表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/36

布石


 とあるビルの屋上に辿り着くテン。

すると、そこには――一人の男が待っていた。


「お前の言った通り……来てやったぞ」

「俺が連絡する筈ではなかったんだがな」

「で、お前に助けを求めた奴の姿が見えないが……どこに行ったんだ」


「それなら……あそこにいるだろう」


そう言いながら、疾風は双眼鏡を渡してくる。

指を指す先に、りょうがいた。


「……あいつ、何してるの」

「めちゃくちゃ挙動不審だけど」


「燎のいる先にある廃墟はいきょを見てみん」


言われた通り覗くと、見覚えのある男たちが廃墟の入り口に立っていた。


「もしかして……あの廃墟にいるのか」

「らしいんだよね。燎……曰く……」


「それだけ……? 麗たちは確認出来てないのか」

「廃墟の上の方……見てみなよ」

「子供は解らないが……麗さんは居るだろう」


覗く。

窓ガラス越しに、拘束された麗の姿が見えた。


「で、責任を感じて……あいつは助けに行ったと」


テンは、視線を離さないまま続ける。


「正確には――お前に会わせる顔がないから、半分逃げるみたいに助けに行った。が近い」


その言い方が刺さって、テンの腹の底が少しだけ重くなる。


「で……あいつだけで助けられるのか」


「無理だろうな。きっと、仕事が増えるだろう」


疾風は淡々と返した。

その矢先だった。

燎は入り口に立つ男に捕まり、廃墟の中へ連れて行かれる。


「……あの~。早速、連れて行かれましたけど。お宅のポンコツ」

「みたいだね……。大人しくここに居れば良かったのに」


テンは笑えないまま、双眼鏡を下ろす。


「どうする? 燎……晒し首にする?」


自分の部下のことだというのに、疾風は顔色ひとつ変えない。


「お前、そういう所あるよな」

「普段は真摯に部下を思いやるのに……大事な場面では、簡単に切り捨てる決断が取れる所。嫌いじゃないよ」


テンは短く息を吐く。


「……だから今、お前はそこにいる」


「……それで、どうする。二人で行くのか」

「流石に、一人……監視役が必要じゃないか」


その発言と同時に、屋上の扉が開く。


テンは、扉が開くのを解っていたかのように扉の側に立ち、“bow and scrape”の体勢を取り、屋上に来た人物を迎え入れた。


「こちらに、お越しになられますは――」


言いかけて、テンの声が途切れる。


「兄貴の……か……げ……」


顔を向けた瞬間、言葉が死んだ。


「なんで、兄貴……本人が来てんだよ」

「俺は“影”に連絡したはずだぞ」


「影は……留守番だ」


来訪者は、悪びれずに肩をすくめる。


「こんな面白そうな事に、私がいないなんて――あり得ないだろう」


そう言って、テンの持っている双眼鏡を取り、状況を把握する。


「んじゃ、お前達は早く助けに行って来い」

「ここで周りの状況は観ててやるから」


鴇冬は、もう指揮を取り始めていた。


「お前達、極力……建物の中は触れない様にしてくれ」

「タイミング見て要請する」

「その時に、君達の痕跡が見つかると面倒だから」


忠告だけ置いて、二人を下へ向かわせる。


二人が地上に辿り着き、廃墟へ向かうのを確認した鴇冬が、ひとりごとのように呟く。


「さて、アイツらは――“何”をするつもりなんだ」


鴇冬は、双眼鏡越しに様子を伺い続けた。


――別地点。


テンと疾風は、麗たちがいると思われる廃墟の側まで辿り着き、物陰に隠れる。


「ここから、どうする」


「まさか、考えなしに強行突破きょうこうとっぱするんじゃ」

「てか、疾風は素手で乗り込むつもり?」


「そうだけど……お前がいるなら、俺の出番はないだろう」


「まぁ……それもそうか」


テンは視線だけで廃墟をなぞり、釘を刺す。


「んじゃ, 兄貴が言ってた事――燎に、必ず守らせて」

「この後、どんなモノを見ようと」

「そして、疾風は燎を救出後……廃墟を離脱。帰っていいから」


「もちろん。今日の出来事は……他言無用たごんむようだから」


疾風の返事は軽いが、テンは軽く返さない。


「じゃないと……疾風」

「君なら解るよね。……この言葉の重みが」


そこでテンは、思い出したように顔をしかめた。


「そういえばお前……いつの間に車なんて買って、お古を部下に譲る奴になったんだ」


「はあ。何を分からない事をいきなり」

「俺は免許はあるが……車は買ってないぞ」

「お前が必要なら車を貸してやるから、その分を有効活用しろ――そう言った覚えはあるけどな」

「……燎に、ホラでも吹かれたか」


その言葉で、テンは黙り込む。


――その頃。


「あぁ, 連れて行かれちゃった」

「ところで, あの人は誰なの」


待ち合わせ相手へ, 八雲やくもが無邪気に訊ねる。


