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ワープする敵がきた件について




 噂をすればなんとやら、ってね。



「たんまたんまたんまー!!!」



 俺は今、宝箱をかかえながらおそらくダンジョンと呼ばれるのであろう洞窟の中で絶賛叫び声を上げながら逃げ回っている最中だ。


 すぐ後ろには蝙蝠のような魔物の群れがいる。



「やばいってー!!」



 どうしてこうなったのか──それは少し前に遡る。



「マスター!」

「主人」

「侵略者です!」

「……だ」



 金貨の枚数を数えていた俺に2人が話しかける。


 最近はガーゴイルは侵略者とは声を出さずに、スライムの侵略者ですに続けるように一言「だ」と付け足すスタイルになっていた。



「おー」



 頭の中でとりあえず17枚あることまで数えたのを忘れないように記憶しようとしている中、視界の端に見慣れない紫のローブのようなものが見えた。



「え?」



 初見の敵か?と、目線を机の上にある金貨から敵がいる方へ向けたとほぼ同時に「ワープ!」という声が耳に入る。



「っ!」

「あっ」

「マスター!」



 紫のローブを羽織った男がいつの間にか俺の目の前にやってきた。


 やばい──逃げないと、その場から離れる前にローブを羽織った男に腕を掴まれる。



「マーク!」



 男に触られた箇所が紫色に光かったかと思うと、魔方陣のようなものが浮かび上がる。



「なんだこれ!?」

「咆哮!」

「マスター!」

「トランスファー!」



 こちらに──おそらく目の前のローブの男を包み込もうとしているのだろう──広がりながら飛び跳ねてきたスライムの姿と、ガーゴイルがスキル咆哮を発動させたのとほぼ同時に敵の魔法が発動したらしい。



 咆哮の効果で目の前の敵が怯む前に魔方陣から漏れ出た紫の光が俺を包み込んでくる。



「え?」



 そして、いつの間にか俺は真っ暗な空間に立っていた。



「ど、どこだ……ここ」



 俺の声が反響して聞こえてくる。



「っつべて」


 辺りを見回していた俺の顔に突然冷たい何かが落ちてきた。



「なんなんだよ……」



 俺の問いかけが虚しく響く。


 それに応えてくれるものは何も無い。



「スライム……? ガーゴイル、いるのか?」



 ──反応がない。


 ここには俺しか居ないようだ。


 その場におそるおそる座り込み、地べたを触ってみる。


 真っ暗闇で何もわからない以上、手の感触でなんとか情報を得るしかない。


 手から伝わるのはひんやりと冷たく、ゴツゴツとした床だということ。


 そして時折何かが上から落ちてきてはぽちゃんと音を立てている。



「……洞窟、とか、か?」



 なんとなく連想したのは洞窟だった。



「明かりとかねえのかな……」



 不思議と恐怖心なんてものも感じず、俺はその場に這いつくばったまま動き始めた。


 声が反響しているということはそこまで広い空間ではないのだろう。


 ここが洞窟で正解なのかはわからないが、おそらくトンネルのような筒状なのではないかと予想をつけて、片方の手は空中を、残りの手は地べたを這わせる。



「っい!」



 何か突起物が地べたにあったようだ。思いっきりそこに膝小僧が当たり、痛みが走る。



「なんなんだよ……ん?」



 自分が膝小僧で踏んだものが何なのか、手で触れてみようとしたら、それが動いたのだ。


 小石だったのだろうか?


