裂けた夜 2
上へ向かっていたテン。
花火の音に紛れ、次々と“的確”に落としていく。
やがて、ある扉の前で立ち止まった。
「う~ん。どうしようかな」
なぜか腕を組み、考え込む。
上の階は、もう静かだった。覗けば――“制圧”されているのが分かる程度には。
「普通に助けても……面白くないし。かといって、思いつかないなあ」
無駄に一人“気苦労”していただけだった。
テンは考えるのを止め、気付かれないよう静かに扉を開ける。
扉が半分ほど開き、侵入しようとした、その時。
花火の光で、椅子に座り拘束された麗と――目が合ってしまった。
一瞬。
麗は、何もなかったように視線を外す。
侵入に成功したテンは、扉側の壁にもたれ、麗と対面する男の様子を伺った。
────
別地点。
「おい、八雲。テンが部屋に潜入したが、音声を拾えるか」
「なくないけど……タダではやだなあ」
「――貸しを忘れるな」
「借りた覚えないけど……」
「場所を変えた件、“貸しでいい”って言ったのはお前だ」
「それさあ……なかったことに……」
「しねえよ」
(……切り替えが、綺麗すぎる)
八雲はぶつぶつ言いながらも四角いケースを開き、手早く準備を始めた。
「んじゃ、こいつの出番だね」
音もなく、小型のドローンが浮き、ふわりと安定する。
「……ドローンなんて持ってたのか」
「持ってますよ! しかも特注品ね」
「音がしねえ。可笑しいだろ」
「……試作。羨ましい?」
「どこで手に入れた」
八雲は肩をすくめ、箱を閉じて投げ渡す。
「これを見て、解らないとは言わせないよ」
男がロゴを見て舌打ちする。
「チッ……なんであいつは、お前にこんな手に余る代物を……」
「それは……僕が可愛いからじゃないかな」
男が不敵に笑い、距離を詰める。
「もう一回言ってくれるか」
「ちょっと待ってよ!」
言い訳が途切れたところで、八雲は息を飲んだ。
「僕だって……出来るなら……道具に頼らず……自分の身一つで……役に立つ能力が……欲しかったよ」
子供みたいな顔で見上げる。
男はふっと目を逸らし、八雲を引き寄せた。
「……俺が悪かった」
そして、引き続き操作を頼むのだった。
────
室内。
男は椅子から立ち上がり、窓ガラスへ歩いて外を見た。
ひと通り眺めると、そのまま振り返り――窓にもたれ掛かる。
「どうやら、招かれざる客がいらしたようですね」
そう言って、自分が座っていた椅子へ視線を戻す。
「――あれ~、見つかちゃった。アンタじゃあ……気付かないと思ったのに」
「何故、気付いたのかな」
人質を他所に、二人は会話を続ける。
「……あんた達、なんでそんな平然としてんのよ」
「私の事……忘れてるんじゃないわよね」
取り残された麗が言う。
二人は、なぜか不思議そうに麗を見る。
「なによ! なんで二人共、そんな顔する訳」
そう言われ、二人は互いの顔を見合わせる。
「これ……どうする。解放していい」
「そうですね。もう、人質として価値がないですから」
流暢な会話をする二人。
「お前……価値ないから解放していいって」
「良かったね。おめでとう」
そう労う一方で、笑いながら話すテン。
────
別地点。
「ねえ。この展開ってさぁ……」
「言わずもがなだろう」
「だよね……賭けにもならないね」
「賭けてもいいが……外すつもりはないからな」
「それじゃ、賭けにならないよ」
「だから、それが八雲……お前だろう」
「なんで僕って決めつけるんだよ」
「俺が勝ちを譲らないからだ」
「なら賭けはなしだよ! しかし、あの銃――撃たれると本気で痛いんだよね」
「躱して気を抜くと、すーぐ当ててくるし…」
「……躱したか。躱せる様に調整されてただけだ」
「本気なら、蜂の巣だ」
────
室内。
「テン!早く拘束を解いて。そいつを一発、殴らないと」
「わかった…解放してやる。大人しくしてろよ」
「ちょっと…テン。冗談が過ぎるわよ」
動揺する麗と相反して冷静なテン。
そして、次の瞬間
「おやすみ…麗……」
その言葉と共に、テンは無言で銃口を揃える。
椅子に座ったまま、麗の身体から力が抜け――
椅子ごと後ろへ傾き、倒れた。
麗は、そこで意識を手放した。
「……今のが、どういう意味か分かっていますか」
男の声が低くなる。
「分かってる」
テンはそう言うと、“鋭い眼光”で男を射抜き、“威圧”する。
――次の瞬間、“ニッコリ”と笑って話し掛けた。
「それに、お互い……この方が都合がいいだろう」
その言葉に、男は無言になる。
「で、何故……ここに来た」
「お前達じゃあないだろう。麗を、ここに連れてきたの」
「そこまで、解ってて助けにきたのですか」
「花火まで打ち上げて」
「この時期の花火も……悪くないだろう」
────
廃墟の入り口までやってきた鴇冬。
すると、中から女性を抱き抱えて出てくる。
「テン! 何故、そんな手を選んだ」
「あぁ、手っ取り早く黙らせた」
「……中の状況は」
「兄貴が見てた通りだ。……手間が一つ増えただけ」
そう話し、麗を鴇冬に渡すテン。
麗を受け取った鴇冬は、顔をしかめたままテンを見る。
「おい、お前も念の為病院に行っておけ」
「俺は平気だ。そいつの事……頼んだよ。兄貴」
「……待て」
背を向けたまま、手を振るテン。
「これから、行かないとならない場所が出来たから行くわ」
「どこに行くつもりだ」
これから“親睦会”があるらしい。
その言葉を聞き、鴇冬は黙り込む。
そして、テンは“花火の終演”と共に闇夜に消える。




