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初めまして女王様

「王様。王様」


「入れ。なんだ? 騒がしいな」


「たった今レヴォントレットから魔法官僚が到着いたしました。既に城の5層の客室に案内したとこのこと」


「ふう~やっと来たか。待ちわびたぞ」


 貴族や領主たちの新年の挨拶を終えたオラージュ王アウストラは書斎でひとり昼食を摂っていた。話してるうちに食べ終え、コーヒーを飲みながらモナーク特性のタバコをふかした。部屋中に甘い草の香りが漂う。


「で。誰が来たのだ?」

 

 くどい王に衛兵はわかりやすく伝えた。


「は。アウストラ様より要請をうけていた雪国の同盟国レヴォントレットから魔法官僚が来ました」


「お~やっときたか。では午後一で会うとしよう」


「あと15分。もう間もなくですが……」


「ああ構わぬ。客人だ。すぐに準備をせよ」


「はは!」



 一方、大仕事の前に緊張しているおふたり。


 休んでいたところベッドから起きて正装に着替えている最中だった。


「もう! やだフィオ様ったら向こうで着替えて」


「なんだよ。アヤネがこっちに来たんでしょ!」


「またまた~」


「からかわないでよね。これから王様に会うから緊張してるんだから」


「それは私も一緒」


「そうなの?」


「大人になっても緊張はするの」


「でも大丈夫さ。やり遂げようアヤネ」


「うん!」


 彼女は下着姿で仁王立ちした。


「……早く着替えてよ」


「あ。はい」


 二人とも着替え終えたので、部屋を出てロビーへ向かった。


「アヤネカッコいいよ」


「そうでしょ。ありがとう。いいお嫁さんになれるかな?」


「う、うん強い人は好きだよ」


「ふふっ」


 フィオにとって白金の鎧とマントを纏ったアヤネの姿は眩しくとても美しかった。



 ロビーへ着くとそこにレモンの姿はなく、オレンジの法衣を着た壮年の男がいた。


「こんにちは。初めまして私は大臣を務めるエールと申します」


「こんにちは。あのレモンさんは?」


「あの者は元々1層で仕事をする身です。同盟国のご客人を王城へ案内するなど恐れ多いことです。これよりは私がご案内致します」


「わかりました。よろしくお願いします」


 ――おかしいな。レモンさんが案内するわけだったのに。


「レモンは自分が案内すると言った様ですね。しかしながら本来、4層以上は限られたものしか入ることは許されないのです。職員も然り」


「不思議に思われても致し方ないですがこれはオラージュの掟なのです。どうぞご容赦を」


 フィオは気づいた。この男は人の心が読めると。すぐにアヤネに伝えたかったが、悟られてはまずい、深呼吸し瞬時に心を無にした。


「ほっほっほフィオ-ネ殿は中々優秀な魔法使いですな」


「いえ。そこまで優秀じゃないです。僕まだ学生なので見習いですよ」


「何言ってるの。フィオはとっても優秀です」


「やはりそうでしたか。私は代々魔法使いなので、わかりますその力」


「はい……」


 油断ならぬ人物だとフィオは思った。とにかく無心とし何も考えぬことに集中する。衛兵が扉を開けると広間に出た。


 少し歩いたところで正面に大きな階段があり左右にもあった。衛兵やら召使であふれている。


「ようこそ」


「どうも。こんにちは」


「さてこの右手の階段を上がった先。謁見の間に王はおられます。こちらへ」


 アヤネとフィオはエール大臣の後に続き階段を上がる。衛兵が二人いて扉を開くと短い通路があった。


「携帯されている武器はこちらでお預かりします」


「……承知しました」


 アヤネは腰のロングソードを衛兵に渡した。


 また扉があり、今度は大臣自らが開けた。二人を通すと大臣はすぐにその場を後にした。


「どうぞ王の前へお進みください」


「行くよフィオ」


「うん」



 王が居座る厳選たる光景が広がった。赤い絨毯に白の大理石の床、金のシャンデリアに無駄に広い空間。


 二人が通るたびに両側にいる衛兵が敬礼をした。皆、赤い制服の上に金色の鎧をまとっている近衛兵だ。玉座の両脇には数人の家臣と貴族たちが座っていて、王はそこにいた。


「よく来たな。オラージュ王アウストラ・カーレルヴァザリである」


「要請を受け、ただいま到着いたしました」


「うむ。そなたらが魔法官僚か?」


「いえ私は近衛隊長のアヤネ。この子が魔法学校の優等生フィオ。主君の命で我らが応じることになりました」


「そう簡単に官僚を送ってくれるとは思わなかったからな、まあいいだろう」


 アウストラ王ははふんぞり返っていたが、身を少し前に乗り出し二人を凝視した。


「ほお……アヤネ殿は武技が練られておる。そしてフィオ君は相当な魔力を持っているな。わしにはわかるぞ。その上絶世の美男子だな」


「あ、ありがとうございます」


――私は? 容姿は褒めないの? この野郎!


