裂けた夜
「こんなことして無事で済むと思ってるの」
扉を開けて部屋に入ると言われる男。
「やっと、起きましたか。あまりに起きないので死んでしまったかと」
そう話し、何故か安心している男。
「貴女に、もしもの事があれば拐った意味がなくなってしまいますから」
「それは、どういう意味」
「聞きたい事がありましてね……躑躅森麗さん」
「私の素性を利用するつもり」
「利用出来れば、良かったのですが。利用するより直接貴女に訊ねた方が早いと思い、少し手荒な真似をさせて頂きました」
「一緒に居た子供は……どうしたの」
「子供ですか……。私達の目的は貴女だけでしたので子供の後始末に……」
その会話の途中、外からの大きな音に遮られて聞こえなくなる。
ヒュ~……ドン
その音と共に、季節外れの“花火”が打ち上がっている。
廃墟群の四方から、花火が次々と打ち上がっていく。
麗の目の前にいる男は、部下と連絡する為、無線機を使い呼びかける。
「何か異常はないか」
問いかけても反応しない無線機に――
「おい! 聞こえてないのか。聞こえてるなら返事をしろ」
「はい……BOSS」
「大丈夫か? 何かあれば報告をしろ。必要なら、上にいる者を下に向かわせる」
「わかり……ました。何か……あれば……連絡します」
返答が花火の音に混ざり途切れ途切れに聞こえるが、確認が出来ると無線機を切る男。
「失礼しました。話しの途中でしたね」
「子供ですが、貴女を気絶させた後、見知らぬ男が現れて連れて行ってしまいました」
子供も警戒していたんですが、私達の側にいるより安全だと思ったのでしょう。
大人しく、その男と離れて行きましたよ。
「男は……どんな人だったの」
「まあ、良く覚えてないですが複数いた私達に臆せず声を掛けてきたのですから、余程、腕の立つ人物なんでしょうね」
その言葉に黙って考え込む麗。
「考えている所……悪いんですが、私の質問にも答えて頂きますよ」
そう話す男に麗は言う。
「……なんでしょうか。――紫苑さん」
男の目が細くなる。
「誰かと間違えてませんか。私の名前は……梶ですよ」
「そんな小細工が通用するのは貴方の部下だけでしょうね。少なくても瑜伽は……貴方の正体には薄々気付いている筈よ」
「まあ、こうなっては仕方がないですね」
「必要な情報だけ引き出して退場願います」
そう話すと銃を出して麗に向ける。
「とどめを刺したら聞き出せないわよ」
強気に話す麗に男は躊躇なく一発撃ってみせる。
撃った弾は麗の髪を掠めてると、後ろの壁面に埋まる。
「私の覚悟を理解してもらえたら幸いです」
すると、上着の内ポケットから一枚の写真を出す。
「この人の事を教えて頂けますか」
「なんで、あんた達が……この人の事を探っている訳。この人とは……」
「あの財閥の敷地で暮らしていて知らないとは言わせませんよ」
「少なからず接触があるのは確認済みです」
そう言うと、見せた写真に火をつけて燃やし始める。
「なんで、写真を燃やす必要が……」
「そんなの証拠を残さない為ですよ。それより早く、写真の人物の事を教えて頂けますか」
「こう見えて私は短気なので、早めにお願いしますね」
笑顔でお願いする男に、睨み付ける麗。
そこに二発目の弾が再び麗の髪を掠めて、後ろの壁面に埋まるのだった。
────────────────
一方、下で“やり取り”していた男は――
「これで……いいんですよね。俺の事……見逃してくれるんですよね」
「よく見てみなよ。周りが……こんな事になってるのに見逃すと思う」
銃を突き付けられ、身動き一つ出来ずに冷や汗をかき、返答に困る男の無線機を回収する。
「仕方がないから行っていいよ。騒がず足元に気をつけて出口に向かうんだ」
そう、男の肩を叩き出口に誘導する。
