手の温度
── あれから数日 ──
家事を済ませ、顔を伏せて休む午前10時過ぎ。
疲れもあってか、静けさがやけに心地いい。
そのまま、目を閉じた。
それから、どれくらい経ったのだろう。
――" それ " は、はっきり感じた。
" 気のせい " ではないくらい
" はっきり " と……
あの……重い……んですけど……
言葉が聞こえたのか " 退ける " 様子がなく
更に、重さが増してゆく。
さっきから……当たってるけど……分かってる……?
その言葉を聞いた " 者 " は
慌てて背中から離れる。
軽くなった身体を起こすと
後ろのソファーに座る " 者 " の横に座り直す。
やっぱり、凛だったか
目が合う凛は、両手を顔に当て
恥ずかしそうにしていた。
そんな、凛を見て……
可愛らし仕草…出来るんだね。
メイド服…似合ってるよ。
その一言で、凛の顔が一気に熱を帯びた。
照れ隠しみたいに、手が出る。
だが、その手 は" 無情 " にも手首を掴まれ " 失敗 " してしまう。
凛…どうしたの。
見ない間に女性らしくなったじゃん
姉さんに、何かされたの
そんな訳ないでしよう
元々、この子は…そういう子なの。
接し方が分かってなかっただけで…
そう話し、玄関の方から姿を現す唯。
でも、姉さんより強いのは変わらずか
皮肉を言ってみるが動じない唯。すると
そうね。でも、女性は……
強いのは結構。でも……可愛げって大事よ
動じない処か " マウント " を取ろうとする唯に苦笑しながら話を反らす。
" ところで、今日は…どうしたの。
何も頼んでなかったよね "
凛が、貴方に会いたいって言うから。
" あの日 " 以来、 " 母屋 " に来なかったでしよう。
改めて考えると、凛の事を任せて以来
" 1度 " も母屋に行ってなかった。
と言うのも、普段から
" 母屋 " に行く習慣がなかったのだ。
" ゴメン。凛…寂しかったよな "
言葉と共に、頭を撫でるテン。
すると、凛は… " しがみつく " のだった。
そして、その光景を見た唯は…
" 離れろ " と言わんばかりの " 圧 " を放ち
" 一歩 " ずつ近づいてくる。
唯が、近づくに連れて
凛の " しがみつく力 " も強くなってゆく。
ついに、ソファーの目の前に来ると
凛ちゃん……
" テンから離れましようか
その体勢も疲れるでしよう "
心配しているはずの声が、なぜか棘みたいに刺さる。
なので、この場は…大人しく二人のやり取りを見届けると心に誓っていた。
すると、凛は…首を横に振り
" 拒否 " しているようだった。堪らず唯は
" 凛ちゃん、もう一度だけ言うわね。
テンから…離れなさい "
2回目の " 警告" が入るが
離れる気がないのか、再び首を横に振る。
それを見た唯は1人、納得した顔をしていた。
すると、次の瞬間…
唯は、凛の背に手を回し、静かに体勢を崩させた。
" 突然の出来事 " に驚き、驚いた声と共に
" しがみつく手 " に力がなくなった所を
" 見逃さなかった " 唯によって距離が出来る。
離れた事に " 満足 " した唯は
凛から手を離し、テン達の間に
" 無理矢理 " 割って座る。
その行動により " 不機嫌 " そうにする凛。
だが、見て見ぬふりをする唯は " 平然 " と
テンに質問する。
" 今日は、何か予定があるの "
" 今日は、爺さんの所に行こうと
思ってたけど……どうして "
" お爺さんって…Polarisの "
" そうだけど…一緒に行く "
そう尋ねるが…唯は " 少し間 " をおいた後
凛の方向を向いて話す。
" 私が、仕事終わりに
買ってくるケーキがあるでしよう "
凛は、只々…黙って頷く。
" これから、テンが
そのお店に行くみたいだけど行きたい "
すると、凛は " 行く " と頷く。
そんな姿を見た唯は
" こう言う事だから10分後
この家の前で集合ね "
そう話すと、凛を連れて母屋に戻ってゆく。
── 10分後 ──
時間が来たので靴を履き外に出ると
そこには… " 凛の姿 " しかなかった。
不思議に思ったが、まずは鍵を閉め
戸締まりを確認した後…凛に訪ねる。
" 凛…姉さんはどうしたの "
質問された凛は…母屋がある方向を指で指す。
すると、一台の車が走ってくる。
走ってくる車は、テン達の前で停まると
車の後部座席の窓ガラスが開き
中には " 姉さん " がいた。
" ゴメンね。呼び出しが入ったの。今すぐ行かないと "
" だから、凛ちゃんと2人で行ってくれるかな "
" 本当に、ゴメンなさい。テン "
残念そうに話す唯の言葉を
