クローラ
「もし聞いて、俺がやらないって言ったら?」
「何もしないよ。君がペラペラ外で喋らなければね。それだけ君のことを本気でスカウトしたいと思っている。だからこそ、こちらも情報を開示する。とりあえず名刺にも書いてあったクローラについて、今僕たちはこのチームを作ろうとしているんだ。クローラは、簡単に言うと最新型の人型ロボットだ。傍から見たらロボットか人か分からないほど高性能のね。だから自分の脳と、クローラに内蔵されているCPUを接続すれば、まるでもう一つの自分の身体になるんだ。それだけじゃない、クローラと接続していれば今すぐに全ての競技の世界大会で圧倒的な差をつけて優勝出来る程の運動神経も手に入る。もっと簡単に言うと、アクション映画のヒーローみたいなアクションも、君の想像一つで可能になるんだ。そのクローラを使って、諜報活動をこれからしようと考えている。そのクローラ部隊の一人として、君をスカウトしたんだ。」
非現実的な話でラインの言っていることを信じられなかった。まるで幼い頃憧れていたヒーローの世界じゃないか。それにもはやそんな現実は求めていない。それに、そんなことが本当に可能なのだろうかと疑ってしまう。何より、今一番気になるのはロードのことだった。こちらの理解が追いつく前にラインは続けていく。
「学校で習わなかったか?この国のロボット技術は世界一だ。過去には夢だった世界も、今は現実になってきている。そして、この技術を使えば、危険な諜報活動は格段に安全になるんだ。クローラは現地にいても、君たち自身はこの場から操縦できる。つまり捕まって殺されることも拷問を受けることもないんだ。画期的な技術であり、今までの常識も覆す。ま、それを広めていないのは我々なんだけどね。どう?興味出てきた?」
「まだ信じられない。なんで俺なんだ?」
「クローラの操縦士には必要な能力がいくつかあるんだ。君目がいいだろ?テトラクラマシーってやつ。女性は半分くらいこれなんだけど、とにかく色んな色が見えるんだよ。錐体が他の人より多くてね。あとは血液型とか利き手とか大したことない条件がいくつかあって、それに合う人でかつ、エージェントになれる人材ってなっかなかいなくてね。人手不足たりゃありゃしないよ。だから君を本気で必要としている。共に、この国と人々を護ってくれないか。」
政府という組織が相手ということもあって、それなりに信頼もある。嘘ではないことは確かだろう。だが、どれほど魅力的な話でも裏があるということを学んだのは社会人としての経験だ。現実を知りすぎてしまった。大人になってしまったんだ。ロードの話だって、本当か分からない。頭の中にある大量の情報が処理しきれずわけが分からなくなってきた。
「しばらく考える時間をあげるよ。1週間後、また君の家に行く。その日までに考えておいて。答えを待ってるよ、カイアン。」
ラインの話は終わった。実際とても興味がある。どうして自分が?ロードはどうなったんだ。クローラってなんなんだ。まるで映画の設定だ。非現実的な時間は終わり、施設を後にした。先刻までの話が頭から離れない。疑問が疑問を呼んで、頭の中が思考でうるさい。まだ休日は今日の午後と明日もある。なんとか、気持ちを落ち着けたかった。