 なんとなくそれを拾い上げて、鑑定と呟いてみた。


 異世界転移ものといえば鑑定スキル持ってるものだからな。



「……」



 まあ、知ってた。


 うんともすんともしない状況に俺はなんとなく想像はついていた。


 そもそも鑑定スキルがあるならスキルのところに鑑定と書いてあるだろうし、図鑑も必要ないからな。


 とりあえず持っていても仕方がないのでその場に置いて引き続き俺は進む事にした。


 ──どこまで進んだのだろう。


 体感では結構時間も経った気がするし、移動もした気がするのだが、一向に状況が好転しない。


 強いて言うなら少し暗闇に目が慣れてきて、薄らぼんやり見えるような見えないようなといった感覚だ。



「ん?」



 空中を彷徨わせていた手に何かが触れる。



「壁?」



 触れたものが何なのか知るため、地べたを這わせていた手もそちらへと向ける。



「ん?」



 壁というよりは何かがそこにあるようだ。


 なんだかゴツゴツしていて、固く、そこそこ大きさはあるようだ。



「なんだろ」



 手探りながらも色々触れていると、途中で引っかかりを覚えた。



「お?」



 そこを重点的に弄っていると、持ち上がるような感触がした。うっすらと隙間から光が漏れ出る。



「……開く、のか?」



 思ったよりも重たい何かを持ち上げていくにつれ、中から光があふれ出てくる。



「まぶしっ」



 暗闇の中で突然光が目に差したせいだろう。目が眩み、顔を背けた。


 それと同時にガコン、と、鈍い音がしたと思うと、急に辺りが明るくなる。


 眩しさを和らげる為、手を顔の前で翳しながら、光の中をのぞき込んでみようとした時だ。


 目に飛び込んでみた()()に俺は思わず固唾を呑んだ。


 どうやら俺がさっきまで触れていたのは所謂(いわゆる)ダンジョンなどでお馴染みといっても過言ではない、宝箱。


 箱の表面にはありとあらゆる宝石が散りばめられ──THE・宝箱といった見た目である──金色の箱。



「すげえ……」



 中身は何だろうか、と箱の中に視線を向けた。その時だ。


 勇者のタマゴ達が襲来してきた時に聞こえてきたのと同じように、脳内に無機質な声が響いてきたのだ。



「召喚の指輪を手に入れました」

「魔法の腕輪を手に入れました」

「回避の首飾りを手に入れました」

「アイテムボックスを手に入れました」



 箱の中には無機質な声が口にしたのと同じ装飾品が置いてある。



「おお……え? え!」



 アイテムボックスという言葉に俺は大きな声が出た。


 とりあえず中にある装飾品を手にする前に、おそらくアイテムボックスであろうショルダーバッグを手にした。


 白い布で出来たショルダーバッグはかぶせがあるタイプで、ファスナーやボタンといったものはついていない。


 かぶせを捲ると、中身が開くようになっていて、アイテムバックというイメージ通り、色鮮やかなモザイクがカバンの中に広がっている。


 手を入れると明らかショルダーバッグの見た目に反したスペースがあって、ズブズブと腕が飲み込まれていく。



「すげえ……! 異世界モノで定番のアイテムボックスだ……!」



 まさか()()でも手に入るなんて。ゲームではアイテムボックスなんて出てこなかったが。


 俺は高揚感を高まらせながら、アイテムボックスを肩にかける。



「おおー!!」



 誰かがいるわけでも、目の前に鏡があるわけでもないのに、俺はその場でアイテムボックスを見せつけるようにポージングし始めてた。


 思う存分ポージングしたあと、俺は再び宝箱の中をのぞき込んだ。


 そして、中にある3つの宝石をひとつひとつまじまじと見つめてから身につけていく。


 最初に手にしたのは指輪。赤い小さな宝石が5つほど埋め込まれている銀色の指輪は細すぎず太過ぎない幅で、少し大きめのサイズだったのだが、右手の中指に嵌めた途端、俺の指から外れないよう縮んだのにはびっくりした。


 次に手にした腕輪は腕時計ぐらいの幅で全体的に金色。腕輪には真珠のような宝石が5つ埋め込まれていて、これも左腕に通すと手首の辺りで手から落ちないよう締められていく。


 指輪とは違い、少しゆとりがある。


 最後に手にした首飾りは革紐のようなもので出来ているロケットペンダントで、ロケット部分には緑の宝石が埋め込まれていた。首飾りをそのまま頭から通す。ロケットの宝石が思ったより重たい。



「装飾品は宝石が全部ついてるんだな」



 回避の首飾りはおそらく何かを回避できるのだろうし、魔法の腕輪は表現が抽象的過ぎてピンとこないが、この召喚の指輪は名前の通り()()()()()()()()()()指輪なのなら、スライムやガーゴイルを呼べるのでは無いか?


 それに、洞窟らしき空間であること、目の前に宝箱があること。


 もしかして……ダンジョンの中とか?



「てことは……魔物も出るんじゃ」



 ──なんて、口にしたせいだろうか。



「キキキキキキ」



 形容しがたい鳴き声のようなものが奥から響いてきた。


 甲高く、耳が痛くなる()()はまるで蝙蝠のような鳴き声で──「って、ええ!?」



 鳴き声が聞こえてくる方に視線を向けると、想像通り、蝙蝠のような魔物の大群がこちらにむかって飛んできている。



「やばいって!」



 蝙蝠の大群から逃れようと走り出そうとして宝箱から離れた途端、暗闇が再び現れる。



「いっけね」



 慌てて引き返し、少し──いや、かなりだ──重たい宝箱の蓋を開けた状態で走り始めた。



 ──これで冒頭へと話が戻る。


 俺が魔王城と呼ばれる部屋に居ないのも、一人でこんな場所にいるのも、宝箱を抱えているのも、蝙蝠のような魔物の大群に追われているのも、こういう事情があってのことだ。


 特にこの宝箱。


 一見お荷物にしか思えないが、中身(これ)が発光しているのを利用して、懐中電灯代わりにしないとどうしようも無いから仕方ない。


 にしても重いのと開けたままにしておかないと無意味なのと走りにくいという三重苦が問題だが。



「はあはあはあ」



 息が早々に上がり始める。


 特に何も考えず、ひたすら直感で走り続けているが、気のせいだろうか?


 走る先の道がだんだんと細くなってきている。


 ──下手するとこの先行き止まりなんじゃ。


 そんな最悪な想定が頭に浮かぶ。


 頭を振ってそれを否定し、大丈夫だ大丈夫だと心のうちで呟きながら足を止めることなく動かし続ける。



「はあはあはあ……あ?」



 奥の方に、薄らぼんやりと明かりが見えた。


 ──なんだ? 何かあるのか? ええいままよ!


 どうせ引き下がれないのだ。


 腹を括って俺は明かりめがけてラストスパートをかける。


 明かりも見えたし、手にしている宝箱を放り投げたくなったが、理性を総動員させて踏みとどまる。


 何かあるかもしれない。


 明かりの向こうも明るい保証なんかないしな。









風邪でダウンしておりました。


完治するまでは更新はゆっくりになってしまいます。


ご了承ください。

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