情報管理局
休みの日にまで電車に揺られるとは憂鬱だ。しかも都市のど真ん中へ。政府に行くなんて、小学生の社会科見学以来だった。人工的な自然に囲まれた巨大な建造物を見るとあの頃を思い出す。あの時は、隣にうるさいやつがいたんだよな、と感傷に浸ってしまう。思い出の世界から現実に戻ってくると大きな扉の前には警備員が門番のように仁王立ちしていて大変入りにくい。そもそも入っていいのだろうかと、周辺を彷徨っていると門番の1人が声を掛けてきた。
「ここは政府の施設です。なにか御用ですか?」
「えっと、ここのラインって人に呼ばれたんですけど、中に入っても大丈夫でしょうか?」
彼にラインが適当に書いた招待状を見せると、警備員は目を見開いて紙と俺の顔を交互に見た。その驚きと歓喜が混ざったような表情から一度咳払いをして、警備員は言う。
「ここから先は機密情報の宝庫です。ですが、まあ大丈夫でしょう!ラインさんにも、そのまま連れてきて良いと言われています。こちらへ、ご案内いたします。」
本来なら別の手順を踏むらしい。受付を通ることもなく裏口のような場所から通される。
「ラインさんから直接お話が?」
「え、えぇ。そんなところです。」
目的地まで歩きながら警備員は気軽に話をしてくれていた。彼の名前はミヒルで、この施設のセキュリティや事務を担当しつつ、クローラ部隊としても活動しているらしい。クローラについて詳しい話を聞こうとしたが、詳細はラインから直接聞けとのことだった。かなり明るい性格のようで、すぐに仲良くなった。
「そっか、ついに計画が本格的に始動するんですね。」
「計画?」
「あれ?聞いてないですか?まあラインさん適当ですもんね。でもラインさんから直接スカウトされるなんて凄いことですよ。」
あの怪しい男が政府の中では慕われているようだ。やがて何階かは分からないがビルの高層に着き、一つの部屋の扉にノックをした。
「失礼します!ラインさん、お連れしました!」
部屋はモダンで近未来的な場所だった。スクリーンを必要としないモニターがいくつか映し出されている。その向こう側にあの怪しい男がいた。
「やぁ!待ってたよカイアン君。」
ラインは指を鳴らしてスクリーンを全て閉じ、座り心地の良さそうな革張りの椅子から立ち上がって笑顔で迫り手を差し出した。
「それで、クローラってなんなんですか。」
「そう焦るな、どうぞ座って。ミヒル、彼にミルクティーを。」
こういう時にミルクティーか?と思ったが個人的にはその方が嬉しい。会社の会議でも出されるコーヒーは苦手だった。ミヒルにミルクティーを出されてありがたく頂くことにした。アールグレイの香りが漂い、特に好きな紅茶で少し嬉しかった気持ちがある。ミヒルはまた後でと言って部屋を後にした。ラインと二人きりで向き合って座ると、部屋の静けさが気になってしまった。お茶を啜るとラインが話始めた。
「それじゃあ早速君がお望みの本題に入りたいんだけど、まず大前提として今から君に話すことは国家機密に値する話だ。そして、僕は君をこの国の諜報員としてスカウトしている。」
その言葉を聞いてお茶を咽てしまった。