「そのたたちならば不満はない」


「ほんと可愛いわね! あなたこのままオラージュに住まない?」


 王が話している最中に貴族の女が割って入った。少し遅れて太った大臣が制止した。


「いえ任務を終えたら帰ります」


「学校卒業してからでも構わないわ。うちにも年頃の娘がいるからどうかなと思ってね」


「いや……」


「アンリ殿。まだ王が話しておられますぞ」


「ガシャボリの言う通りじゃフィオ君が困っているではないか、やめよ」


「王様。失礼いたしました」


「うむ。では早速だが仕事に取り掛かってもらいたい」


「プーシキン。プーシキンはおるか」


「失礼します。王様お呼びでしょうか」


 その姿は奇天烈と表現すべきだろう。下は緑のジャージに黒のハイヒール。上着は黄色のチュニックを着ていた。金色の長い髪を束ね、ピンクに雑食が混じったハットをかぶっていた。のっぺりとしているが美人で体の線が細いのがわかった。


「ああ呼んだ。今からこの二人を案内せよ」


「はは!」


「魔法官僚様、遠路はるばるご苦労様です。お待ちしていましたささ、ワイについてきてくだされ」


「よろしくおねがいします」


 プーシキンはやつれ顔で挨拶した。内心遅いと文句を言いたかったが王の前では改まるしかなかった。


「では我々はこれにて任務に取り掛かります」


 アヤネが王に言った。二人とも玉座に一礼し謁見の間を後にした。



「なあ。なあ君らさあ。どんだけ待たせんだよ観光してきたんやろ? え?」


「そうですね。色々と名所は見てきました」


「堂々と言うなよ!」


「すいません。でも長旅には必要なものですよ。この子なんかとっても楽しそうで」


「そうかよ! こっちは過労で死ぬとこやったわ。まあ来てくれてよかったわい」


「はい」


 プーシキンはぼやきながら案内をした。謁見の間から出て、大広間をでた。アヤネとフィオの部屋へ通じる反対側の扉を開け、右へ曲がった。


 また通路へ出て右に曲がる。正面に見えた扉の鍵を開け、ひとりずつしか通れない狭い通路に入った。


「ここや。ここが地下の刑務所へと続く道。内緒やぞ」


「はい」


「わかりました」


「しても。可愛いなあ坊やー!」


「え」


「眩しい! 可愛いすぎやろ。学校卒業してからでええからわ、わ、わ、儂の養子にならんか?」


「いや……それは無理です!」


「プーシキンさん。そうゆうのはやめてください」


「冗談じゃよ。おい! そう見つめるな~」


「やっぱ儂の養子になれ」


 アヤネの忠告は耳に届いてはおらずプーシキンはフィオに夢中になっている。もっと愚痴をこぼしたかったが、彼の美少年ぶりに圧倒され、その気は失せてしまった。


 肩くらいまで伸びた白金の髪にエメラルドグリーンの瞳。餅っとした頬にあどけなさの残る整った幼い顔。先ほどの貴族の女もそうだが関わった女性は誰しも彼と近つきたいと願うのである。それは、叶わぬのだが。


「下へ参りま~す」


 厳重な3重の扉を開いてプーシキンがボタンを押し、エレベーターに乗った。


――ここだったか。やはり最上階からしか行けないんだ。


 アヤネは納得し無口になっている。一方フィオは何か言いたそうな顔をしていた。目は笑っている。


「ん? 坊やどうしたんだ」


「あのビースト騎士の絶叫は聞こえますか?」


「な! あほ! 聞こえるかあんなもん!」


「あんな忌々しい声聞いたらいかんよ坊や。わかった?」


「はい」


「ふーむ。よろしい」


「怒ってますか?」


「お詫びにワイと混浴してくれるのか?」


「え……そんなのダメです」


「ちょっと! 何言ってるのですか? セクハラですよ」


「あん? なんや近衛」


「少年をからかわないでください」


「命令すんなや。見たところお前はお供やろ?」


「はい。お供ですよ。だから彼を色んなものから守る義務があります」


「な。なんやねん。わしがだらしない女みたいやんか全く」


「喧嘩は止めてください」


「おう。悪かったな坊や」


 アヤネの魔力はたいして強くなかったが、こちらに向けた殺気は相当なものだった上、体は引き締まっていて武術の実力があるのがよくわかった。事を荒立てなくなかったのとフィオに気を使いプーシキンは引き下がった。


