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ほどけたあと


 Polaris の裏口まで来たテン達。


「なぁ……本当に、このまま店に入るのか」


「うん……ダメ……かな」


首を傾げながら答える凛。


「無理なら、強く掴んで伝えてくれ。離すから」


不安を感じながらも、そう話すテン。


「んじゃ、行くぞ。凛」


凛に声をかけ、裏口の扉を開くと――


書き入れ時なのか、皆、忙しくしていた。


すると、従業員の1人が声をかけてくる。


「あれ……今日来る日だっけ」


「近々、新作披露に来るって聞いてたけど、今日だったんだ」


だが、すぐ別の従業員に急かされる。


「ちょっと、忙しいんだから早くこっち手伝って」


「テンも、お爺ちゃんなら表だと思うから、邪魔にならない様に探してくれる?」


その去り際――


「あっ、そうだ。テン……女性をコロコロ変えて連れてくるのやめてくれると助かるわ」


皮肉混じりの言葉だけ残し、従業員達は去って行く。


テンは何も言わず、凛の手を引いたまま表へ回る。


途中、凛の手が少し強くなる。


テンは離さず、そのまま歩いた。


傍を通る従業員に声をかける。


「お爺ちゃんなら2階に行きましたよ」


「ありがとう」


テン達は2階へ向かう。


そして、2階に上がると――爺さんが腰を据えて待っていた。


「爺さん。遅くなってゴメン」


「あと、姉さん……来れなくなった」


そう話し近づくテン達に、爺さんはため息をつく。


それは仕方がないが……お前さん。


見せつけるように店内を歩き回るのは、どうにかならんのか?


何故ならテンは、凛の要望を無碍むげに扱う事が出来ず、


家からずっと手を繋いで今に至っていた。


「爺さん……言いたいことは解るけど、これは……」


そう弁明しかけて、テンは言葉を止める。


凛の様子を確認する為、振り返ると――


凛は、握った手と反対の手を口元に当て、


誰の目から見ても一目瞭然な程、赤面していた。


「私……手……離したく……なく……て……」


途切れ途切れの言葉に、テンは痛感する。


自分の不徳の致すところだと。


爺さんは、静かに釘を刺した。


もっと、この子……凛さんを見てやるんじゃ。


他でもない……この子を……。


テンは軽く頭を下げる。


「ゴメン……凛」


そう言って、優しく繋いだ手をほどいた。


それを見た爺さんは、少し間を置いて立ち上がる。


「済まなかったのう……凛さんやあ」


「お詫び言っては何じゃが、ケーキ持って来よう。待っておれ」


「飲み物も一緒に持ってこよう」


そう話し、爺さんは立ち去ってしまう。


幸い、爺さんが居た場所は――1階から分かりづらい場所だった。


2階は本来イートインスペースで、

テンが誘導して凛の希望に沿った席に腰を掛ける。


ほどなくして、爺さんがお盆を持って現れた。


「お待たせしたかのう。好きなだけお食べ」


出されたケーキは、お盆一杯に飲み物まで乗せられていた。


凛は、先程の事が気になるのか、テンをちらりと伺う。


テンは先に言った。


「気にしないでいいよ。遠慮せず食べな」


その言葉に安心したのか、凛はケーキを食べ始める。


テンと爺さんは手を付けず、凛の食べる姿と店内を眺めていた。


テンが小さく訊ねる。


「なぁ、爺さん。相変わらず2階は解放してないのか」


爺さんは頷く。


「そうじゃな。今は……このままでええ」


「そっか」


テンはそれ以上、踏み込まなかった。


しばらくして、2階にも休憩の従業員が増え始める。


爺さんが言う。


「そろそろいいんじゃないか」


テンも頷き、席を立つ。


「んじゃ、この前の約束を果す為……作業場借りるわ」


突然立ち上がったテンに、凛が首を傾げる。


目が合うとテンは笑った。


「食べてるケーキより、もっと上手い物を作って持って来るから待ってて」


凛は頷き、食べているケーキをフォークで切り分けて持ち上げ、


テンに食べる様に差し出してくる。


テンはその好意を快く受け入れ、ケーキを口にした。


「んじゃ、行ってくる。凛の事……頼んだ」


爺さんが、少しだけ厳しい声で言う。


舞とは仲良くやるんじゃあぞ。


いつもみたいに表にまで聞こえる声での言い合いはやめてくれ。


苦笑いしながら、テンは頷いた。


立ち去ろうとすると――


「いってらっしゃい……テン」


凛が優しく言葉をかける。


「ありがとう……凛。いってきます」


テンはそう言って去って行く。


── 別の場所 ──


ソファーに座って寛いでいると、携帯が鳴った。


「誰から来たんですか」


「私達を差し置いて他の人ですか」


そう話しかけて、ソファーの後ろから姿を現す2人。


男は画面を見て、短く読み上げる。


(あいつ…相変わらず律儀だな)


「Polarisで……本日限りの限定販売」


「個数限定。取り置きはしない、だってさ」


「どうするんだ。お前達」


2人は顔を見合わせる。


「……食べたいです」


「でも……一緒だと……」


男は肩をすくめた。


「なら、二人で行って来い」


「もし気付かれても……無視して買って帰ってくればいい」


「買ってくれば、俺が……もっと上手い物を作ってやれるしな」


「何処までも御供します」 


そう言って2人は抱きつくのだった。



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