「八雲。貴方……待ち合わせ場所を変えておいて、その態度なんだ」

「しかも、知らない人を追っかけてたなんて」


呆れた声。

八雲はあっけらかんと返す。


「ちゃんと待ち合わせ場所に向かってたんだよ。途中までは」


「向かってた途中に何があったの」


「すれ違いざまにテンの名前を出したから、気になって跡を付けたら今に至った」


相手は言葉を失い、手を顔に当てて俯いた。


「やっぱり, 僕の思った通りだ」

「テンが姿を現した」


八雲は興奮したまま続ける。


「けど……隣にいるヤツは誰~」


隣の人物を気にもせず、質問が止まらない。

視線を感じた相手が、渋々顔を上げて答える。


「あれは……崩堕ほうだの頭よ」


「へぇ……そうなんだ。若いよね。ウチらと変わらないんじゃない」

「やっぱり、あれかな。頭ってことは……一番強いんだよね」


隣の人物は八雲と疾風を見比べ、逆に問う。


「ねぇ……5段階で言ったら、テンはどの位置かしら」

「ピッタリ答えるのが難しいなら、小数点第一位まで使っても構わないわ」


「そりゃ……5段階なら間違いなく5だろうね」


即答。

隣の人物は、すぐ次を投げる。


「なら, ジンは5段階で言ったらどの位置かしら」


「そうだね。僕の知っているジンのままなら……4~4.5……かな」


悩みながらも答える八雲。


――そこで、隣の人物の声が変わる。

女の声が引いて、地声に戻る。


「じゃあ, 俺は……どの位置になる」


口調も, 芯のある男のものになった。


「忖度なしで言えば……3.8~4.3くらい」


「なら、八雲。お前自身、5段階で言ったらどの位置になる」


「そうだね。僕は、期待値を込めて……3.5~4だったら嬉しいかな」


少し照れながら言う八雲。


そして、一通り聞いた“男”が言う。


「詳しい事は解らないが、俺の見立てでは――おそらく崩堕の頭は……3~4って所だろう」


「えっ……嘘だよね……」

「そんなヤツが……テンの側にいるなんて」


想像以下の指標に、八雲は膝から崩れ落ちる。


「あり得ない。あり得ないよ」

「あの頃だって、親しくしてた奴はいたけど……あんなに楽しそうにしてなかった」


八雲は、錯乱しかけていた。


(そりゃ……そうだろう。だって、あの頃は……)


八雲が、笑ってない目で訊ねる。


「ねぇ……今ここで始末しまつしたら、何が起こるか」

「予想でいいから答えてくれるかな」


狂気の薄皮を被ったまま、目だけが冴えている。


「事と次第によっては……」

「アイツが“粛清”に出てくるかもな」


意外な返答に、八雲の口角が上がった。


「へえ……そんな事が起こるくらい、テンはお気に入りなんだね」


嬉しそうなのが、逆に気味が悪い。

男は不穏な空気を感じ取る。


「どんな顔をするのか……楽しみでならないなあ」

「悪いけど……巻き込み事故を被ってくれるかな」


冗談に聞こえない声で言いながら、八雲は肩に背負っていた狙撃銃のケースを下ろし、準備を始める。


「俺を巻き込むな」

「お前の無鉄砲に命を賭ける訳ないだろう」


男は不満をぶちまけ、八雲の首根っこを掴んで止めに入る。


「あの……僕は猫ではないけど」


八雲は、やっと正気に戻ったのか、狙撃銃を片付け始めた。


「まぁ、よくよく考えてみれば……顔さえ覚えておけば何時でも殺れるよね」

「テンの表情を直に見れないのは残念だけど」


「しかし、あの状態からどうやって気付かれずに潜入するつもりだろうね」


片付け終えた八雲が訊ねる。


「少なからず、このままでは100%バレるな」


「俺なら1人ずつ誘い出して倒すかな」


男の答えに、八雲は頷きかけて――やめた。


「無難過ぎる! 面白くない」


「なら, 八雲。お前ならどうする」


男が逆に訊く。


「そうだね……大きな音出して妨害するとか」


「大きな音って何だ。もっと具体的に言え」


「ちょっと待ってね……大きな音でしょ……」


少し間が空いて、八雲が弾ける。


「そうだ! 花火はなびなんてどうかな」


「現実的じゃない。今から用意する訳にはいかないだろう」


――一方その頃。

質問の答えに黙っていたテンは、ポケットの中で“何か”を確かめるように指を動かした。


「でもでも, 花火だったら入り口だけでなく、建物全体を攪乱する事だって可能だよね」

「確かに現実的ではないが、出来たら利点しかない」


そんな“たられば”な会話を続ける二人。


興奮冷めやまない八雲は、手を大きく広げて跳ねた。


「でさでさ、この夜空いっぱいに花火が打ち上がって鮮やかに彩るんだ」


――その瞬間。

夜空が裂けた。


男も八雲も、言葉を失う。

見上げた先に、あり得ないはずの光が咲いていく。


八雲が呆然と呟いた。


「……やっぱり、テンは凄いや」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