「もうすぐ着くぞ。ここの刑務所は王に背いた政治犯ばかりや」


 ビースト騎士の絶叫は聞こえなかったが、地下3階へ着いた。厳重な扉が開いた。


「ここが。ベルサイユのいるフロアや。左を進むと休憩室、右手を進むとがあいつがいるところや」


「ここが……」


 二人はエレベーターから出た。


「たまに暴走するけど、まあ坊やなら大丈夫やろ。じゃあね~」


 そう言うとプーシキンはエレベーターで上へ行ってしまった。



「騒がしい人w」


「僕もあの人嫌い。でも目は寂しそうだったな」


「そこまではわからなかったけど。魔力は相当なものだったね」


「僕より強いよあの人」


「そう……敵に回したら厄介ね。でも私たち二人なら勝てるよ」


「相変わらず強気だね」


「あたりまえじゃん!」


 奇抜な衣装に強い魔力。プーシキンが女王誘拐の実行犯であることは間違いない様だ。


「アヤネ」


「うん。ここにベルサイユ女王がいる」


「フィオまずは休憩室に行こうか」


「え、そっち」


 二人は左の通路を進んだ。地下3階の牢は天井に明かりはあるもののどちらかといえばうす暗かった。少し歩くとその暗さを消すように照らしていた。ここが休憩室だろうか。


「こんにちわ」


「こんにちは。あの……看守の方ですか?」


「そう副看守長のアバローラだよ。よろしくね」


「よろしくおねがいします」


 お互いに挨拶し、自己紹介した。彼女は恰幅の良い中年のおばさんで、制服がはち切れんばかりである。スリーサイズはすべて100を超えるであろう。だが優しい顔をしていて、短髪だった。


