遭遇
敷地の中を歩き、正門の傍まで辿り着く。
顔馴染みの看守と目が合い、テンは軽く手を振った。
それに応えるように、看守室の中からも手が振られる。
やがて目の前まで来ると、看守はキャリーケースに視線を落とす。
「これから出かけるのかい。
その様子だと、もう帰ってこないみたいだな」
「ご名答。さすがだね。
お土産は何がいい?」
「なんでもいいよ。嫌いなものはないから、
いつもみたいにセンスに任す」
看守の言葉に、テンは苦笑する。
「そもそも、サプライズ好きのお前が
言われたもの買ってくるわけないだろ」
「だよな。そんなつまらないこと、しないわ」
「分かったら、門を開けてやる。
さっさと行きやがれ」
操作盤に手を伸ばす看守に、テンは首を振った。
「わざわざ門を開けなくていいよ」
そう言って、潜り戸の方へ向かう。
「ちなみに――
お前の分は、ないからな」
潜り戸を勢いよく蹴り開けると、反動で何かが倒れ込む音がした。
テンは気にすることなく、看守に手を振って外へ出る。
潜り戸の外では、見知った男が立ち上がろうとしていた。
「随分、情けない格好してんじゃねえか。
これに懲りたら、やめとけよ……燎」
「やっぱり、お前かよ……」
不満そうに顔をしかめる燎。
「出し抜こうとしたのに、逆になるとはな。
心臓飛び出るかと思ったぜ」
「お前が俺を出し抜く?
いつもの調子で、分からされたいらしいな」
テンは不敵に笑う。
「そんな顔で言うなよ。言葉の綾だって」
燎が馴れ馴れしく肩を組もうとするが、テンはひらりとかわした。
「護衛も、今のままじゃ暇だろ」
「まあな。姉さんが檻の中に入ってるから」
その何気ない一言に、テンは笑った。
「……檻の中、ね。
燎も言うようになったじゃないか」
燎は、自分の発言に遅れて気づき、顔を引きつらせる。
「今の……録音とか、してないよな?」
「俺って用意周到なんだわ」
テンはそう言って、携帯の画面を見せる。
「……終わりました、俺」
「態度次第、ってところかな」
そう言いながら、テンは話題を切り替える。
「車、近くにある?」
「あります。念のため、パーキングに」
「じゃあ送ってくれ。
今日は、檻の中から出てこないだろ」
「それなら、テンさんの車――」
燎が言いかけたところで、テンの視線が鋭くなる。
「立場、分かってるよな」
テンが携帯を操作し、疾風の名前を表示すると、燎は深く頭を下げた。
「すいませんでした。こちらへ」
車を出し、駅へ向かう途中。
「この車……どうした?」
「疾風さんのお下がりです」
「いい上司だな」
「俺には、もったいないです」
しばらく走ったあと、テンがふと思い出したように言う。
「腹、空かない?」
途中のジャンクフード店に車を停める。
テンは車窓から人の流れを眺めていた。
「なあ、賭けしないか」
「どんな?」
「燎が選ぶあの人。
一人か、待ち合わせか」
燎は外壁にもたれて携帯を弄る女性を指差す。
「じゃあ、あの人で」
「清楚系ギャル、ね。
いかにもお前好みだ」
しばらくして、女性がこちらを見る。
燎が手を振ると、恥ずかしそうに手を振り返した。
テンは小さく舌打ちする。
「僻みっすか?」
「……で、答えは?」
「一人だな。
待ち合わせが来なかった」
「じゃあ俺は逆で」
燎が手招きすると、女性は近づいてきた。
「格好いいから、つい」
会話は弾み、二人は店の中へ入っていく。
車内に残ったテンの携帯が鳴った。
――助けて。
テンは短く打ち返す。
――自業自得。
やがて燎が戻ってきた。
「結局、友達来なくてさ」
「連絡先は?」
「それが……」
テンはポテトを頬張りながら言う。
「それは……残念、だったな」
車は再び走り出す。
駅前で停車し、テンはキャリーケースを引いた。
「ここでいい」
「了解っす。気をつけて」
ドアが閉まり、車はそのまま走り去った。
テンは振り返らず、人の流れに紛れて改札へ向かう。