黙って聞いていたテンは口を開き
" 姉さん。無理してない…大丈夫 "
そう問いかける。
唯は、テンの " 質問 " に驚いた顔をするが
すぐさま " 笑顔 " で答える。
" 何を言い出すかと思って聞いてれば
貴方は、本当に心配性ね。大丈夫よ "
" 私には、貴方やジン・爺や・凛
いろんな人が付いてるんだから "
その言葉に呼応する様に運転席の扉が開き
" 爺や " が現れ口を開く。
唯さんは、私が責任を持ってお守り致します。
ですので " 信じて " 頂きたく存じ上げます。
そう話し、淡々と頭を下げる爺や。
それを見たテンは " 姉さんを頼む " と
爺やと同じ様に頭を下げる。
そんなテンに爺やは、テンの肩を叩き
" 先に参ります " と声をかけると
車に乗り去って行く。
車は " ゆっくり " と走り出し " ミラー " で
テンと凛を確認する爺や。
その仕草に " 気づいた " 唯は
凛は… " あの子 " に似てるわね。
あの " 無邪気 " で然り気ない所とか。
車が走り去り、取り残された2人。
すると、テンは凛に向かって
" なんで、お前は俺の服を掴んでるんだ "
と、頭を撫でながら質問する。
だが、凛は不思議そうに頭を傾げるだけだった。
そんな凛の出方を伺っていると
" テンが寂しそうに見えたから " と、話す凛に
凛なりに " 心配 " してくれたんだな。
ありがとう。だけど、大丈夫だよ!
感謝の言葉を述べながら頭を撫でるのをやめ
服を掴む手を外すテン。
手を外された凛が " 膨れっ面 " になると
テンは " 困った顔 " をする。
困った顔をするテンを見て、何か思い付いた様に
膨れっ面をやめ、テンの手を取ると
" 早く行こう! テン "
そう話し " 満面の笑み " で、手を引き走り出す。
凛に、引っ張られ走るテン。
走り出しながら、止まる気配のない凛に
質問する。
" ねえ…凛。 Polarisの場所…解ってるの "
すると、その言葉に突然立ち止まる凛。
" 場所…分からない。 何処なの "
こんな潔い凛を叱るのは忍びないと思う
テンだが、握られた手と反対の手を
頭の高さまで振りかざす。
すると、凛は振りかざされた手を見るなり
握った手が強くなる。
そして、テンの振りかざした手が
振り下ろされると反射的に目を閉じる凛。
振り下ろされた手は、凛の頭の上に
置かれるだけで " 痛み " を伴う事はなかった。
不思議に思った凛は、ゆっくり目を開く。
目を開き目が合うと
" 案内するから、握った手を離してくれるか "
凛は、首を横に振り " 拒絶 " するのだった。
────
" ねえ…爺や。 テンが懸念する程
表情に出ていたかしら "
" どうでしようか…。私は何とも "
ただ、申し上げるとしたら…
" 唯さんが、握っている手が何よりの証拠かと "
そう言われ、改めて気付く唯。
知ってか知らずか…それとも、無意識なのか
太股の上に置かれた " 両手 " は
テン達と離れても尚、強く握られていた。
" 爺や。いつから気付いていたの "
" テン達と話している時からですかね "
その台詞に、言葉が詰まる唯。
" それは、最初から知っていたと言う事では "
" そうですね。そうとも言いますか "
そう話す爺やは、笑っていた。
" なんで言ってくれなかったの "
" 解ってるものかと "
白々しく話す声は、未だ笑っていた。
" これでは、いつまで経っても
テンを出し抜けないじゃない "
頭を " 抱え " 考え込む唯。
" そうですね。これでは、いつになることやら "
" 爺や… "
言葉と共に " 考え込む " 事をやめた次の瞬間。
" 普通、そこは慰める所ではなくて "
" 爺やには、血も涙もないのかしら "
話しながら、後部座席から詰め寄る唯。
" 唯さん、そんな体勢だと危な… "
突然のブレーキに、前に飛び出そうとする唯。
それを、腕を伸ばして受け止めるが
その反動で、後ろに引っ張られると
" 痛ーい、どうしたのよ "
" いきなり、横入りする車がいまして
申し訳ございません "
" 仕事の前に怪我をする訳には
行かないから、ちゃんと安全運転で頼むわね "
それと…
" 私に、何かあったらテンが黙ってないわよ "
そう話し " してやったり " と
言わんばかりの " 笑み " こぼす唯。
その姿を " ミラー越し " で確認する爺や。
そんな唯は、テン達と別れた時と違い
握りしめた跡だけが残り、手は静かに開いた。
そんな様子を見た爺やにも
思わず " 笑み " がこぼれる。