「あんたたち同盟国の魔法使いだね、プーシキンから聞いてるよ。今やっと掃除が終わったところさ。不備があったらなんでも言ってね」


「ありがとうございます」


 地下1階の看守室にいるからと言い。その場を後にした。二人の為に設けたのだろうか、元々あったのかはわからないが、休憩室というには広すぎる部屋であった。


 明るさは魔法によるもので、ぼんやりとしていた。


 フィオがトイレと言って走って行き、アヤネは備え付けのコンロでお湯を沸かした。


「へ~割と綺麗ね。もうちょっと明るくならないかな?」


 天井に手をかざし少し明るさを調節した。医療魔法とこれくらいはアヤネにもできる。


 牢の休憩室というからもっと狭く汚い部屋かと思ったが違った。地下と言えども虫一つ見ないしここなら寝泊りも問題ないと思った。


「家具が色あせてないね。わざわざ作ったんだ私たちのために」


「うん。そうかもね」


「フィオ。大丈夫?」


「大丈夫だよ」


「じゃ。私も行ってくる!」


「もう~アヤネ先に行けばいいのに」


「お子様優先だよ~」


「子供じゃないよ!」


 ドアの向こうからからかうようにして聞こえた。フィオは女性の方がトイレが近いことを知っているのだ。


「お。気が利くねフィオ」


「お湯が沸いてたから。お茶入れたんだよ」


「ありがとうフィオ。入れるの美味いじゃん。いい旦那さんになるね」


「勝手に決めないでよね。寮生活だったんだからそれくらい出来るよ」


「そうですかー」


 二人はソファーに座り、熱いお茶を飲みながら少々くつろいだ。


「そんでさアヤネ。アバローラさんてすっごいデカいよね」


「そうねーってダメよフィオ、人の体型を馬鹿にするのは」


「ドスコイ! ドスコイ!って感じだよね」


「ほら~聞こえてたら大変でしょ。言うこと聞きなさい」


「すいません。でも実はアヤネもそう思ったでしょ?」


「ふっふっふ。さ~てお茶飲んだら行くよベルサイユ女王のところに」


 図星を誤魔化す為に話を逸らした。 


「うん行こう。女王様って美人なんかな?」


「そりゃ気立てはいいはずよ器量もそこそこあって、ちょっ。なに期待してんの。まったく! 男子は」


 いつものムードになりつつあったが、そうもいかなかった。テレサより授かった使命は目と鼻の先にある。



「ねえ、なんか置いてあるよ」


 それはプーシキンからの置手紙だった。


『魔法官僚どもよく聞け。ベルサイユの呪いが発動するのは夕方か朝が多い。牢の鍵はこの部屋に置いてある。精々がんばれ』


「全く。えらそうに」


「大変だったんかな?」


「それはわからないけど」


「見た目からしておかしな人だよね」


「そうねーで、鉤なんてあった?」


「ここにはないから向こうの部屋かな」


 扉を開けると、奥は寝室だった。ベッドがあり壁との間に鍵が掛けられていた。


「これか」


「あった? 三つもあるの」


「うん。だいぶ厳重みたいね」


 二人は部屋から出て反対方向。つまり牢の入口から右手の通路へ進んだ。しばらく歩くと黒い壁に対して目立つよう赤い扉が設けられていた。


「ここか」


「そう。フィオ準備はいい?」


「大丈夫! 早く行こう!」


「フィオ……」


「何?」


「これから何があっても私のこと忘れないでね」


「どうしたの? 守るって約束したよね」


「あ。そうだったね。ありがとう」



 アヤネは少し苦戦しながら厳重な扉を3度開けた。最後も手こずり彼女の不器用なところがたまに見えたのでお嬢様育ちなのかとフィオは疑った。


「こんにちは」


「え……」


「レヴォントレットより参りました私は執政の近衛隊長アヤネ」


「うん? でその子は?」


「フィオです」


「あら……待ちわびたわ」


 声を上げることはしなかったが驚いた様子で、フィオを見て次第に目を大きくした。


――やだ。ほんとうに美少年。


 黒髪のナチュラルロングに綺麗な顔だが気の強そうな目つきの女性が袋詰めにされ、ハンモックで固定されていた。彼女がララナガ女王ベルサイユである。


「君が来てくれたの?」


「はい。テレサ様の命により助けにきました」


「そう。ありがとう。とっても男前ねフィオ君」


「は……はい」


「魔法は優秀なんだって?」


「いえ、そんなでもありません」


「そうなの? ならあたしのこと助けられないわよ」


「ありえません。フィオはテレサ様が認めた優秀な魔法学校の生徒です」


「……あんたは何だっけ?」


「私は近衛隊長のアヤネです」


「ああそうだったわね近衛」


 フィオには惚れたが、アヤネには実に嫉妬した。自分より若く、キャラメル色の可愛いショートにベルサイユとは対照的な可愛さのある顔立ち、そしてスタイルが良く白金の鎧から谷間が見えているのだ。


「この子の御守ってわけね。なるほど」


「御守ではありませんよ。お互いに助け合いながらここにきました」


「なら錘の方かしら、あんた重そうだわ」


「はあ? あなたのほうが重そうですよ? おそらく私より背も高く……胸も大きいですよね!」


「ふんっ確かにね。揶揄っただけよ。そうムキにならないで」


「何なのですか? あなた。リスクを取ってここに来た私たちに失礼ですよ。女王のふるまいとは思いません」


「私はララナガの女王よ。覚えてなさい」


「知っていますよ」


「しつこい女」


「はい? それはあなたでしょう」


「二人とも喧嘩しないでよー」


 フィオの静止により二人は我に返った。


「ごめんねフィオ君。私が悪かったわ」


 ベルサイユは謝罪しアヤネは安心した。もっと癖のある人物かと思っていたがそうでもなさそうだ。今のところは。


「それではまず。その袋から解放します」


「ありがたいけどその前に、あたしの願いを聞いて」


「何ですか」


「あたしを助けるなら……」


「助けるなら?」


「あたしと夫婦になりなさい」


「えっ! それは」


「ちょっと。何言ってるのですか女王。フィオはあたしとなると約束しているのですよ」


「本当なの?」


「はい。僕はテレサ様と結婚してアヤネとも結婚します」


「あのーフィオ君さ。結婚の意味わかってる? 夫婦の意味わかってる? うん?」


「わかってますよ。それは一夫多妻です!」


「な、な、なんですってー!」


 この可愛い少年からそんな言葉が出るなど思いもしなかった。魔法官僚候補生の知能を見くびっていた。


「だ~としてもテレサさんとは歳の差があるでしょ?」


「あ……はい」


「もうお子様じゃないんだから。現実見なさい」


「はい。でも僕はテレサ様が好きです」


「好きなら好きで構わないけど? 今のあなたの実力で釣り合うかしら。年上とはいえ守ってもらうなんて男じゃないわよ」


「だから僕は決めています。あなたを救い出し立派な魔法官僚になってテレサ様に告白する」


「まったく頑固ね」


(気に入ったわフィオ君)


