半端な決意
その後式は始まり二人は永遠の誓いを立てた。明るい彼女には沢山友人がいる。二人の祝福を祝い、皆が笑顔なこの空間はある意味で非現実的だ。そのまま披露宴会場へ案内され、皆特別な料理を食べながら新郎新婦との時間を楽しんでいる。旦那の招待客にはホテルの料理人達が集まっているのだから、今日のメニューはより一層シェフの力も入っているだろう。俺は親族だから、一番後ろのテーブルに新郎親族と並んで座っている。両親も親戚もいない俺を気遣って色々と話をしてくれた。
「皆様、そろそろ結びの時間がやってまいりました。楽しい時間は瞬く間に過ぎていきます。最後に、新婦ソフィアさんより、お兄様に伝えたいことがあるそうです。それでは一時、家族の時間を見守りください。」
会場内が暗転し、ソフィアと自分にスポットライトが当たる。ウェディングプランナーに立つように促され、彼女と向き合った。
「お兄ちゃん、今日までありがとう。普段こんな呼び方しないけど、一回言ってみたかったの。カイは、ずっと私のお父さんであり、お母さんだった。両親のことは何も覚えていないけど、カイが両親になってくれてたからずっと寂しくなかった。だからこそ、カイは誰よりも早く大人にならなくちゃいけなかったんだよね。学校が終わって、皆が遊びに行く中真っ先に帰ってきてご飯を作ってくれたり、友達と喧嘩して泣きべそかきながら帰ってきた私に何も言わずにずっと寄り添ってくれたり、思い出したらキリがないや。カイだって、やりたかったこととか自分の好きなことをしたかったと思う。こんなに我慢させて、今までごめんなさい。カイが無愛想になったのは私のせい。でもカイが誰よりも優しくて、正義感が強くて、困っている人を絶対に放っておけないの私は知ってる。冒険小説ばっかり読んで、本当は自分も色々な場所に行きたいはずなのに。分かってて私はカイに甘えた。だからもう、これからは自由に生きて。私は、今までもずっと幸せだったけど、これからはヨウルさんと幸せになる。私から解放されて、好きなこととか、気になることとか沢山して欲しい。私が奪ってしまった青春を取り返すくらい!今まで本当にありがとう。大好きだよ、カイ。」
そんなつもりは無かった。ただ、君が君らしく生きられたら俺はそれで良かった。でも、君がそう言うなら、俺は後悔なくこの役を降りることができる。
プランナーにマイクを差し出され、一言お願いしますと言われる。
「こちらこそ、君が幸せになってくれて良かった。俺も、これから好きなように生きる。だから俺の心配はいらないから。ただ、二人が末永く幸福でありますように。」
ソフィアがまた笑いながら、頬に一粒の雫が伝ったのを見た。会場内が拍手に包まれ、新郎新婦の二人は退場していく。さぁ、結婚式という非日常空間が幕を下ろし、現実世界の家へ一人で帰る。
「あ、お疲れ様です。リルムです。明日付で退職お願いします。」
上司が何やらひっきりなしに言葉を畳み掛けてくるが、電波が悪くて聞こえない。
「もう決めたので。あ、有給残ってましたっけ?まあいいや、荷物明日取りに行きますね。」
上司が何か言っていたがそのまま電話を切った。引き継ぎがどうとか言われるだろうが、まあ後は最悪政府側がどうにかするだろう。なんとなく、清々しい気分だ。
マンションのオートロックを解除し、自分の家の前に知っている顔があった。
「妹ちゃんの結婚おめでとう。そんなめでたい日に退職とは、君度胸あるね。」
「聞いてたのか?まあなんでもいい。そういうことだ。あんたの言うクローラ部隊、俺も参加する。仕事も辞めたんだ、今更この話は白紙とか言わないよな?」
「もちろん、心から君を歓迎する。ようこそ、世界の裏側へ。」
ラインはそう言って手を差し出した。妙に明るいその笑顔を未だ怪しいと思いながらその手を握った。自分がこの国を護るためのスパイになるなんて、思っても見なかった。それでも、もうどんな未来になっても受け入れるつもりだ。それに、彼がまだ生きているなら……もう一回位話がしたい。やったみたいと思ったから、そんな半端な覚悟だ。
「……てかよく辞めた連絡した次の日荷物取りに行くなんて言えるね。どこで鍛えたのよそのメンタル。」
「失うものが何も無いだけだ。」