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結婚式の意味

 ラインが家に来るまであと2日だった。社会人は暇ではない。仕事がなくとも何もない日はほとんどないらしい。今日は仕事は休みだが妹の結婚式がある。朝早くから式場に出向き、スタッフによって丁寧に親族控室に案内された。隣の部屋からは賑やかな声が聞こえているが、こちらは一人しかいない。自由に飲めるドリンクをひたすら飲んで、また新しく気になっていた冒険小説を読んで時間を潰す。騎士になりたかった主人公が次々事件に巻き込まれていきながら、沢山の人と出会って知見を広めていく物語の世界に思いを馳せる。その世界に没入していると扉がノックされて現実に引き戻された。


「リルム様、ソフィア様がお呼びですが……。」


「あぁ、今行きます。」


 本に栞を挟んで新婦の控室に向かう。妹は既に旦那宅で二人暮らししている。だから会うのは久しぶりだった。扉の先にはAラインのウェディングドレスに身を包んだ妹がいた。ヘアセットを終え、彼女の横にはティアラが置かれていた。


「来た!?」


「こういうのってまず旦那に見せるもんじゃないのか?なんで俺なんだよ。」


「久しぶりに会って最初に言う事それ?まあいいや。ねぇ!見てみて!!」


 そう言い両手を広げてくるくると回ってみせた。たくさんの布が重なったドレスがフワッと広がった。


「あぁ、綺麗だな。ドレスが。」


「怒るよ。」


「それで、何?」


「もういいよ!!妹の花嫁姿せっかく一番に見せようと思ったのに。その反応は無いじゃん!!……今日が最後だから。今日で、ちゃんと卒業するからさ。だから、最初に見せたかったのも……。」


 ソフィアはいつまで経っても子供のままだ。それはきっと俺の前だけで、外ではきっと立派にやってるのだろう。


「……綺麗だよ。もう少し明るい方が良かったけど。早く旦那さんに見せてやれよ。」


「もう……、だからモテないんだよ。まあいいや、式ではよろしくね。」


 照れ隠しと、ほんの少しの本心。今日の式で彼女を旦那さんの元にエスコートしてくれと頼まれていた。控室に戻り、再び時間を潰していると挙式の時間になっていた。チャペルは白を基調とした大理石と大きな窓が特徴で、外には噴水とプールが見える。披露宴のときに軽く外にも出られそうな雰囲気だ。ソフィアと腕を組んで彼女の旦那の下へゆっくりと歩いていく。ソフィアの旦那さんはとても穏やかでありつつ、きちんと筋の通った素敵な人だ。仕事は大手ホテルの料理人らしい。よく捕まえてきたなとも思う。


「後を頼みます。」


「必ず、彼女を幸せにします。」


 彼女の手を旦那さんに差し出し、しっかりと握らせた。少し微笑むと、旦那さんもクシャッと笑ってみせた。その時のソフィアの嬉しそうな顔は忘れない。きっとこの笑顔に惹かれたのだろう。この結婚式は、ソフィアにとっても俺にとっても一つの区切りの儀式になる。

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