「テレサさんと結婚してどうしたいの君は?」


「一緒に暮らしたい。ずっとそばにいたい」


「それだけ?」


「はい」


「それなら。あたしと夫婦になってテレサさんも一緒に暮らせばいいじゃない? ああ近衛もいたっけ」


「む~」


「それでもいいですけど……」


「決まりね。じゃ早く解放してちょうだい。フィオ君」


「僕からもお願いがあります。ベルサイユさんのことは美人で好きだけど。よく知らないからもっと教えてください」


「ありがとう。うん、お互いを少しずつ知りましょう。そして我が故郷で結納を」


「はい」


――なにお見合いみたいになってんだよ。ふざけんなよこの糞アマ~。


「いくよ!」


 フィオが両手をかざし、ベルサイユはまばゆい光に包まれていった。


「この袋すごく硬い」


「フィオ。大丈夫?」


「うん。イケる!」


 裂ける音がし、ハンモックと袋が破け女王が降り立った。次第に光が消えてゆく。


「はあ~。 やっと解放された~」


 自由になったベルサイユ女王は黒い下着姿だった。背も胸のサイズもアヤネより大きかった。きれいな漆黒の髪を靡かせながら、背伸びをした。


「あっ」


「あらごめんなさい少年にはまだ早いわよね」


「……」


 フィオは恥ずかしそうに顔を背けた。ベルサイユは遠慮なしに体操をしている。


「とはいえ上に着るものはないの? どうしましょう」


「私が探してきます」


「あら、ありがとう」


「ところで、変わった下着ですね。それはララナガ人が履く褌というものですか?」


「はい? んなわけないでしょう。これか!」


 今まで袋詰め状態で目視はできなかったがそれは虹色をしていた。


「これは簡単にいえばオムツ」


「え!」


 驚く二人を横目にオムツを脱ごうとした。


「う~ん! やっぱり無理か」


「変に思わないで、眠ってる間にプーシキンに履かされた。ただのオムツじゃないわ」


「オラージュ城の空は見たわよね」


「見ました。あの虹色の階段と関係が?」


「そう。あれはね、こいつを通してあたしをエネルギー源として出来たのよ」


「えええ何それ」


「信じられないでしょ。でも事実よ。まったく屈辱で理不尽だわ」


「たぶん……階段が完成したらあたしは死ぬ……」


「……!」


「そんなのひどすぎるよ! 僕が外します!」


「フィオ君待ちなさい!」


 ベルサイユの制止を無視し、さっきまで恥ずかしそうにしていたフィオが真剣な顔になりオムツに魔法をかけた。


「ああー!」


 一瞬。小さな雷が発生しフィオを弾き飛ばした。


「フィオ! 大丈夫?」


「フィオ君!」


「はあ。はあ。はあ僕でも外すのは無理だ。どうすれば」


「無理しないの」


 アヤネはフィオの両手に手をかざし傷を癒した。


「あら。あなたも魔法使えたの? やるわね近衛」


「近衛! でもこれくらいはできます」


「ごめんねフィオ君」


 ベルサイユもフィオに駆け寄りかがんだ。


(胸をチラ見したわ……好きなのね~)


「これくらいは平気です」


「あたしの怪力でも魔法でも外れないとなると……いや。まずはここから出ることを考えましょ」


「はい」


「ところであんたたち。来て早々解放してくれたのはありがたいんだけど作戦はそれで大丈夫なの?」


「あ……」


「アバローラならともかく他の看守やプーシキンのエテ公が見たら大事になるわよ。来る可能性は低いけどね」


「隠密さんが言うには。作成開始は昼過ぎとのことです」


「なるほどね。じゃ明日の昼まではここにいるわ。ほらほら近衛早く着替えを取ってきて、この恰好じゃフィオ君が困るでしょ」


「わかりましたよ。今取ってきます」


「急げや急げよ」


「まったく余計なお世話です!」


 アヤネは走って客間にある荷物と着替えを取りに行った。フィオは大事なことを彼女に伝えるのを忘れていた事を悟りあたふたした。ベルサイユはフィオに遠慮せずなまった体に活を入れるべく動き回った。


「フィオ君。少しは免疫つけなさい」

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