやるよ」
「解ったわ。今の言葉、忘れんじゃないわよ」
「そうなった日には、私の前で土下座して謝っても許さないんだから」
そんな二人の空気を解く様に、マナーモードの携帯がテーブルの上で震える。
携帯を取り、着信相手を確認するテン。
だがその際……麗の方からも着信相手の名が見えてしまう。
それを気にしないテンは立ち上がり、携帯を取って自分の部屋へ向かった。
麗とすれ違い数歩、歩いた所で――
「麗。遅刻しない様に行ってこいよ」
「いつも通り、俺が片付けるからシンクに入れておいてくれ」
そう麗の方を向き直し、声をかけると――
歩き始め……部屋の扉が閉まる音がした。
「そんなこと解ってるわよ。言われなくても」
一人残されたリビングで、愚痴を零しながら食事を続ける麗。
電話を終え、部屋から出てくるテン。
「ったく、思い通りになると思うなよ」
愚痴を溢しリビングに戻って来たテン。
リビングに戻ると、麗の姿はなく……
残っていた食事を再開する。
食事を終え、台所のシンクへ行くと、傍に置かれた紙に気づく。
食器をシンクに置き、紙を手に取ると、そこには――
豪華ディナーの件、忘れんじゃないわよ!
いっーーーーちばん良い所で
ビッーークリする程の店じゃなかったら
許さないんだから。バーーーーカ ヽ(`∧´)ノ
内容にそぐわない達筆な字で書かれた手紙を読んだテンは――
「どんだけ行きたいんだよ」
「素直に言えばいいのに……ほんと、素直じゃない奴」
独り言にもかかわらず、思わず笑みが溢れる。
─────
職場に着いた麗は、いつもの様に挨拶をして自分の使っている机の椅子に腰を下ろす。
腰を下ろすと、机の上に置いてある「倒れた額縁」を起こし手に取ると……
「今日も、私……頑張ります。見守っていて下さい」
そう額縁に入った写真に語りかける麗。
「先輩、出勤する度に毎回している、その謎の儀式は……どうにかならないんですか」
麗の奇行を見かねた後輩が声をかける。
「べっ……別にいいじゃない」
「迷惑をかけてる訳でもないし、私にとっては願掛けの様なものなんだから」
それを聞いた後輩は……
「願掛けと言っても、その方……獅子署の署長……鴇冬さんですよね」
「ずっと思ってましたが、存命中の方を願掛け扱いするのは……」
流石の後輩も苦笑いをして言葉を濁す。
その言葉に、ぐうの音も出ず写真を抱きしめ、俯いてしまう麗。
「そこまでにしてあげなさいよ」
「アンタも、そんなことを言うために麗に声を掛けた訳ではないでしょ」
二人の様子を見ていた一人が、間を割って会話に入る。
「千沙都……アンタは分かってくれるのね」
「流石、私の親友」
そう言うと、千沙都と呼ぶ女性に飛び込む。
「はいはい。手の掛かる大きな子供だわ……」
(流石の私も、その奇行は……どうかと思うけど)
飛び込んで来た麗を抱きしめて宥める千沙都。
「で、そんなアンタも……麗に負けず劣らず、懲りずに麗に声をかけてるのね」
見下す様に冷たい眼差しで見る千沙都。
「今回は、今までとは違うんですよ」
「ちゃんと目的があって……」
そう話す後輩に、抱きついていた麗が後輩の方に顔だけ向ける。
「あんな仕打ちした後で、何を言うつもり」
そう話す麗に対して……
「麗先輩! 自分とデートして下さい」
頭を下げながら話す後輩。
だが、麗は千沙都と顔を合わせると、無言のまま千沙都の体に顔を向ける。
「はぁ……そのくらい自分で言いなさいよ」
ため息を付きながら麗に話す千沙都。
「麗には、同棲している男がいて、その人が好きだからデートはしないの」
千沙都の言葉に肩を落とす後輩。
それと同時に千沙都の言葉を否定する様に、麗の抱きしめる腕が締まり息苦しくなる。
「ちょっと麗……私が代弁してあげたのに文句がある訳。あるなら、自分で言いなさいよ」
すると、腕の力が抜け楽に千沙都。
「大体、同棲してる男と何もないなら紹介してって言ってるのに……紹介しないなんて、勘違いされても仕方がないじゃない」
と、話ながら抱きつく麗の腕を取り、身体から引き剥がす。
「ちょっと千沙都……もう少し、そのままでいさせてよ」
「やっぱり……なんともなさそうね」
「アンタ、そんな態度ばかりして真剣に向き合わないと痛い目みるわよ」
麗に対して警告する千沙都。
「おい、見ろよ。俺達の話を聞かずに純情を弄ばれた男が……また出たぞ」
三人のやり取りが聞こえていた人達が話す。
「よく……同じ部署の女に手を出す気になるな」
「噂じゃ……獅子署の協力者に飛び蹴りをかまして気絶させたって話だぞ」
「俺も、その話聞いたけど……本当らしいぞ。獅子署にいる知り合いが実際に見たらしい」
「動くなって言ってるだろう……とか叫んで走り込んで、近づいた所を飛び蹴りしたって」
「しかも、一人だけに留まらず……もう一人の協力者には手錠をかけて喜んでたらしいって」
反論したい所だが、言ってる事が事実の為、反論出来ずにいる麗。すると……
「そのくらい強気なくらいじゃないと、この部署は勤まらないでしょ」
「この部署に、私達を守れる騎士様は――いったいどのくらいいるのかしら」
そう強気に話す千沙都。
そんな人物の言葉に黙り込む周りの人達。
「流石、千沙都。私の親友」
「あはは……そんな大した事しないわよ」
(やってしまった……。男運が下がった気がする)
こんな騒々しいのに、何か腑に落ちない麗。
「そういえば……課長はいないの」
そう周りに質問する様に話す。
「確かに、こんな騒がしかったら怒鳴り散らかして注意するのに」
いない事を良いことに好き勝手言う千沙都。
「課長なら先輩達とすれ違う様に呼び出されて、どこかに行かれましたよ」
そう話す後輩。すると……
「俺に、用事でもあるのか」
「丁度いい。お前達に話があるから来い」
「守って貰える騎士様がいない二人」
皮肉混じりの言葉を言いながら、自室に向かって行き部屋の中に入る課長。
「どこから聞いてたのよ……てか、話って何」
「千沙都……何かやったんじゃないわよね」
「なんで、私って決めつけるのよ! やらかしてるのは麗じゃないの」
さっきのやり取りが嘘の様な醜態を晒す二人。
「あの~、ここで言い合っても解決しないので、課長の話を聞いた方がいいかと」
見かねた後輩が苦し紛れに二人を制止させる。
「そうね。ここで言い合っても、みんなの笑いの種にされかねないから早く行きましょう」
そう話す二人は、課長の居る部屋に向かう。