テンの銃口は、男の背を外さない。
花火の音が重なり――次の瞬間、男が沈んだ。
テンが近づきながら呟く。
「見抜いたか……」
疾風は短く返す。
「なんとなくな…」
そう話し、倒れた男へ視線をやった疾風が、テンの隣へ寄る。
「あっちの部屋に……お宅のポンコツがいるから」
「兄貴の言う通りに頼むよ」
「俺は……じゃじゃ馬を助けに行くから」
疾風に声をかけると別れる二人。
────────────────
しばらくすると、扉を開く音が聞こえ、気絶して倒れてるふりをする。
「早く起きろよ……燎。気絶してるふりをしてるのは解ってるから」
行動を見透かされる燎。
あまりにも簡単に見透かされ、意地を張り起きない。
「起きないんだな。なら、どうなっても知らないからな」
すると、その言葉と共に部屋から気配が消える……。
少し様子を伺ってみるが、戻って来る気配もない。
不思議に思い、起き上がり部屋を出る。
廊下に出ると……“惨たらしい光景”が広がっていた。
花火の灯りで途切れ途切れに明るく照らす廊下には、見える限り身動き一つせずに倒れている人達。
「コレって、あの時と……」
「それ以上、その事に関して触れるな」
そう言われ背後を取られる。
首に鋭い物が当てられ、首筋から血が流れてるのを感じる燎。
「兄貴……ですよね……。離してもらえますか」
そう言われても首に突き付けた物を当てたまま――
「何故、あいつに疾風に貰った車などと見え透いた嘘をついた」
「それは……余りにも咄嗟の事で一番自然な流れだと思ったのですが見当違いでした」
「俺との約束を忘れた訳ではないな」
「もし、忘れているなら……お前を倒れてる奴らの仲間にする事など動作もないが……どうしたい」
そう話すと、今まで以上に強く押し当てて質問する。
「忘れる訳ないじゃないですか」
「俺は……疾風との約束を必死に守ろうと……」
話しの途中で会話を遮る様に聞こえてくる声。
「おい! テン……お前。あっちに燎なんていないじゃねえか」
「燎の奴が、何処にいるか教えやがれ」
そう話し、近づいてくる疾風。
「燎なら……この通り、ここにいるよ」
悪びれもなく拘束を解き、向かってくる疾風の方に向き直す二人。
「お前……なんで、くだらない嘘を付いた」
「それは……燎に少しお灸を据える必要があると思ってお前を遠ざけた」
堂々と疾風に話すテン。
「んじゃ、次こそ本当にじゃじゃ馬を助けに行くから二人共お疲れ」
と、話し離れて行く。
「疾風……。俺……約束を……」
「お前……その首から流れてる血を床に垂らすなよ」
「後で、サツ来るから容疑者として疑われるぞ」
「あと、そこら辺……むやみ矢鱈に触るなよ。同じく……サツに疑われるから」
内容は真面目なのだが、疾風の表情は笑いを必死に堪える様に話す。
「もしもの時は大人しく……豚箱に入ってくれ」
「お前の事は、忘れないから……な」
「俺……まだ兄貴と一緒居たいッス。豚箱……マジ勘弁ですって……」
「まあ、あいつに気付かれたのなら豚箱に居た方が安全かも知れないぞ」
「俺が庇ってやれるにも限度があるしな」
「そんなに……危険なんですか。あいつ……そんな風に見えませんけど」
平然と何もなかった様に話す燎に――
「今……あいつの片鱗を目の当たりにしたのに解ってないのか……完全に騙されてただろう」
「だって……あれは、疾風の声を元に予め繋ぎ合わせて作った録音でしょう」
「お前……本当に気付いてないんだなあ」
(“あれ”は……紛れもなく、あいつが俺を真似て話していた“声”だぞ)
「そんな事が出来る訳ないじゃないですか」
「それが……あいつは出来るんだよ」
「種があるのかすら謎だがな」
「こうなった以上は……身の振り方を考えておけ」
そう話し、燎をおいて先に出口に向かう。




