ステージ50、イベント発生の件について
※ここも話を合併した関係上、加筆修正しております。
また、次の回からカクヨムでは掲載していない話になります。
「ステータス」
何度か言ってる内に平気になってきた言葉を呟く。
俺の名前の横にはステージ35の文字。金貨は現在7枚。
ステージ20を超えたあたりから、侵略者3人組のパターンが増えてきた。
「なかなか金貨たまんねえなあ」
部屋のテーブルには、あれからまたやってきたドワーフから買った、アイテムを収納できる袋がおいてある。
金貨50枚と値ははったが必須アイテムだと判断し、購入したのだ。
あの中にはまだ使っていないポーションが200本──途中から面倒くさくなって数えなくなったのだがおそらくそれぐらいだろう──入っている。
ベッドの枕の横に置いてある黄色い表紙の本を手に取る。
他2冊はテーブルに置いてあるが、これだけは暇つぶしに読めるよう、枕元に置いてある。
最初のページにかかれている『スライム』。
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HP 20000/20000
MP 0/0
スキル なし
攻撃力 ──
防御力 ──
俊敏性 350
特性 中に取り込んだものを溶かす。
溶かせないものはないが、ものによって時間はかかる。
魔法に弱く、物理に強い。
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「スライムって物理には弱いイメージあったけど、そんなこともないんだなあ」
この鑑定の書といっても過言ではない本に書かれたパラメータは、戦闘中に変動することも判明している。
侵略者達のページをふと眺めていた時に、スライムが侵略者達を包み込んだ途端にみるみると侵略者のHPが削れていったのだ。
「人が増えてくると面倒だけど、パラメータわかるの便利だろうな」
今はまだ、ピンチにも陥っていないし、ポーションの出番すら全くないが、侵略者を一撃で包み込めないだけの人数がきたり、先制攻撃をしてくるような敵が現れるかもしれない。
戦況をはかるいい目安になるだろう。
「はやく金貨たまんねえかなあ」
ベットに横になり、目を瞑る。
別にスライムだけでも問題はないのだが、正直マンネリと化してきている現状に俺は辟易とし始めていた。
せめて新しい魔物を召喚出来るようになれば……何か、変わるかもしれないのに。
そんなことを考えながら俺は今日も侵略者がやってくるのをひたすら待つのであった。
「スキップ機能はよ」
──アレから何度、同じようなことを過ごしてきただろうか。
気がつけば段々と戦闘時間が前に比べて長くなってきたような気がしなくもない。
「あー、疲れた」
「マスター? 疲れたですか?」
心配そうに赤い瞳を揺るがしながらスライムがこちらを見つめている。
「あー……いや、大丈夫だよ。 ごめんな、疲れてるのはお前の方だよな」
そう声に出して、触り心地の良いスライムの頭を撫でる。
こうすると毎回嬉しそうにスライムは目を細めるのだ。
「マスターをお守りするのが我らの役目ですから!」
「ありがとな」
おいで、と声に出すとスライムがヒト型から楕円形に姿を変えて俺の腹の上に飛び乗る。
楕円形の姿のスライムの頭だと思われる部分を撫でながら目を瞑る。
こうしてると落ち着くんだよな。
──気がつくと俺は真っ暗な空間に胡座をかいていた。
胡座をかいている俺は真っ暗な空間にいることになんの疑問も抱いていない。
それどころか呑気に物思いに耽っているようだ。
俯瞰していたはずの俺にも目の前の俺の考えが流れ込んでくる。
俺が初めて1位を獲得したのはいつだったろうか。
たしか、アレは──そう、リリースされたばかりのゲームに熱中していたときだった。
「嘘……だろ?」
目の前のスマホの液晶画面にはランキング1位のところに俺のアバターと名前が載っている。
「はは……嘘みてえ」
初めて獲った1位に胸が高鳴った。早速その画面をスクショした俺は、SNSにスクショした画像と共に1位獲得の喜びを綴る。
ネット民からはおめでとうの文字。
なんだか誇らしいような、擽ったいような、不思議な感覚に陥った俺はリアルの友達にもそのことを話したのだ。
しかし、反応は俺の予想とは全く違って「それ、なんの意味があんの?」だった。
ハッと、目が覚める。目の前にはすっかり見慣れ始めた天井が見えた。
あの真っ暗な空間は夢の中の出来事だったようだ。
「そりゃそうだよな。 俺が俺を見れるわけないし……なんで夢だと気が付かなかったんだよ夢の中の俺……」
久しぶりに夢を見たのに、あんな思い出したくもない昔のことだったなんて。
はあ、とどでかいため息をついて俺は起き上がる。
そしてあぐらをかき、何気なく「ステータス」と声に出した。
あれから俺のステージ数は49を迎えている。
「ようやくここまで来たのか」
感慨深さに胸が一杯になる。
「あれ? そいや向こうでこのゲームしてた時も、50の倍数で強敵が現れてたような?」
そんなことを一人でつぶやいた。
その時だった。
「マスター」
明らかにいつもよりも硬い声質でスライムが俺に声をかけた。
「緊急事態です。侵略者がまもなく……」
言い終わる前に、「エアーブレード!」という声が聞こえてきたかと思うと、突然扉が壊された。
「ファイアーボール!」
「ストーンアロー!」
扉の向こうに何かが見えたと思った時には眩しいぐらいに赤く光る何かが目に飛び込んできた。
「は?! 何!?」
「マスター!」
スライムの身体が大きくなったかと思うと、俺の前に立ちはだかり、ダメージを受けている。
スライムの青く透けた身体の向こう側から、3人の魔法使い──女が2人、男が1人いる──と、2人の剣士──どちらも男だ──、1人の大きな盾を持った男が部屋の中に入ろうとしてくるのが見えた。全員まだどことなく幼い顔立ちをしている。
途端、「イベント発生。勇者のタマゴ達襲来」という無機質な声が脳内に響いた。
「そうだ、これ」
いつ振りだろうか、この既視感は。
ゲームで見たことのあるシーン。
所謂、エリアボスの襲来だった。